◆抗生物質[Antibiotics]

 細菌やカビの産生する代謝産物で微生物やガン細胞等の代謝、例えば、細菌の細胞壁の合成、タンパク合成やエネルギー等を阻害する作用をもつ物質を抗生物質と言う。最初に発見され抗生物質の代表であるペニシリンは、細菌細胞の細胞壁の合成を阻害する。従って、原則として動物細胞には作用しないので、副作用はアレルギー等が希に認められるのみである。
関連 微生物

 微生物が産生し、他の微生物や種々の細胞の発育・増殖を抑制(阻止)する生理活性物質を抗生物質という。自然界、とくに微生物間では自己を守るため、相互に拮抗現象(antagonism)があると考えられ、他の微生物の増殖を阻止する化学物質をS.A.ワクスマン(アメリカ)がアンチビオティクス(生物に対抗する物質)と命名した(1942年)。
それより前、1929年に内科医であったA.フレミング(イギリス)が平板培地でブドウ球菌を培養していた際、たまたま青かびの1種ペニシリウム・ノタトウム(Penicillium notatum)が混入して、その青かびの周囲にはブドウ球菌が発育していないことを認めた。フレミングはその現象をブドウ球菌の発育を抑制するある種の物質が青かびによって産生されたと考え、その物質をペニシリンと名づけた。しかし、フレミングはその物質を分離するまでには至らなかった。その後、1941年にH.W.フローリーとE.チェイン(イギリス)が青かびからグラム陽性菌の発育を阻止するペニシリンを粗精製することに成功して、臨床的にも優れた治療効果があることが証明された。これは"ペニシリンの再発見"ともいわれている。そのことが端緒となって、第二次世界大戦下の欧米や日本で抗生物質の研究が開始され現在に至っている。
グラム陽性菌に有効なペニシリンが発見されて以来、結核菌に有効なストレプトマイシン(S.A.ワクスマン)をはじめとして、各国で微生物を対象として抗生物質の探索が行われ、有用な化学療法剤として開発されたものも多い。今までに約3,000種の抗生物質が研究され、実用化されている抗生物質は全体の約20%程度であるが、医薬、農薬、飼料添加剤、食品保存用の防腐剤などに多方面で使用されている。産生する微生物はおもにかび、酵母などの真菌と放線菌その他の細菌である。このうち放線菌が産生する抗生物質が最も多く、ほとんどが産生する微生物の培養で製造されている。また、中には培養で抗生物質を得てから、化学的にその誘導体をつくって、もとの物質より有効な半合成抗生物質も開発されている。
抗生物質は現在、阻止される対象微生物または細胞によって、抗細菌性、抗真菌(抗かび)性、抗原虫性、抗ウイルス性、抗寄生虫性、抗腫瘍(癌)性抗生物質に大別されている。一方、化学構造や作用メカニズムによっても分類される。作用メカニズムによる分類では細胞壁合成阻害(ペニシリンなど)、細胞質膜障害(ポリミキシンなど)、タンパク質合成阻害(ストレプトマイシン、クロラムフェニコール、テトラサイクリン、マクロライド抗生物質など)、核酸合成阻害(アクチノマイシン、マイトマイシンなど)、エネルギー代謝阻害(アンチマイシンなど)、補酵素合成阻害(チアゾリドマイシン)、脂 質合成阻害(セルレニン)などの抗生物質がある。
現在、医薬として一般細菌に有効なペニシリン、セファロスポリンとその誘導体、ストレプトイマイシン、カナマイシン、テトラサイクリン、エリスロマイシン、リンコマイシン、ホスホマイシン、ロイコマイシン(キタサシン)、バンコマイシン、結核菌に有効なリファンピシン、真菌に有効なシクロヘキシミドとグリセオフルビン、線虫に有効なエバーメクチン、ガンの治療に用いられるマイトマイシン Cとブレオマイシンなどが実用的に用いられている。また、農薬としてブラストサイジン、カスガマイシン、ポリオキシン、バリダマイシンAなどが用いられている。
しかし近年、抗生物質の乱用によって、それらの薬剤耐性菌が出現しているが、とくに最近、メチシリン(ペニシリンの誘導体)耐性ブドウ球菌(MRSA)やバンコマイシン耐性腸球菌(VRE)が出現して問題になっている。一方、これらの抗生物質はその特異的な作用メカニズムから生化学的試薬としても用いられ、多くの研究成果があげられている。また、特定の抗生物質に対する感受性に基づいて、細菌の鑑別あるいは防腐剤として食品の保存などに利用されている。なお、高等動植物が産生して、微生物その他の細胞の発育を抑制する物質は一般的に抗生物質にいれないこともある。

関連 ブドウ球菌
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関連 かび
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関連 放線菌
関連 細菌
関連 抗細菌性
関連 抗真菌(抗かび)性
関連 抗原虫性
関連 抗ウイルス性
関連 抗寄生虫性
関連 抗腫瘍(癌)性抗生物質
関連 ポリミキシン
関連 クロラムフェニコール
関連 テトラサイクリン系抗生物質
関連 マクロライド抗生物質
関連 マイトマイシン
関連 アンチマイシン
関連 チアゾリドマイシン
関連 セルレニン
関連 セファロスポリン
関連 カナマイシン
関連 エリスロマイシン
関連 リンコマイシン
関連 ホスホマイシン
関連 ロイコマイシン
関連 バンコマイシン
関連 結核菌
関連 リファンピシン
関連 シクロヘキシミド
関連 グリセオフルビン
関連 エバーメクチン
関連 ブレオマイシン
関連 ブラストサイジン
関連 カスガマイシン
関連 ポリオキシン
関連 バリダマイシン
関連 薬剤耐性菌
関連 耐性ブドウ球菌(MRSA)
関連 バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)
関連 結核菌
関連 化学療法剤