◆抗体 [Antibody(ies)]

 脊椎動物の体内には免疫とよばれる自己を守る仕組み(生体防御)が備わっている。その免疫に働く物質の中で、抗原によって血清中にできる高分子物質を抗体という。1890年、北里柴三郎(日本)とE.A.von ベーリング(ドイツ)によって、ジフテリア菌や破傷風菌の毒素を接種した動物の血清中にその抗毒素が生成することが発見され、その抗毒素(抗血清)が抗原(細菌体や細菌毒素)と反応して、発病を防ぐことができるのであろうという考え方から、初めてジフテリアと破傷風の血清療法が確立された。それ以来、このような血清による免疫状態(現在は液性免疫とよばれる)を定めるのは抗体であろうという考え方が広まった。すなわち、脊椎動物(哺乳類、爬虫類、鳥類、両生類、魚類、円口類)の生体内に異物が侵入すると、それらが抗原として認識され、その抗原の作用を消失させることができる血清中に生成される高分子物質が抗体である。
抗体の生成は血清中に存在する糖タンパク質であるγ,β-グロブリンの領域が担っている。抗体が生成されたグロブリンを免疫グロブリン(immuno-globulin) といい、それを含む血清を抗血清という。
細菌が産生する毒素を加熱やホルマリンで処理して得られる無毒化毒素をトキソイドといい、そのトキソイドを動物へ接種すると、血清中にその毒素に異的な抗体ができる。その抗体を抗毒素という。無毒化した細菌の菌体やウイルス粒子も抗原として動物へ接種すると、その血清中に特異的な抗体ができる。 特異的な抗体ができると、体内へ再び同じ病原体(抗原)が侵入しても、その抗体と結合(抗原-抗体反応)して、病原体の毒力が中和されて発病しない。
また、抗血清あるいは抗毒素は細菌の鑑別や病気の診断にも用いられる。抗体には上記のような微生物の抗原に特異的な抗体のほかに、胎盤を通じた新生児抗体、アレルギー反応をおこすレアギン(reagin)、血液型抗体、ある抗原によってできた抗体の抗体(抗ハプテン抗体、抗HBウイルス抗体、抗単クローン性抗体など)などきわめて多種類がある。
免疫グロブリンは構造的にはIgG,IgM,IgA,IgE抗体などに分けられ、いずれの抗体にも分子内に抗原結合部位があり、そこに抗原が結合して複合体となる。反応によってはその複合体へ補体が結合して、溶血や溶菌などの細胞障害をひきおこす。このような抗体は補体結合抗体とよばれる。免疫グロブリンは分子量50,000-65,000のH鎖と25,000のL鎖が2本ずつ結合した基本構造をとっている。

関連 免疫
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関連 破傷風菌
関連 抗毒素
関連 抗血清
関連 細菌毒素
関連 糖タンパク質
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関連 免疫グロブリン
関連 細菌
関連 トキソイド
関連 抗毒素
関連 ウイルス
関連 抗原
関連 抗体反応
関連 抗単クローン性抗体
関連 溶血
関連 溶菌
関連 補体