◆光合成細菌 [Photo-synthetic bacteria]

 緑色植物が行う光合成とは違って、空気がない嫌気的条件下で、光エネルギーを利用して、酸素を発生しない光合成を行って生育している細菌である。いずれもグラム陰性菌で、2目、5科、24属(その他3属)の光合成細菌が知られている。細胞内にバクテリオ・クロロフィルとよばれる葉緑素をもち、単一の光化学系で得られるATPを生成する。光合成細菌は紅色細菌(purple bacteria)と緑色細菌(green bacteria)に大きく分けられる。
紅色光合成細菌は細胞膜が陥入してできた内膜の小胞体状の光合成器官(クロマトフォア)をもち、その中にバクテリオ・クロロフィル a(b)が含まれ、菌体は赤紫色ないし黄褐色である。この細菌群はさらに紅色硫黄細菌と紅色非硫黄細菌に分けられる。
一方、緑色光合成細菌は細胞膜とは別の袋状の光合成器官(クロロゾーム)をもち、その中にバクテリオ・クロロフィル c(e)が含まれ(細胞膜内には少量のaがある)、菌体は緑色ないし褐色である。この細菌群は緑色硫黄細菌と滑走性糸状緑色細菌に分けられる。
これらの光合成細菌は前記のように、すべて光をエネルギー源として利用する嫌気性菌であるが、紅色硫黄細菌と緑色硫黄細菌は炭素源として炭酸ガスを、光合成反応の水素供与体として硫化水素を利用する。したがって、光合成独立栄養性である。しかし、紅色硫黄細菌は有機物も利用できる光従属栄養性の細菌も多い。紅色硫黄細菌にはクロマチウム属(Chromatium)ほか9属、緑色硫黄細菌にはクロロビウム属(Chlorobium)ほか3属がある。
これに対して、紅色非硫黄細菌は有機物を炭素源と光反応の水素供与体の両方に利用するので、光合成従属栄養性である。この群にはロドシュードモナス属(Rhodopseudomonas)ほか5属がある。一方、滑走性糸状緑色細菌は紅色硫黄細菌や緑色硫黄細菌と同様に、炭酸ガスと硫化水素を利用することも、有機物を炭素源と水素供与体として利用することもできる。この群の細菌は45-60℃のアルカリ温泉に生息し、クロロフレッキサス属(Chloroflexus)ほか2属がある。光合成細菌には上記のほかに4属がある。
これらの光合成細菌は嫌気的な水界に生息している。例えば、廃水処理池(曝気されていない池)では一般微生物によって溶存酸素が消費されるので、水中では硫酸塩還元菌による硫化水素が蓄積される。そこで、紅色硫黄細菌のクロマチウム属やチオカプサ属(Thiocapsa)が多数増殖して廃水池が赤色になる。一方、活性汚泥槽では曝気され、有機物が多量にあるので、好気性の従属栄養細菌が多いが、紅色非硫黄細菌のロドシュードモナス属が好気的、暗条件(光無照射)下で生育している。また、薄暗くよどんだ下水中には夏場は紅色非硫黄細菌のロドスピリラム属(Rhodospirillum)、冬場は紅色硫黄細菌のクロマチウム属が生育している。そのほか淡水湖沼、池、硫黄泉、水田や潅水土壌、海岸や海水湖などに光合成細菌が生息している。

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