◆酵母 [Yeast(s)]

 一般に酵母とよばれる微生物は分類上の用語ではなく、元来は発酵をおこす菌類につけられた名称である。真菌の中の担子菌類、子嚢菌類、不完全菌類のいずれにも属している。単細胞性で、大きさは2-20μm(多くは3-5μm)で、普通の細菌より数倍大きい。球形、卵形または楕円球形で、酸素のない環境では発酵を行い、酸素を供給すると好気呼吸を行って生育する通性嫌気性菌である。細胞壁の外側に莢膜をもつものもあり、増殖は細胞の一部が突きでる出芽とよばれる様式である。核が分裂してその一方が娘細胞へ移行して親細胞から離れる。比較的栄養体になっている世代が長く、一部の酵母は培養条件によっては、細胞が連結したまま長く伸びて糸状菌に似た菌糸をつくるものもある。これを偽菌糸または仮性菌糸という。
このように酵母は真菌ではあるが、単細胞性の世代だけをもち、糸状菌のような典型的な菌糸をつくらない菌群にあたえられた便宜的な名称である。酵母の種類は多く、現在、約40属、350種が知られている。代表的な酵母としてはアルコール発酵酵母であるサッカロミセス・セレビジアエ(Saccharomyces serevisiae)、病原性の菌種もあるカンジダ・アルビカンス(Candida albicans)、通称、海洋酵母とよばれるロドトルラ・グルチヌス(Rhodotorula glutinus)などがある。酵母は栄養分に富み、実用的には発酵工業をはじめ種々の食品工業で使用されている重要な菌種が多く、酵母から種々の酵素が製造されている。
酵母による発酵の基本的な意義は19世紀末にL.パスツール(フランス)によって実証され、次いで、H.ブフナー(ドイツ)が発酵は酵母の細胞内に発酵素(チマーゼ)と名づけられた因子によっておこることを発見し、それが酵素という概念の発端となって、生物を生化学的に研究する方向へと発展した。

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