◆グラム染色 [Gram staining]

 一般に細菌の大きさは大体1μm(1mmの千分の1)であるから、普通の光学顕微鏡(対物レンズ: x 100,接眼レンズ: x 10,総合倍率: 1,000倍)でようやく観察(1mm相当に拡大)できるが、コントラストがあまりないので観察にくい。そこで、細菌を染色して観察する方法が広く用いられている。その中で代表的な方法がC.グラム(ドイツ)によって考案されたグラム染色法で、細菌を基本的に大きくグラム陽性菌とグラム陰性菌に鑑別する方法である。したがって、その結果は細菌の形とともに分類上非常に重要な特徴となる。
グラム染色法は複染色法とよばれる2種類の色素を用いて、グラム陽性菌とグラム陰性菌をはっきり色別でき、細菌の形も観察しやすい利点がある。一般にハッカー(Hucker)の変法が用いられている。実際の操作は細菌を塗抹した標本をまず、クリスタル・バイオレットまたはゲンチアナ・バイオレットのような塩基性色素(青藍色)で染色し、次にルゴール液(よう素-よう化カリウム)という媒染剤(色素を安定化させる作用)で処理したあと、エタノール(エチルアルコール)で脱色する。脱色したあとサフラニン液(赤桃色)で染色する。このときパイフェル液(フェノール-フクシン)で染色してもよい。 そこで、塩基性色素液の青藍色または青紫色に染まればグラム陽性菌、サフラニン液(またはパイフェル液)の赤色ないし赤桃色に染まればグラム陰性菌と判定する。
細菌によってグラム染色性が異なる原因として、グラム陽性菌の細胞壁はペプチドグリカン、タイコ酸などの多糖のみから成るので、これらの成分と結合した塩基性色素はルゴール液のよう素と化合してアルコール不溶性の物質に変わり、青藍色ないし青紫色に見える。これに対して、グラム陰性菌ではペプチドグリカン層の外側にタンパク質、リン脂質、リポ多糖から成る外膜をもっているので、よう素の浸透が妨げられ、アルコールに可溶な塩基性色素のまま脱色され、あとで染色されたサフラニンなどの色素の赤色ないし赤桃色にみえると考えられている。ただし、グラム陽性菌では古い菌株の場合、一見、グラム陰性菌のように染色されることがある。

関連 細菌
関連 グラム陽性菌
関連 グラム陰性菌
関連 細胞壁
関連 ペプチドグリカン
関連 タイコ酸
関連 多糖
関連 タンパク質
関連 リン脂質
関連 リポ多糖