◆粘液細菌 [Myxobacteria]

 滑走細菌群の中の粘液細菌目に属する細菌の総称で、子実体形成滑走細菌ともよばれる。ミキソコッカス科のほかに3科がある。粘液細菌類は病原性はなく、通常、腐食した植物やその土中、動物の糞などに生息している常在菌である。粘液細菌は全て従属栄養を営み、好気性のグラム陰性菌で、栄養分が充分ある環境では桿状の栄養細胞が二分裂で増殖し、固体表面ではゆっくり滑走または匍匐(ほふく)運動をする。しかし、環境条件が悪化すると真核生物の粘菌(変形菌)のように個々の細胞が集合して、ゆっくり粘液を分泌しながら固体表面を移動し、やがて粘液細菌特有の子実体(fruiting body)を形成し、その中に多数の粘液胞子(myxospore)が生じる。この粘液胞子は1種の休眠細胞(休眠胞子)で、栄養条件が良くなると子実体から放出されて発芽によって桿状の栄養細胞が生じる。子実体の形態も粘菌のようにそれぞれ特徴があり、通常、黄色ないし橙黄色あるいは黄褐色の色素としてカロテノイド系のサプロキサンチン(saproxanthine)またはゼアキサンチン(zeaxanthine)を含んでいる。また、液体培地中では栄養細胞が分散状に増殖する種もある。このように粘液細菌は原核生物でありながら、粘菌に似た特有の生活環があるので、一般細菌とは異なり、通常はその生活環や子実体の形態によって分類されている。粘液細菌は現在、ミキソコッカス属のほかにアルカンギウム属、シストバクター属、メリッタンギウム属、スチグマテラ属、ポリアンギウム属、ナッノシスチス属およびコンドロマイセス属の8属に分けられている。その中でミキソコッカス属の数種(Myxococcus xanthusやM.virescens)については詳しく研究され、欧米では発生生物学研究の材料として用いられている。

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