◆細菌[Acid-fast bacilli]

 広い意味では、酵母、カビや細菌などの総称名として用いられる。専門的には、ヒトを含む動物の細胞と異なり植物に特有の細胞壁を最外側に持つが、葉緑体は持たない。核膜が存在しないので核が無い(カビは核を持つ)単細胞の生物である。有名な抗生物質であるペニシリンは細胞壁の合成を阻害するので、細菌には有効に作用するが動物細胞には無効である。肉眼では見えないが光学顕微鏡で観察できる。

 以前は分裂菌類として植物界に包含されていたが、現在では藍藻と並んで原始的な細胞から成る原核生物(モネラ界: Monera)に含められている微生物の中でも代表的な集団である。19世紀の後半から末にかけて、すでにいくつかの発酵細菌や炭疽病菌のような病原菌が知られ、L.パスツール(フランス)やR.コッホ(ドイツ)らによる画期的な業績が基礎になって現代の細菌学へ発展した。
マイコプラズマ以外の細菌は堅い細胞をもち、大きさは最小の細菌であるクラミジア(0.2×1.5μm)でウイルスよりやや大きく、ベッギアトア(55×13μm)のような最大の細菌まである。通常の真正細菌では霊菌(0.5×0.5μm)が最小である。形は一般に球状(球菌)、棒状(桿菌)、コンマ状(ビブリオ)、らせん状(スピロヘータ)、長桿状、糸状などさまざまで、これらが二連状(双球菌)、四連状(四連球菌)、八連状(八連球菌)、多数の連鎖状(連鎖球菌、連鎖桿菌)やぶどうの房状(ブドウ球菌)もある。また、特殊な三角形をした細菌(強好塩菌)もある。そのほか鞭毛で運動する細菌、鞭毛はなく細胞自体を屈曲させて運動する細菌(滑走細菌)、莢膜(病原菌)や特殊な柄をもつ細菌(有柄細菌)もある。多くの細菌は無性的な二分裂で増殖するが、生育環境や培養条件によって形が変化する細菌(多形性)、生活環の中で出芽して栄養細胞になる細菌(芽胞形成菌や粘液細菌)もある。また、形態はかびに近い放線菌や原虫に近いスピロヘータなどがある。
遺伝情報を担う核領域は環状のDNAで真核細胞にある核膜がなく、呼吸作用を行う器官も真核細胞にあるミトコンドリアがなく細胞質膜で行われる。細胞質内には種々の顆粒が存在し、中でもタンパク質を合成するリボゾームや染色体DNAとは別の小DNAであるプラスミドは遺伝子の組替えなどにとって重要な顆粒である。
細菌はグラム染色法によって、大きくグラム陽性菌とグラム陰性菌に分けられる。細胞はグラム陽性菌ではペプチドグリカンとタイコ酸とよばれる特有の成分が含まれた層があり、グラム陰性菌にはペプチドグリカンのほかにリポ多糖とリポタンパク質から成る層があり、グラム染色性はこの構造の違いによって染め分けられる。
また、細菌は基本的に酸素の有無で生育できるか、できないかによって (1)生育するのに酸素が絶対に必要な偏性好気性菌(好気呼吸を行う)(2)酸素があっても、なくても生育できる通性嫌気性菌(酸素がある場合は好気呼吸、酸素がない場合は発酵を行う)(3)酸素がない条件下でのみ生育する偏性嫌気性菌(発酵のみを行う細菌と嫌気呼吸のみを行う細菌)の三通りに分けられている。嫌気呼吸は酸素以外の無機化合物を利用して生育する細菌が行う代謝で、ある種の硫黄酸化細菌、鉄酸化細菌や水素細菌などが嫌気呼吸を行う。そのほかに、光のエネルギーを生育に利用する光合成細菌もある。多くの細菌は有機化合物を利用する従属栄養で生育するが、嫌気呼吸と光合成を行う細菌には独立栄養で生育するものもある。
細菌が地球上に現われた時期はおよそ38億年前と考えられているが、最初に酸素がない環境で、光と無機化合物を利用した独立栄養的な偏性嫌気性菌が出現し、その後、光合成を行う藍藻(藍菌)や、さらに進化した植物が出現して、多量の酸素が大気中へ放出されるようになってから、酸素の有無に関係なく増殖できる通性嫌気性菌が出現し、最終的に偏性好気性菌が出現したと考えられている。
現在、細菌は光合成細菌、滑走細菌、有鞘細菌、出芽細菌、スピロヘータ、らせん菌のほか、グラム陽性と陰性の好気性菌、嫌気性菌、球菌、桿菌、芽胞形成菌、放線菌、メタン細菌、マイコプラズマ、リケッチア、クラミジアなど19群に分けられている。これらの中には動植物の病原菌や食品の変性・腐敗菌などの有害な細菌も多いが、腸内細菌をはじめ種々の発酵菌や、おもに抗生物質を産生する放線菌、多くの土壌細菌や海洋細菌(好塩細菌)など陸上や海中で浄化や食物連鎖に役立つ常在菌などの有用な細菌もきわめて多い。また、塩湖や岩塩地帯にみられる強好塩菌(古細菌)、火山地帯などで水素、硫黄、 鉄などの無機物を利用する独立栄養菌、温泉などにみられる好酸性・好熱細菌(古細菌)、極地や深海にみられる低温細菌などさまざまな特殊な環境に生息している細菌もある。

関連 炭疽病菌
関連 原核生物
関連 スピロヘータ
関連 マイコプラズマ
関連 細胞
関連 細胞壁 ? クラミジア
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関連 滑走細菌
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関連 有柄細菌
関連 芽胞形成菌
関連 粘液細菌
関連 かび
関連 放線菌
関連 原虫
関連 細胞質膜
関連 タンパク質
関連 リボゾーム
関連 プラスミド
関連 グラム染色
関連 グラム陽性菌
関連 グラム陰性菌
関連 細胞壁
関連 ペプチドグリカン
関連 タイコ酸
関連 リポ多糖
関連 リポタンパク質
関連 偏性好気性菌
関連 好気呼吸
関連 通性嫌気性菌
関連 発酵
関連 偏性嫌気性菌
関連 嫌気呼吸
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関連 鉄酸化細菌
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関連 リケッチア