◆細菌性食中毒 [Bacterial food poisoning]

 食中毒(food poisoning)とは広い意味では、有害物質あるいはそれを含む生物によって汚染された食品を食べておこる急性または亜急性の病気である。食中毒は原因になる有毒物質あるいは有害生物によって、細菌性食中毒、真菌性食中毒、動物性食中毒、植物性食中毒が含まれる自然毒食中毒と、有害化学物質による化学性食中毒に分けられている。その中でも細菌性食中毒が世界的にも最も多く発生しているが、これは病原細菌あるいはその毒素で汚染された食品を食べることによっておこる、急性の腸炎あるいは神経性障害を指し、その原因になる細菌を食中毒細菌という。食中毒細菌として数種のサルモネラ、腸管出血性大腸菌、腸炎ビブリオなどのビブリオ、ボツリヌス菌やウェルシュ菌などのクロストリジウム、ブドウ球菌や腸球菌、カンピロバクター、セレウス菌、シトロバクター、プロテウス、数種のエロモナスなどの細菌が知られている。
細菌性食中毒は病原菌に汚染された食品や水を飲食した場合、腸管内で病原菌が増殖し、それがつくりだす毒素(外毒素)あるいは細菌の細胞自体の毒性成分(内毒素)によっておこることが多い。このような細菌性食中毒は感染型食中毒とよばれ、一般に8-24時間の潜伏期のあとに頭痛、嘔吐、下痢、腹痛、発熱などの胃腸炎の症状が現れ、普通1週間くらいで回復するが、重症になると、痙攣(けいれん)がともなって衰弱し、昏睡状態におちいって死亡することもある。この型と考えられる病原菌にサルモネラや腸炎ビブリオがある。
これに対して、飲食する前に食品や水中で病原菌が増殖して、そこでつくられた毒素を含んだ食品や水を飲食したときにおこる毒素型食中毒とよばれる場合がある。この場合は一般に潜伏期がきわめて短く、3時間くらいで感染型に似た症状が現れるが、発熱はなく嘔吐が激しいのが特徴である。この型と考えられる細菌にウェルシュ菌、ボツリヌス菌、ブドウ球菌、病原性大腸菌がある。ところが、ボツリヌス菌による場合は、ほかの細菌性食中毒の場合と違って、潜伏期が約24時間と比較的長く、胃腸症状があまりみられず、便秘、眼瞳の下垂、口内の渇き、よだれをともなう咽頭の麻痺(まひ)などの神経性の症状が現れ、重症の場合は体温が下降して、死亡するまで意識は明瞭で死亡率は高い。
これらの毒素型食中毒はその細菌がだす腸管毒素が直接の原因になるが、ボツリヌス菌の場合は生菌で汚染された食品や水でおこる感染型と、予め毒素が含まれている食品などでおこる毒素型の両方の食中毒がある。
また、ウェルシュ菌やボツリヌス菌は偏性嫌気性菌であるから、酸素がある条件下では芽胞をつくって休止状態にある。そして、汚染された食品が腸管内へ入ってから嫌気性になって初めて増殖を開始し、腸管毒素を産生して症状が現れるまでの時間が長い。しかし、ときにはその食品の保存状態によって発症までの時間がかなり短い例もあった。九州でおきた"からし蓮根"事件や東北、北海道地方の"いずし"によるボツリヌス食中毒では、食品が摂食される前に嫌気状態になっていたので、その時点ですでに産生されていた腸管毒素の摂取によって短時間内に発症した。
このように細菌性食中毒の多くの場合は、種々の汚染された生食品(鳥・獣肉類、卵、乳、魚介類、野菜類など)とその加工食品(塩蔵品、練り製品、缶詰、酪農製品、菓子など)や飲料水によっておきるが、ときには調理中に傷口などから病原菌(ブドウ球菌など)が混入することもある。とくにサルモネラ食中毒は汚染された鶏肉や鶏卵とその加工品による場合が多く、腸炎ビブリオ(好塩細菌)食中毒は魚介類による場合が多い。また、ボツリヌス菌やウェルシュ菌(土壌中に生息する嫌気性菌、耐熱性)は土で汚染された肉類や野菜の食品(ハム、ソーセージ、缶詰、漬物など)による場合が多く、加熱でも容易に殺菌されないので注意する必要がある。わが国ではサルモネラ、腸炎ビブリオ、ブドウ球菌による食中毒が多く、一般的に夏季に最も多く発生する。
最近、各地で食中毒事件が発生しているが、とくに病原性大腸菌O157による食中毒事件は大きな社会問題になったことは衆知の通りである。この食中毒は耐熱性の抗原(O抗原)をもった腸管出血性大腸菌が原因して、激しい血便の下痢、嘔吐、発熱、腹痛をともなう急性腸炎をおこす。多くは幼児ときに成人もかかり、重症の場合は出血性尿毒症になって死亡することがある。この症状は赤痢菌がもっている毒素と同じベロ毒素によることが明らかにされている。

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