第103話
 動かない永久機関について考えよう
 

 
「主な対象読者」
今回は永久機関について多少なりとも興味のある人が対象です。永久機関を通して、都合のよいことだけ考えて、都合の悪いことを考えないとどうなるかを知ってもらおうという試みです。なお、今回は数式や計算を一切使わず、気楽に読めるようにしました。
 
 
本 文 目 次
 1.はじめに
 3.浮力を利用
 4.磁石を利用
 6.おわりに
 
著者 坂田 明治
 

 
 
第103話 動かない永久機関について考えよう
 
1.はじめに
 今回は、永久機関について考えてみましょう。永久機関というのは、もちろん空想上の装置です。これ、他からエネルギーの供給を必要とせず、永遠に動き続け、その上、仕事までするという優れものです(実現しないけど)。なんか、エネルギー保存則を無視した、アニメや特撮の世界を連想させますね。まあ、こっちは言い訳程度に太陽エネルギーだの、わけのわからないエネルギー源が出てきたりしますが。
 
 それにしても、いまだに永久機関を作ろうとしている人達がいるようです。何十年か前に、「永久機関は男のロマンだ。」といってる奴がいました(男じゃなくて、そいつのロマンだろ。男を全部巻き込むなよ。)。こいつ、永久機関を作って、世界中のエネルギー危機を解消するのだとウソぶいていたなぁ。しかし本心は、金儲けを考えていたみたいです(億万長者になりたかったみたい)。受験勉強のために、永久機関を考えるのはやめたとかいっていましたが、今どうしているのかは不明です。
 
 まあ、ともかく、永久機関は一部の間で人気があるようです。なんででしょうか。物理的に不可能だということは置いておくとして、どうも背景に、都合のよいことだけを考え、都合の悪いことは考えないということがありそうな感じです。つまり、都合よく動作するということは考えても、都合の悪い制約は考えないみたいです。
 
 確かに、そうですね。都合の悪いことは考えないで、実際に都合の悪いことが起こっても、「想定外」といってごまかしている人達がいますよね。そうそう、昔の戦闘機で、「敵さんはへっぽこだから、弾なんか当たりっこない。弾が当たらないのに、防御を考える必要は無い。」ということがあったよね。
 
 本稿では、有名どころの永久機関を何個か取り上げてみました。最後に、以前聞いた、太陽電池発光ダイオード( LED )を利用したものも載せています。また、数式は一切出ませんので、気楽に読めると思います。
 
 
2.毛管現象を利用
 まずは、いろいろな人が思いついて、できそうな気がする、毛管現象を利用した永久機関です。
 
 
 図1では、がランプの芯によって吸い上げられ、上の容器に運ばれます。図1では2段しか描いていませんが、実際は、何段かあって、ある程度の高さまで水が持ち上げられ、そこから水が落下して、羽根車を回すというものです。羽根車は発電機のタービンか何かで、これで発電して動力を得ます。
 
 アルコールランプで、アルコールがどんどん芯に吸い上げられ燃えているのを見たことがあるでしょう。それから、植物を育てている人なら、大方は目撃したことがあると思いますが、植物は根から毛管現象によって吸い上げた水を、葉の端から水滴として落とすことがあります。
 
 ということで、上に書いたことを根拠として、図1の永久機関は、地球の重力毛管現象のみで、永久に動く永久機関ですね。めでたし、めでたし。
 
 ところで、図1の永久機関を実際に作っても動きません。なぜでしょう。この永久機関の肝は、芯の端で水が落ちるところですね。果たして、そこは動作するのでしょうか。
 
 第1章を読まれた方ならわかると思いますが、本稿の趣旨は、都合の悪いことを考えるのが中心ですので、物理的に細かくは扱いません。どうしても詳しく知りたい人は、自分で考えましょう。
 
 図1で、ランプの芯の端で、水が落ちるかどうかをよく考えましょう。水が落ちるということは、ここで、毛管引力に重力が打ち勝っているということでしょう。すると、この芯で、その端「右側」と同じ高さの部分「左側」でも毛管引力に重力が打ち勝っていることになります。ということは、その位置まで水が上らないことになります。そうすると、水は端まで行かないので落ちるはずがありえません。
 
 まとめると、この永久機関を動くと考える人は、左側では毛管引力が重力に勝っているのに、右側では、重力が勝っていると考えて、毛管引力が勝っているという都合の悪い事実を無視しているのしょう。
 
 なお、アルコールランプでは、芯からアルコールが蒸発して、そのために、どんどんアルコールが吸い上げられていきます。もちろん、蒸発するためにエネルギーの投入が行われています。植物では、気孔からの蒸発を含め、色々な現象を利用しています。基本的には、太陽エネルギー化学エネルギーの形にしたもの)を利用しています。詳しいことは自分で調べましょう。いずれも外部からのエネルギー投入を利用しています。
 
 
3.浮力を利用
 図2は浮力を利用した永久機関です。これ、元絵からして、あまりにもいい加減で、どうやって作るのかわかりません(しかし、有名なので出しました。探せば、あっちこっちのサイトで見つかると思います。)。
 
 
 多分、車輪が回転して動力を取るのだろうけど、黄色い箱とどう接触しているのでしょうか。水の外にあるみたいで、それだと、黄色い箱は水中を通るので、箱と車輪は接触しません。もし、接触しているとすれば車輪は水中に突っ込むので、当然、水漏れがします。この際、車輪についてうるさくは考えないことにします。
 
 黄色い箱は、中空の箱です。すると、右側の水中に入っている箱には浮力がかかります。図2を見ればわかりますが、左側よりも右側の方が浮力分軽くなるので、左側は下に、右側は上に動きます。かくして、車輪が矢印の方に回転して動力を得ることができます。
 
 そうすると、地球の重力と、浮力だけで永久に動くので永久機関です。めでたし、めでたし。
 
 図2を作ろうとしても、車輪の問題があって作れませんから、車輪なしで作ることをお勧めします(もちろん、お勧めしません)。
 
 まあ、作っても動きません。なぜでしょう。確かに、左右の箱を比べれば、右側に上向きの力がかかっています。しかし、黄色い箱は、左右だけでなく、上と下にもあります。上は空中なので無視しても差し支えないでしょう。
 
 問題は下の箱です。この箱は、水中に引きずり込まれています。ということは、動くためには、水中の圧力に打ち勝たねばなりません。しかし、これは無理です。どうしても確かめたい人は、適当に数値を当てはめて確認してみましょう。どうやっても、容器の底の圧力が浮力よりも大きくなっているとわかるはずです。
 
 今度の場合も、箱を水中に引き込む力のことが考えられていませんでしたね。
 
 
4.磁石を利用
 まあ、よく考えるものです。磁石を利用した永久機関もあります。まったく、なんかがあれば、それを利用して永久機関を考えるようですね。
 
 
 これは、上の斜面では、鉄の玉が磁石に引き寄せられて斜面を上り、穴から落ちて、下の曲線になってる斜面みたいなやつに沿って降りて行き、右の端(オスアヒルのくる毛みたいなところ)で、くるっと回って上の斜面に移るというものです。そうすれば、鉄の玉は、重力磁力によって永久に動き続けます。でも、これから動力を取ってませんね。
 
 しょうがないから、無理矢理動力を取りましょう。それには、途中に羽根車でも付けて、図4のようにすればよいかな。
 
 
 これで永久機関になりました。めでたし、めでたし。
 
 それにしても、これはなんだか、ご都合主義の典型みたいです。都合のよいことだけ考えて、都合の悪いことは全て無視してる感じがします。順を追って考えてみましょう。
 
 まず、図3の磁石は、相当強力ですね。鉄の玉を引き付けて、上の斜面を上らせる位ですから。まあ、磁石をいじった人なら誰でも知っていると思いますが、磁石は近づくにつれて磁力が強くなり、より強く引き付けます。つまり、鉄の玉が上の坂を上るときは、だんだん速くなっていくはずです。それではますます穴から落ちにくくなるでしょう。もちろん、鉄の玉が磁石にくっついては永久機関にならないのでダメです。
 
 そうすると、鉄の玉が、磁石とくっつかないで穴に落ちるというのは、磁石の強さと穴の位置と斜面の角度をかなりうまく調整する必要がありますね。なんか作るのが難しそう(できるか、できないかは、計算してみないとわからないな)。
 
 次に、鉄の玉が穴から落ちたあとのことを考えましょう。もし、地球の重力だけで、下の曲線になってる斜面みたいなやつに沿って転がって行くのなら、加速しながら転がって行って、右端のオスアヒルのくる毛みたいなところでくるっと回って、上の斜面に乗ります。
 
 しかし、磁力が働いていて、しかも、この磁石は、上の斜面にある鉄の玉を引き寄せるほど強力です。その上、磁石に近づけば近づくほど吸い付ける力は強くなります。ということは、穴から落ちた後は、大して加速しないでのろのろ進むということです。更に、下の曲線になってる斜面みたいなやつの底(右の端の方)の近くでは、むしろ磁石に引き付けられて斜面を上るように力が働くはずですね(磁力を受ける方向の問題はあるけど、勾配が上の斜面よりかなりゆるいから)。
 
 これから、右端のオスアヒルのくる毛みたいなところでくるっと回って、上の斜面に乗るほどの速さは得られないと考えられます。つまり、上の斜面には乗れません。どうしても確かめたい人は、力を計算して確認しましょう。
 
 今度の場合も、下の斜面でも磁力効いているという都合の悪いことが無視されています。
 
 
5.太陽電池を利用
 以前、太陽電池発光ダイオード( LED )利用した永久機関があるということを聞きました。全く懲りないですね。
 
 この手の永久機関は、かなり昔からあります。例えば、図5がそれです。
 
 
 これはどのようなものかというと、発電機モーターベルトで接続したものです。モーターが回ると、ベルトで動力を発電機に伝えて、発電機を回し、その電気を導線でモーターに流すというものです。そうすると、モーターは回転して発電機を回し、永久機関になると(外部に仕事をしていないのだけれども)。
 
 一応、この手のものも永久機関と考え、第二種永久機関と呼んおり、当然実現しません。実現しようとした人は、またも、都合のよいことばかりを考えていて、都合の悪いこと(熱損失)を考えてはいませんでした。つまり、発電機もモーターも 100 % の効率で、ベルトも 100 % の効率で動力を伝え(摩擦がない)、導線も 100 % の効率で電気を流せる(抵抗が全くない)ということです。
 
 図5の永久機関と同じような発想の永久機関が図6の永久機関です。
 
 
 なお、図6の永久機関では、光が拡散していくので、鏡で覆って、うまく太陽電池に光が集まるようにしなくてはいけません。しかし、面倒なので鏡は描かないことにします。
 
 図5と図6を比較してみましょう(対比という)。発電機の代わりに太陽電池、モーターの代わりに LED 、ベルトの代わりに導線は同じですね。発想がよく似ています。そして、まったく同じように、太陽電池は効率が 100 % ではありませんし、 LED も効率が 100 % ではありませんし( LED って触ると結構熱いよね)、光も 100 % 完全に LED に集められませんし(完全な真空とか、完全な反射をする鏡なんて無理です)、 100 % の効率の導線もありません。
 
 要するに、都合の悪いこと、つまり、効率が 100 % にならないということが無視されています。
 
 
6.おわりに
 今回は、永久機関を題材として、ものごとに対し、都合のよいことばかり考え、都合の悪いことを考えないとどうなるかを見てきました。思考実験だけなら、特に問題はありませんが(むしろ、思考実験をどんどんやるべきです)、実際に作って動かないと、色々な面で被害が出てきます。
 
 ただ、実際に作るのではなく、思考実験として、永久機関を考えるのはよいと思います。そして、それを絵に起こして、不都合な点はなにかを考えてみるとよいでしょう。思考訓練の一環としては、なかなか良い題材です。
 
 何度も書いていますが、どんなことでも、一応は疑い、自分でよく考えることはとても重要です。そうえいうことを繰り返し行っていると、なにがしかの効果が出てくると思います。例えていうなら、誰でも走ることはできますが、実際に毎日走っている人と、走っていない人では、やがて大きな差となって現れてくるでしょう。体でも、頭でも同じです(そもそもつながっている)。
 
 よく、うまい話というものがあります。これは、都合のよいことばかりを並べています。都合の悪いことを全て無視すれば、うまい話になるのは当然でしょう。思考訓練の一環として、都合のよいことばかりを抜き出すということをしてみるのもよろしいかと思います。その上で、都合の悪いことを考えてみましょう。何かが見えてくるかも知れません。この点、本稿を読まれた方はどうお考えでしょうか。
 
 
平成30年12月1日
著作者 坂田 明治(あきはる)
 

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