第109話
 オイラーの定理を考えよう
 

 
「主な目的」
今回は初等幾何について多少なりとも興味のある人が対象です。オイラーの定理を拡張する試みを通して、舗装道路を進むよりも、遠回りして、でこぼこ道を進み、周りの風景を楽しむということを実感する試みです。
 
 
本 文 目 次
 1.はじめに
 5.おわりに
 
著者 坂田 明治
 

 
 
第109話 オイラーの定理を考えよう
 
1.はじめに
 今回は、オイラーの定理について考えましょう。
 
 まず、オイラーは業績が多すぎ、オイラーの名前を関したものも多数あるため、「オイラーの定理」が何のことかわからない人も多いかと思います。ここで、出てくる「オイラーの定理」とは、初等幾何で出てくる定理です(中学で出てきたと思うが)。
 
 実際どういうものかといえば、4点A、B、C、Dが一直線上に、この順序で存在するときに、式(1)が成り立つというものです。
 
 
 
 まあ、この定理に関して、第104話でやったみたいな拡張を考えるわけです。はたして、うまく行くかどうか。
 
 
2.オイラーの定理
 さて、オイラーの定理って何に使うのでしょうね(これ、何か使い道あったけかなー)。昔のことなので覚えていません(記憶にありません。など、都合の悪いことをごまかすときによく使う言い方)。
 
 「こんな、得体の知れない定理の拡張を考えて何か出てくるのか。」と思う人も多いと思います。そもそも、拡張なんてできるのか、得体の知れないものを拡張しても、益々何がなんだかわからなくなるだけだと思うのが、普通の考え方でしょう。
 
 理科好き子供の広場では、失敗することも許されているので、何だかわからないものを拡張しようとして失敗し、結局、何も得られなかったとしても問題ありません。つまり、「最後まで読んだのに何も得られなかったじゃないか。時間の無駄だ。」となっても、「知らんもんねー。」で済ませてもよいということです(これ、テレビの番組でよくあるけど)。
 
 まっ、ともかく、やってみようじゃない。
 
 と言うことで、この章では、オイラーの定理が成り立つ理由を示します。
 
 まず、4点A、B、C、Dが一直線上に、この順序で存在するということから、図2のように座標を導入します。
 
 
 すると、式(2)のように各線分の長さが計算できますね。
 
 
 後は、式(1)の左辺から右辺を引いたやつをゴリゴリ計算するだけです。
 
 
 ほーら、0 になったので、式(1)は成り立ちます。
 
 式(3)を少し書き直すと、式(4)の恒等式が得られます。
 
 
 「なるほど、オイラーの定理の正体はこの恒等式だったのですね。いやー、よくわかった、めでたし、めでたし。」と納得する人はいないと思いますが、どうでしょうか。
 
 
3.空間への拡張
 2点を配置すると、一般的には線分ができ、3点を配置すると、一般的には三角形ができます。そこで4点を配置すると、一般的には、三角錐、つまり、四面体ができます。このとき、オイラーの定理は成り立つでしょうか(いつものように、点が重なっている場合など、一々細かいことは書かないので、自分で考えること)。元々4点の配置だったので、空間への拡張から考える方が自然かも知れませんね。
 
 
 こういうとき、まずは、都合のよさそうな図形を考えてみるものです。例えば、正四面体です。
 
 
 正四面体の各面は、正三角形ですよね。それで、各辺の長さは全て同じになります。すると、明らかに式(1)は成り立たず、式(5)となります。こんな特殊な、恐らくは、四面体中一番簡単な図形ですら成り立たないなら、これはもうこの先なにも出てこないような気がします。いつものように、「もう、ダメだー。」と叫んで諦めましょう。
 
 
 まっ、それはともかく、なんとかいじくって、無理矢理成果につなげられないかな。
 
 オイラーの定理が、式(4)の恒等式だったことを思い出しましょう。そして、この恒等式に相当するものを作ってみます。
 
 図2に習って、位置ベクトルの原点を導入しましょう。
 
 
 次に、式(4)の恒等式の項をベクトルとして形式的に書き直します。
 
 
 このベクトルの間の積は、どう考えればよいでしょうか。空間でのベクトルの積は、内積外積がありますね。最初に外積と考えてみましょう。そうすると、交換律が成り立たないので、式(6)は恒等式になりません。
 
 では、内積と考えてみましょう。このときは、式(6)が成り立ちます。これから、式(7)が出てきます。
 
 
 で、これでなんなの。一般的に成り立っているだけで、その4点の間の位置関係はどうでもよいということです。最初のオイラーの定理では、4点の位置関係を規定したことを思い出しましょう。またもや破綻です。
 
 それでも、ここから何か出てこないでしょうか。破綻しても、無理矢理成果があったことにしてしまうのは、どっかの国の常套手段です。
 
 よく式(7)を見ると、内積が 0 の項が二つあると、残りの一つも 0 でなくてはなりません。内積が 0 とは垂直ということですから、式(7)から、2組の対辺が垂直ならば、残りの1組も垂直となりますね。これは、第104話で出てきた直辺四面体になるということです(正四面体も直辺四面体)。
 
 これでいいかな。こんな程度では、この試みは失敗という人も多いでしょう。
 
 
4.平面への拡張
 空間化は失敗したので、今度は平面化してなんとか成果が出ないかを考えてみましょう。
 
 まず、式(1)を直接扱うと失敗しそうなので、恒等式の方から、搦め手(からめて)で迫ってみます。
 
 最初に、式(7)は、特に次元とは関係なく成り立つので(成分を使って計算したものではないから)、平面のベクトルでも成り立ちます。そこで、4点の配置が図6のような場合を考えてみましょう。
 
 
 このときに、2組の対辺が垂直ならば、残りの1組も垂直となることは、式(7)から出てきます。例えば、線分ABと線分CDが垂直、線分BCと線分ADが垂直ならば、線分ACと線分BDも垂直になるということです。つまり、点Dは三角形ABCの垂心です。
 
 なるほど、平面で考えると、面白そうな結果が得られるとの期待を持たせてくれそうですね。
 
 さて、平面上の点複素数に対応することと、式(4)の恒等式は、四則演算しか用いてないので、当然、複素数でも式(4)は成り立ちます。そこで、各点A、B、C、Dに対応する複素数をそれぞれ、 a 、 b 、 c 、 d としても成り立ちます。
 
 では、ここで何をすればよいのでしょう。式(4)は元々、オイラーの定理である式(1)からでてきました。思い起こすと、各点は直線上の点なので、それぞれに実数を割り当てていました。
 
 平面上では、各点に複素数を割り当てています。複素数は、長さ偏角によって決まりますよね(極形式)。そうすると、複素数で式(4)が成り立つということは、長さと偏角込みで式(4)が成り立つということです。
 
 一方、実数では、原点の取り方によって、長さに正負はあるとしても、式(4)は長さに関する式です(元々、オイラーの定理である式(1)は長さの式)。
 
 そうすると、複素数の式(4)から、長さに関する式を導き、その上で考えるとよさそうですね。
 
 この方針にしたがって、式(1)っぽくなるように変形して式(8)を得ます。
 
 
 複素数の絶対値を取ると長さになるので、両辺の絶対値をとりましょう(ここはベクトルでも同じ)。
 
 
和の絶対値は、絶対値の和で抑えられるので、(この部分はベクトルでも成り立つ)
 
 
積の絶対値は、絶対値の積に等しいから、式(11)が出てきます。(内積の絶対値は、絶対値の積以下になるため、この部分がベクトルでは出てこない。つまりベクトルではここで破綻)
 
 
 式(11)を線分で書き直しましょう。
 
 
 かなり式(1)似たものが出てきました。違いは不等号がくっついていることです。こう書くと、「何が似ているだ。第3章の最初で、正四面体では不等号になって挫折したじゃないか。等号がちょっと付いているだけで、どういうつもりだ。」と文句が出るかも知れません。その辺の言い訳を少し考えなくてはいけませんね。
 
 平面上で、4点で定まる図形の内、一番簡単な図形は正方形なので、正方形で考えましょう。
 
 
正方形では、各辺の長さは全て等しいので、式(12)の左辺は、
 
 
となります。一方、対角線は互いに等しいので、式(12)右辺は、
 
 
となります。そこで、三平方の定理によって、式(12)の等号が成り立ちます。
 
 つまりオイラーの定理で出てきた式が成り立ちます。ここから、式(12)で意味のあるのは等号が成り立つときであるとの見当が付きます。そういう目で今までのことを見直すと、式(9)から式(10)へ行くときに、等号が成り立っている場合が問題だとわかります。
 
 ここで、複素数のことを少し考えましょう。点X、Yを表す複素数をそれぞれ、 x 、 y とします。このときに、式(15)が成り立つのはどんなときでしょうか。
 
 
 複素数のを図示すると、図8のようになります。ただし、図8の右側の図は、同一直線状に乗っているものを少しずらして描いています。
 
 
 図8から、式(15)が成り立つのは、点O、X、Yが同一直線上にあるときだとわかります。しかし、和は、見た瞬間にわかるものではなく、作図しないとどこだかわかりませんね。
 
 試しに、補助的な矢印を消すと図9のようになって、どこだかわからなくなりますよ。
 
 
 このまま続けてもできますが、やっぱり図が見やすい方がわかりやすいので、そっちの方を考えてみましょう(このまま続けるのは読者の宿題)。
 
 和の絶対値を取ったから、あまり見やすいとは言えない図になりましたが、どうせ絶対値なんだから和でも差でも大して変わりません。そこで、差の方にしてみましょう。つまり、式(16)で考えます。
 
 
 の状況は図10です。わかりやすさが一目瞭然ですね。
 
 
 まあ、気づいている人もいると思いますが、ベクトルを矢印で表したときに、差の作図の方が簡単だったよね。
 
 以上から、式(16)を使う方向で修正をかけましょう。式(9)を修正した結果が式(17)です。
 
 
 同様に、式(10)を修正した結果は式(18)です。
 
 
 さて、式(16)が成り立つのは、図10の右側の図だから、複素数の偏角が式(19)のようになります。もちろん、 n は整数です。(以下、この手の注意も書かないので、自分で考えること)
 
 
 この事実と、式(16)と式(17)とから、式(20)が出てきます。
 
 
 複素数の積は、長さの積と偏角の和なので偏角に注目して、式(21)が成り立ちます。
 
 
とりあえず、項を移項して、式(22)のようにします。
 
 
 ここで、複素数の偏角は、図11のように色々とれます(原点のまわりを何回か回ってもよい)。
 
 
 そこで、以下、角度に正負をつけ都合のよいものを取って扱います。
 
 式(22)を角度の式に書き直すと式(23)のようになります(イメージしにくい人は図12を先に見るといいかも)。
 
 
 やりたくない場合分けをしなくてはなりません。まずは、4点A、B、C、Dが反時計回りの四角形をなすとします。つまり、図12のようになっている場合です。文字の説明を含め、細かいことは説明しません。図を見て自分で考えましょう。
 
 
このときは、
 
 
だから、式(23)から、
 
 
が成り立ちます。
 
 よく知られているように、式(25)が成り立つならば、四角形ABCDは円に内接します。
 
 今度は4点A、B、C、Dが時計回りの四角形上をなすとします。つまり、図13のようになっている場合です。
 
 
このときは、
 
 
だから、式(23)から、
 
 
が成り立ちます。これを、四角形の内側の角の関係に変形すると、式(28)となります。
 
 
 このときも、式(28)が成り立つならば、四角形ABCDは円に内接します。
 
 次に、4点の位置関係がねじれている場合を考えます。4点A、B、C、Dが反8の字回りに配置されているとすると図14のようになります。
 
 
このときは、
 
 
となって、
 
 
だから、式(23)は成り立ちません。
 
 4点A、B、C、Dが8の字回りに配置されている場合は図15のようになります。このときも図14と同様に式(23)は成り立ちません。
 
 
 以上から、式(23)が成り立つのは、四角形が円に内接しているときに限ることがわかりました。この部分、つまり、平面上の相異なる4点A、B、C、Dについて式(12)の等号が成り立つ場合、つまり、式(1)が成り立つときに、4点A、B、C、Dは円に内接する四角形ABCDとなります。これがトレミーの定理です。
 
 でも、この話はまだ終わりません。
 
 じゃー、四角形とならない場合はどうなるのでしょうか。
 
 まず、点Bが直線ACの上にあるとします。ここでは、更に、線分ACの上にあるとしましょう。
 
 
そうすると、
 
 
だから、式(23)から、
 
 
となりますよね。すると、点Dは直線AC上で線分ACの外になければなりません。
 
 点Bが直線AC上で、線分ACの外であってもほぼ同様です。
 
 したがって、4点A、B、C、Dは直線上にあって、点AとC、点BとDは互いに他を分割します。例えば、 4点A、B、C、Dが一直線上に、この順序で存在するということです。あれ、これオイラーの定理そのものじゃなかったっけ。なんかお釈迦様の掌の上を飛び回って、結局は元の所へ戻ってきただけじゃないか。
 
 
5.おわりに
 今回、オイラーの定理について考えました。その中で、わざわざ余計な手間をかけて拡張を考えて行きました。具体的には、恒等式との関係を考え、その恒等式に着目して拡張を試みようというやり方です。
 
 通常、わざわざ余計な手間をかけるというのは、裏に何らかの目的があります。簡単な方法や、直接的な方法を避けて、遠回りするというのはよい思考訓練になります。何度か出てきましたが、理科好き子供の広場では、舗装道路を進むよりも、遠回りして、でこぼこ道を進み、周りの風景を楽しむということを推奨しています。この点、本稿を読まれた方はどうお考えでしょうか。
 
 
2020年12月27日
著作者 坂田 明治(あきはる)
 

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