第16話
 声の色々 〜あなたの声に色がある〜
 

 
「主な対象読者」
小学校の高学年から高校生くらいまでを対象としていますが、幅広い年齢層の方に見ていただければと思います。
「先生や両親たちへのお願い」
途中、音が出る所が何箇所かありますので、スピーカーの音量に気をつけてください。
小学生や中学生は両親が一緒に読んでくださることをのぞんでいます。
親子で興味と時間を共有できることを期待しています。
 
 
本 文 目 次
1.はじめに
2.声を出す仕組み
3.声を聞く・・・そして再び声を出す
4.声の個性
5.声のゆらぎ
6.失った声を取り戻す
7.あなたの声は何色?
8.おわりに
 
著者 須貝保徳
 

 
 
第16話 声の色々 〜あなたの声に色がある〜
 
1.はじめに
 あなたが自分の思っていることや、自分の意見などを誰かに伝える時はどうしますか?自分の行動を見せて感じ取ってもらったり、何か書いてあるものを見せて伝えたりする方法もありますが、おそらく声を出して言葉にして伝えることが多いでしょう。
その声ですが、私たちのご先祖様の声は、動物と同じように「キーッ」とか「カーッ」とかの単純なものだったと思います。それから長い年月が経ち、現在の私たちは多種多様な言語を獲得しています。声についても「印象に残る声」や「癒(いや)される声」などのように多種多様に、また「どなり声」や「笑い声」、「泣き声」などのように人間ならではの感情を含めた声までも獲得しています。さらに「声色を変える」とか「黄色い声援(声)」のように声の調子に変化をつけて発声することもできるようになっており、声は人と人とのコミュニケーションに極めて重要なものとなっています。

 今回は、そんな人の声にまつわる話をいくつか紹介したいと思います。うわべだけの雑学的な話になってしまうかもしれませんが、最後までお付き合いください。
 
 
2.声を出す仕組み
 とっさに出る叫び声や悲鳴(ひめい)などは除いて、普段私たちが声を出す時には、まず単語接続語などを組み合わせて頭の中で文章を作ります。それは、脳の左半球の中心溝のさらに左側にある前言語野と呼ばれるところで行われると言われています。言葉は理解できるが文章を構築できず、相手に話の内容が通じないという患者の脳を調べた所、大脳の左半球の中心溝のさらに左側の部分に損傷があることが判り、これを発見した人の名をとって、その部分をブローカの領域と呼んでいます。

 そこで作られた文章を声として出すためには、まずから空気を出して(のど)にある声帯を振動させます。声帯が振動することによって「ブーッ」というまるでブザーのような声の元になる音が発生します。この音は色々な周波数成分を含んだ音ですので、このままでは声になりません。そこで、この音が口腔(こうくう)や鼻腔(びくう)などを通過する時におこる共振(共鳴)現象(特定の周波数成分が増大すること)を利用し、(あご)などの形を変えることによって、共振する周波数を変化させて声にしています。この共振周波数をホルマント周波数と呼んでいます。口の形を順番に「あ い う え お」にしてみると、それぞれ違う形になるのがわかると思います。

 なお、周波数の低い方から第一ホルマント、第ニホルマント、第三ホルマントとなり、通常の人では周波数が高くなればなるほど減衰(げんすい)していきます。発声訓練をしている歌手や役者などの人たちは、通常であれば減衰(げんすい)してしまう高いホルマント部分訓練によって減衰(げんすい)を少なくしており、その結果、声が遠くまではっきりと伝えることができるようになっています。そうやって口から発生したは、空気中気体分子となって秒速約340mの早さで伝わります。
 
 
3.声を聞く・・・そして再び声を出す
 発声された声は、に到達します。耳に到達すると、外耳中耳内耳を経てその情報が聴覚中枢(ちょうかくちゅうすう)に伝わり脳に届きます。脳で言葉を処理したり、理解したりするメカニズムは、完全にわかっていない部分もあるらしいですが、主に、大脳の左半球のシリビウス溝という部分をとりまく後言語野で行われると言われています。ここは、言葉は出せるが相手の言うことが理解できないという患者の脳を調べた所、大脳の左半球のシリビウス溝という所をとりまく部分に関係しているということを発見した人の名をとって、ウェルニケの領域と呼んでいます。ウェルニケの領域で発生した情報が、再度、ブローカの領域に伝わり、文章を組立てたのちに声帯を振動させ、口などを動かし、再び声を出すというように、話すと聞くの間でループ(輪)をなしており、この中のどれかが欠落しても良好なコミュニケーションが取れなくなります。
 
 
4.声の個性
 声を発生する原理は、誰でも同じです。しかし、声帯の大きさや口の形・大きさなど、声の元となる音を作り出す部分やその音に変化を加え声とする部分は、それぞれ異なっています。下記の図は30代男性、40代男性、60代男性、女性のそれぞれの声の波形(上段)と声紋(せいもん)(下段)を示しています。いずれも「こ ん に ち わ」と声を出しています。
 
30代男性(下図クリックすると声が聞けます)

40代男性(下図をクリックすると声が聞けます)

60代男性(下図をクリックすると声が聞けます)

女性(下図をクリックすると声が聞けます)

上図の下段は、ソナグラフといい横軸が時間、縦軸は周波数となっており、強い周波数成分ほど赤く表示することによって、どの瞬間にどの周波数成分が一番強いかがひと目でわかるようになっています。同じ言葉を話しているので、なんとなくパターンは似ていますが、よくよく見てみると、違いがわかると思います。この声紋(せいもん)はだいたいの年齢や性別はもちろん、個人差もあらわれることから、最近では犯罪捜査にも利用されたりしています。
 
 
5.声のゆらぎ
 最近は「癒し(いやし)」というものが、ひとつのキーワードとして色々な場面で使われています。声にも聞いていて心地よく、癒される声というものがあると思います。よく言われているものに1/f ゆらぎを持つ声というのがあります。そもそもゆらぎとは、空間的や時間的に不規則に変化する様子とでも言えば良いのだと思いますが、そのうちの1/f ゆらぎは、自然界の多くの現象に含まれていると言われています。例えば、夜空の星のまたたき風鈴の音ろうそくの火小川のせせらぎの音木漏れ日などに1/f ゆらぎが含まれていると言われており、これらによって気持が落ち着き、心が癒される人も多いでしょう。

 この1/f ゆらぎは、人の声にも含まれている場合があるようです。一説によると歌手の美空ひばりさんや、俳優の森本レオさんのには1/f ゆらぎが含んでいるらしく、聞いていて癒される心地よい声になっているとのことです。この1/f ゆらぎの声は、どうやら誰もが持っているものではないようです。私も1/f ゆらぎの声を出したいと思っても、はたして訓練して習得できるものかどうかもわかりません。でも、1/f ゆらぎとは言えないまでも誰にでも声にゆらぎは持っています。逆に言うと声にゆらぎがついていることで、自然な人らしい声になっているとも言えます。
 
[声@]←ここをクリックしてください。
 
何かブザーが鳴っているような音が聞こえると思いますが、実はこれは人の声で「あ〜」と言い続けているのです。でも、ブザーのような機械音に聞こえるのは何故でしょうか?
それは、この声に含まれている声のゆらぎの成分を全て取り払ってしまい、完全な一本調子の声に加工してしまったからなのです。では、声のゆらぎの成分が含んだ元の声を聞いて見ましょう。
 
[声A]←ここをクリックしてください。
 
どうでしょうか?先程よりは、ちゃんと「あ〜」と発声しているように聞こえるでしょう。声@声Aを聞きくらべて見るとその違いは明らかだと思います。このように、私たちの声には成分としてゆらぎが含まれており、そのおかげで機械とは違う人間らしい声として聞こえるのです。
 
 
6.失った声を取り戻す
 先に説明しましたように、私たちはからの空気声帯を振動させ、声の元となるをつくり、その音を(あご)などの形を変えることによって、音に変化を加えにしています。しかし、喉頭(こうとう)ガンなどの病気により喉頭摘出(こうとうてきしゅつ)手術をしてしまうと喉頭と一緒に声帯も摘出してしまうため、声の元となる音をつくることができなくなり、声を出すことができなくなります。そのような方々が再び声を取り戻すために利用する装置に電気式人工喉頭(でんきしきじんこうこうとう)というものがあります。

 これは、声帯でつくっていた声の元となるを、失った声帯の代わりに電気機械的に作りだし、その音を頸部(けいぶ=首のあたり)から皮膚をかえして(のど)に送り込み、これまでと同じように(あご)の形を変え、とするものです。電気式人工喉頭における発声原理は上図を参照してください。なお、喉頭摘出手術後は、これまでつながっていた気管食道は切り離され、気管は喉に気管孔(きかんこう)という呼吸専用の穴が設けられることになります。
 
このような原理に基づいた電気式人工喉頭で発声するとこのような声になります。
 
[電気式人工喉頭の声]←ここをクリックしてください。
 
どうですか?
夏目漱石の「我が輩は猫である・・・」の一説を話しているのがわかりますよね。でも、ちょっと違和感がありませんか?なんか、ロボットのような一本調子の声に聞こえるのではないでしょうか?実は、現在製品化されている電気式人工喉頭のほとんどが一定の周波数の音しか出すことができないため、誰が使っても同じような一本調子のロボットのようしか出すことができないのです。従って、実際に利用している喉頭摘出者の方々から強く改善が望まれていました。

 そこで東京大学の伊福部(いふくべ)教授らは、九官鳥は声帯の構造などは人間とは全く違うのに、なぜ人間のような声が出せるのか?という疑問から基礎研究を進め、九官鳥の声が人間の声のように聞こえるのは、九官鳥がアクセントイントネーションを人間と同じように真似しているために聞いている人間の方が、ある意味だまされているということを突き止めました。そして、だまされるならだましてやればいいと、電気式人工喉頭にもアクセントやイントネーション、つまり抑揚(よくよう)をつける方法を考案しました。先程と同じ夏目漱石の「我が輩は猫である・・・」の一説を抑揚(よくよう)のついた電気式人工喉頭で発声するとこのようになります。
 
[抑揚(よくよう)のついた電気式人工喉頭の声]←ここをクリックしてください。
 
 抑揚(よくよう)がついただけで、ずいぶん聞き取りやすくなり、自然な人間の声らしくなったのではないでしょうか?この原理を応用することによって、歌を歌うことも可能となり、これらの機能を持った電気式人工喉頭は、現在製品化されています。今後は、声のゆらぎ成分なども加えることなどによって、さらに自然で人間らしい声に近いものに進歩していくでしょうし、将来は喉頭摘出前の本人の声も再現できるようになるかもしれません。

 
7.あなたの声は何色?
 プロ野球やサッカーのJリーグなどのスポーツ観戦の時やイケメンアイドルのコンサートの時などに、女性甲高い声で「キャーキャー」と言うことを「黄色い声援(声)」と言ったりもします。また「声色を変える」というような言葉もありますが、果たしてがついているのでしょうか?もし、声に色がついているとすれば、私の声あなたの声何色なのでしょうか?実は、音と色の関係については、1931年にカール・ジーツという人が低い音や高い音を聞かせながらカラーカード1秒間見せるという簡単なテストを行っています。その結果、各音階の音にそれぞれ次のような色が対応しているとのことです。
 
 「ド」:赤色 「レ」:すみれ色 「ミ」:黄金色 「ファ」:桃色
 「ソ」:青色 「ラ」:黄色 「シ」:銅色
 
 なお、それぞれの音にフラット(♭)がつくと暖色シャープ(♯)がつくと寒色を連想させるそうです。このことから、どうやらにもにも色彩があるようです。ですから「声色を変える」というのは、声の高低を変えると言うことですから、結果的に声の色も変わっていることになりますね。ちなみに先程の「黄色い声援(声)」は、「」の音だということもわかりますね。

 人は個人差はあるものの、それぞれのに対して、同じ色を感じているらしいのです。ちなみに何らかの音や声を聞くと、すぐにその音階がわかる「絶対音感」を持っている人がいるのと同じように、音や声を聞くと上記のぱっと思い浮かぶ人がいるらしく、その様な人は「色聴所有者」と呼ばれているそうです。色聴所有者に私やあなたの声を聞いてもらったら、どんな色を思い浮かべるのでしょうか?もしあなたが音や声を聞いて上記と同じような色が思い浮んだとすると、あなたも色聴所有者かもしれませんね。
 
 
8.おわりに
 私たちが普段何気なく話しているについて、ためにならないことばかりだったかもしれませんが、いくつか紹介しました。声は、人と人とのコミュニケーションに欠かせないばかりか、それぞれの声に個性があり、しかもまで持っているようです。まさに声は色々なのです。そんなひとつとってみても、ここだけでは紹介しきれないことや、まだまだ解明されていない不思議なことがたくさんあります。不思議なことが不思議のままで終わることなく、どうしてそうなっているのかな?という疑問を持つことが理科を好きになる第一歩のような気がします。
 
 
(完)
平成19年5月1日
須貝保徳(すがいやすのり)
 
 

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