第3話 
 子孫を残すために闘う遺伝子DNA


 
『主な対象読者』
高校生から大学1年生くらいまでのグループ。
『両親へお願い』
小学生の高学年から中学生くらいのグループに属する
児童や生徒には、少しむずかしい内容かとも思います。
また1部、刺激の強い写真も含まれておりますので、
あらかじめお父さんお母さんが一度、目を通していただき、
その上で、お父さんやお母さんが一緒に読んでください。
親子が時間と興味を共有できたら素晴らしいと思います。
 
 
 
本 文 目 次
 
第一章《生命をみせてください》
第二章《遺伝子を見せましょう》
第三章《DNAは美しい》
第四章《オシッコに癌ウイルス》
第五章《微生物との壮絶な闘い》
第六章《地球から消えた病気》
第七章《ボケはうつる》
さいごに
 
著作 田口文章
 

 
第3話 子孫を残すために闘う遺伝子DNA
今日は闘う遺伝子について、スライドを使いながら話をします。
途中で眠くならないで、最後まで聞いてください。


第一章《生命をみせてください》
 さて、細菌についての研究は、いつ頃からはじまったのでしょうか。現代の微生物学という学問は、いまから丁度130年前の1875年からはじまりました。微生物学は、自然科学の学問のなかで、特に生物学の分野で、一番古い歴史と伝統のある学問になっています。その微生物学の話をする前に、少し話を脱線させますが、これから数枚の珍しいスライドを見せます。これらのスライド供覧が終わってから、生命の話をしたいと思います。
 それでは照明を暗くして、最初のスライドをお願いします。これからの話の目的は、生命というものをあなた方に見せたいからです。生命は、人間や動植物の全てが持っている訳ですよ。それでは、あなたのもっている生命を見せて下さいと頼まれても、あなた方も私も誰もが、もっている筈の生命を「ハイ、これが私の生命です」と見せられる人はいません。生命現象は、不可思議で神秘的な存在ですが、本体はDNAという化学物質からできていることが解ってきました。その生命と私達との関係についてしばらくの間、ちょっと見て貰いたいと思います。




 このスライドは、国際バイオハザート標識と呼ぶ模式図の構造を示しています。世界的に病原菌などを扱う研究室にはこのよう印が入口に貼り付けてあります。こういう印がついている部屋は、危ない微生物の仕事をやっていると言う考えにもなりますが、実際は危険という意味よりは、いろんな安全設備が整っているので安全という意味を示します。
              
              
              
 
 
 次のスライドは、受精卵の初期段階を示す模式図で、キノコのような形をした肉の塊のようにしか見えません。このように肉の塊は、育つと馬になるのかウサギになるのか、それとも人間になるのかも判らない時期があります。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 生まれる前には、次のスライドのような形になってようやく人間の胎児であることが判ります。左側の黒いところが胎盤でお母さんのお腹の外側になる訳です。お母さんから見るとおへその側になります。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 次のスライドは、特殊なカメラで子宮の中にいる胎児を写したものです。これだけ見ると、これは人間になるのか、マウスになるのか、一寸わかりにくい時期のものです。こういう時期を経て、人間は生まれてきます。母親のお腹の中で10ヶ月間もの長い期間をかけて育ち生まれてくるのです。しかし、生まれてしまうと例えなかの良い親子であっても臓器の移植はお互いに出来ないのです。お母さんから見ると自分の子供であっても、生物学的には異物になります。ところが妊娠している期間だけお母さんは自分の子供を自己と扱い、異物とは認めないのです。そのために赤ちゃんは無事に育ち、生まれてこられるのです。時には、自分の子供でも異物として認めてしまうお母さんがいて、そのような場合は、異物としての胎児に対して母体は免疫抗体を作り出します。その結果、抗原としての胎児は免疫反応から流産してしまいます。みんなが生まれてきたと言うことだけでも、本来は不思議な過程をへて生まれてきているのです。生命誕生の瞬間をちょっと見てもらいました。
 
 
 次のスライドは、別な生命体です。真中に大きく写っているテニスボールみたいなものはリンパ球(細胞)と呼ばれる生命体で、その上に見える小さな豆みたいに見えるのがエイズという怖い病気を起こすHIVというウイルスです。HIVというウイルスは、リンパ球という細胞のなかで殖える生命体なのです。人間にとりつくと最終的にエイズという恐ろしい病気を起こします。ところが、エイズという病気を起こすウイルスも生きていて殖えながら病気を起こす生命体であるのですが、ウイルスが殖えるのに必要なリンパ細胞を含めて私達の体は細胞という生命体からつくられています。ウイルスと細胞という生命体どうしの戦いが、ここにあるのです。
 
 
 
第二章《遺伝子を見せましょう》
 次のスライドは、ちょっと古いDNAの写真なのですが、ウイルスでもリンパ細胞でも脳の細胞でも材料としては何でもいいのですが、生命体を化学的に処理すると、左側上の写真のように透明なDNA溶液ができます。中段の写真は、この透明な水溶液にアルコールを少し加えるとDNAは白く濁って析出してくることを示しています。その下の写真は、白く濁った液にガラス棒でグルグルとかき混ぜると白い綿のようなものが棒に付着してくることを示しています。この白い綿を拡大すると右側の大きい方の写真のようになり、これがDNAという化学物質なのです。細胞の中にある生命体の生命現象を担当する遺伝子であるDNAは、白い綿のようになることを示しています。生命体の基本は遺伝子です、遺伝子は核酸から出来ていることが解ります。核酸とは、これは純然たる化学物質で、呼吸もしなければ、エネルギー代謝も何もしない物質なのです。高分子の化学物質として実験上にとらえられるようになって、生命というのが実験のまな板に乗って実験科学としての生命科学が誕生し、その科学が今花盛りになってきているのです。
 
 
 次の2つのスライドは、生命の本質である遺伝子DNAの構造を示す略図です。遺伝子は、録音テープのような細いテープ2本がからまりあっていることは良く見たり聞いたりしていることでしょう。その2本のテープには、A、G、T、Cとかいう暗号の文字が刻まれています。ところが、録音テープを見せられても遺伝子またはDNAはすごいなあ、これが生きている証拠だ、これが生命の本質だという神秘さや実感がわかないと思います。このような絵をどう見ても、何回見せられても説明されても、あんまり科学的に面白いと興味がわくことはないと思います。
 
 
 
 
第三章《DNAは美しい》
 下のスライドは、人によっていろいろに見えるかもしれません。このスライドは、日本では私しか持っていない非常に珍しいものです。このスライドを見た人には、この絵はレースの編物に見えたり、パリのノートルダム教会にあるステンドグラスの有名なバラの花に見えたり、宇宙の星座にも見えるようです。皆さんには、どのように見えるのでしょう。想像をたくましくしてください。

DNAという遺伝子の糸をまっすぐに伸ばして、それを輪切りにして、その断面を上からのぞくとこのような形に見えるのです。紙の上に書いた遺伝子や写真の模式図とはまったく違ったものなのです。遺伝子であるDNAの構造というのはこういう形をしているのです。ちょっとだけ科学的に説明しますと、核酸は塩基、糖とリン酸から構成されています。この模様の真中にある青い色の六角形のものが、AとかGとかTとかCとかと呼ばれる塩基で、アルカリ性の物質です。その少し外側に形は正確には見えにくいのですが、橙色の長細いひし形の構造がありますが、これが実際は亀の甲のような形の糖なのです。亀の甲のような構造もこの面に対して角度がありますから、教科書に書いてあるような形にはちょっと見えないのです。青い色の塩基が中心にあって、その近くに橙色の糖がある、その糖の間を黄色の線のリン酸がつなげています。核酸は、塩基があって糖があってリン酸がつながっている。その他、チカチカと光って見える点は、水素であったり酸素であったりまたは窒素であったりと原子が輝いて見えるのです。

このスライドは、DNAの二本のテープと言われる構造を横からながめたものです。先に示した遺伝子DNAの構造を示す略図のスライドとはずいぶんと違って見えますが、同じ構造を示しているのです。
この文様が宇宙に輝く星雲でなく生命体の構造なのです。地球上にいつ生命が誕生したかは、私自身はっきりとは知りませんが、何十億年か前に地球上に最初の生命体が誕生しました。その時から現代の私達まで、すべての生物はこのスライドのような構造のDNAを持っているのです。全部例外なく、すべての生命体は、こういう形をしたDNAを何億年か、何千万年か、生命の誕生以来ずっと受け継いできているのですね。実に不思議な話ですね。
 このDNAの断面図を見た時、何を感じるかは君の感性の問題ですから、どの様に見えどのように感じてもいいのです。私は、これを見たとき「生命の本体のDNAは美しいなあ」と感動しました。偽者や安物と違って本物は美しいのです。DNAは、これだけがっちりとした構造に組み立っているのだとすると、遺伝子は紫外線が少しぐらいあたってもこわれない安定した作りであることに強い印象を受けました。ですから親の性質は、子供の性質、孫の性質へとずっと伝わっていくのです。
 
 
 
第四章《オシッコに癌ウイルス》
 さてここからは実際に生きている生命をお見せします。
ここで紹介するスライドは、私が見つけだした生命の写真です。ある大学病院の内科の先生が、私の研究室を訪ねてきて、どうしても良く判らない患者がいて、困っていますと言うのです。それでお手伝いした時に作った写真のスライドを数枚お見せします。
 
健康な人のオシッコは、透明なばかりかそのなかには赤血球や白血球もふくめて細胞はほとんど見つかりません。ところがこの患者さんのオシッコは、軽く遠心して沈殿を染色したら、いろいろな細胞がたくさん見つかりました。このスライドには、右上の方の小さな丸い点2つあって薄い面積のものが見えますね、これは尿道や膀胱からの正常な細胞です。その下の方にちょっと大きく黒く見えるのは、異常な細胞です。
 
 
このスライドの真ん中には、細胞核が10個もある異常な細胞が見えます。
これはある種の「ウイルスの感染を受けた細胞だ」と私には直感でわかりました。ウイルスの感染を受けている細胞がオシッコに出てくることがあります。という事は、腎臓から膀胱、オチンチンの先までのどかの細胞がウイルスの感染を受けていることを示していると思われます。
 
 
 
このスライドは、これは結果的には私の予想が的中したのですが、そのなかの代表的な細胞を見ると、細胞全体が風船玉のようにまん丸にふくれ上がり、そのうえ細胞の核も細胞質一杯にふくれ上がり、その中にまた特に濃く染まる丸い奇妙な構造が見えます。これはウイルスの固まり(専門的には封入体と呼びます)で、ウイルスは酸性ですから塩基性色素に強く染まっているのです。ウイルスの粒子は、電子顕微鏡でなければ見えないのですが、数多くのウイルスが寄り集まると、固まりとして普通の顕微鏡でも観察できるようになるのです。
 
この細胞がウイルスを持っていることが推測できましたので、次にウイルスを特殊な方法で集めて電子顕微鏡で拡大して見ました。予測した通りDNAを遺伝子とするウイルスが、その患者さんのオシッコからたくさん見つかったのです。これは私がアメリカにいた時から取り扱っていたガンを起こすウイルスの構造と同じであるように思えました。
 
 
 
 
 そこで患者のオシッコから集めたウイルスを、ハムスターの背中に注射してみました。下のスライドは、オシッコから集めたウイルスを注射して2ヵ月もするとハムスターの背中にコブが出来てきたことを示しています。あなた方は、小さい時に「こぶとり爺さん」の話を聞いたことがありますね。いいお爺さんと意地悪お爺さんがいて、いい爺さんのコブはきえてなくなりました。しかし、悪い方のお爺さんは、コブが大きくなって死んじゃったという話です。「コブ(瘤)」というのは、今でいうガンのことで、いいお爺さんのコブは良性のガンで、意地悪お爺さんのコブは悪性のガンであった話なのです。
 
 さて、このハムスターの背中に出来たコブは、悪いお爺さんにできたコブと同じで、悪性のガンで、このハムスターはガンで死んでしまいました。この写真を撮った時はまだ生きていましたから、焦点がちょっと甘いのですけど、ガンができて自分の身体の2倍ぐらいまで大きくなりました。そのガンの組織を取り出して、特殊な操作で薄い切片を作り、染色した標本がこのスライドです。あの患者さんのオシッコに見つかったウイルスは、ガンを起こすウイルスであったのです。
 
 
 
私たちウイルス学の専門家が日常的に使う技術の1つに、体の中にある細胞を試験管の中で増やす細胞培養と呼ばれる技術があります。その細胞培養の技術をもちいて、ハムスターの背中にできたコブを試験管のなかで培養してみましたら、このスライドに示すような細胞が非常に元気よく殖えだしました。この細胞は、みたからに悪性のガン細胞の様相を示しています。この培養された細胞を特殊な染色液で染色して癌タンパク質の検出を試みました。
 
 
 
 
 
このスライドで青緑に光って見えるのが、細胞の核内に作られている癌タンパク質なのです。ガンというのは、癌タンパク質を造る遺伝子が働いて癌タンパク質を作るからガンなのです。癌タンパク質が消えてしまえば癌では無くなります。先ほど見たキレイなDNAの構造のどこかにガンタンパク質を造る遺伝子を持っていると、その細胞は癌タンパク質を作り、非常に悪性なガンになりその宿主を殺すようになります。
 
 
 
 
第五章《微生物との壮絶な闘い》
 次ぎに人間と細菌との闘いのようすを見てもらいます。
自分の歯を磨く時、口を開けて舌をながめると、普通はモモ色にみえるものですが、ときには舌が白くなっている人もいれば、赤くはれている人もいるし、黒くなっている人もいるかと思います。このスライドの白い舌は、エイズの患者さんの舌を撮った写真です、白くカビが生えちゃったのです。体の抵抗力が弱くなってきた患者では、口先から肛門までカビが生えちゃうこともあるのです。
 
 
 
 
 
 
 
 
 数年前「人食いバクテリア」と言う言葉がたびたび新聞等で出ていました。このスライドの写真は、その人食いバクテリアの感染を示しています。普通に私達が皮膚に持っている細菌と非常によく似ている細菌なのですが、この細菌の感染を受けると見ている間に私達の体が溶かされてしまうのです。右側の子供のお尻は、皮膚がどんどん溶けています。専門的には潰瘍と呼びます。胃の粘膜が溶けると胃潰瘍というのと同じです。この細菌は、こういう大変なことをいとも簡単に起こす訳です。左側の子供のお尻は、これは人食いバクテリアとちょっと違って、肉を溶かすのではなく細胞をその部分で殺してしまう力があるのです。黒くなっている所はお尻の細胞が死んじゃったのです。人間としては生きていながら、体の一部はどんどん死んで行ってしまうのです。このスライドの細菌は、両方ともに細胞を殺す強い毒素をだす特徴があります。右側の細菌は、タンパク質を溶かすタンパク分解酵素を非常にたくさん作るものですから、体の表面のタンパク質がどんどん溶けてしまいます。タンパクを溶かす酵素を作る遺伝子があることを意味します。左側の壊死を起こす細菌は、細胞を殺す毒素タンパクを作ります。
 
 
 
 元気のよい赤ちゃんは、まんまるに太っているのとお腹は風船でも入っているかのようにふくらんでいるのです。この2つのスライドの赤ちゃんは、コレラと呼ぶ病気の症状を示しています。上のスライドがお腹が平らになったこコレラの赤ちゃん、下のスライドは目がくぼんでしまったコレラの赤ちゃんです。通常は日本にはあまり存在しない病気ですが、アジアにはこの病気は今も多いのです。口からコレラ菌が入って罹る病気なのです。赤ちゃんは、お腹がふっくらとふくれているし、手も綿菓子の綿のようにふっくらしているものなのですが、コレラという病気に罹ると水のような下痢便がはげしく出ます。お米のとぎ汁のような真っ白な下痢便で、体中の水が便として体外に出てしまうのです。どのくらいの量の下痢便が1日に出るかというと、これまでの世界記録では、体重60キログラムの大人が、一日中に75キログラムの下痢便を出したとなっています。これは常識では考えられない量ですよ。あなた方の体重が、仮に50kgあるとして、60kgの水のような真っ白なウンコをしたことになります。信じられないようですけど、コレラという病気はコレラ菌の毒素によって起こり、体中の水が体の外に出てしまうので、体中の塩分の濃度が高くなります、そのためどんどん輸液をする必要があります。コレラ菌の毒素は、細胞の中の水を細胞の外に出してしまう働きを持っている特殊な働きをします。コレラに罹ると、誰でもたちまちにして「シワクチャ婆さん」のように変わってしまいます。コレラは毒素による怖い病気なのです。
 
 
 
 
 
 
 
 破傷風菌は、強い毒素を作る菌の代表です。世界で最強の細菌なのです。学校のグランドをかけ回って転んで、運が悪く古クギが足や手に刺さったとしますと破傷風という病気になる可能性があります。破傷風という病気を起こす細菌は、世界中どこの土のなかにも生息しています。この細菌の性質についての研究は、北里柴三郎という熊本県出身の日本人が世界で初めておこないました。破傷風に罹り死ぬ間際には、患者の身体が「逆エビ状」になるのが特徴です。特に首が後ろにあおむけに反ってしまう硬直(硬くなること)が起こります。
 左のスライドの写真上は、破傷風菌の普通の光学顕微鏡による形態を示しています。この太鼓のバチのような形をした菌が体の中に入ると、筋肉を硬くしてしまう強力なタンパク質の毒素を作り出します。破傷風菌は、タンパク質の毒素を作らせる遺伝子をもっています。破傷風という病気は、運動神経が毒素で侵され、手足や横隔膜の運動がおかされます。右のスライドの写真は、破傷風菌の毒素の作用で首と背中が逆エビのように反り返ってしまった症状を示しています。
 

 このスライドの下の写真は、ずい膜炎菌によって脳は炎症を起こして赤くなった脳の写真です。上右の写真の試験管には、脳にあるずい液と呼ぶ液をいれてあります。ある患者さんから取り出したずい液は、このように真っ白に濁っていました。普通健康な人のずい液は無色透明で、細菌や白血球等は含まれていません。脳を取り巻いている膜が犯されてずい膜炎になると、脳のなかの細胞でずい膜炎菌が増え、ずい液には、タンパク質も大量に出てきますので、ずい液は真っ白ににごってしまいます。またリンパ球や白血球が数多くずい液にでてきます。上左の写真は、ずい膜炎菌を細胞の中に取り込んだ白血球です。小さな粒が細菌です。ここまでは、細菌と人間との闘いの様子を説明しました。
 
 
 
 
 
 
第六章《地球から消えた病気》
 これからの数枚は、ウイルスによる病気を説明します。
このスライドの写真は、腕にイレズミをしている白人の身体で、ウイルスによる肝炎のために全身に黄疸があらわれ、黄色になっていることを示しています。A型肝炎、B型肝炎とかC肝炎だとか肝炎を起こすウイルスは、たくさん知られています。ウイルスが増殖して肝炎を起こすと肝臓の細胞が壊れて、胆汁という黄色い色素によって身体が黄色になってしまいます。お医者さんは、肝臓の働きを知る検査をしなくても黄疸を診てこの患者さんは肝臓が悪いと判ります。
 
 
 
 
 
 
 
 
 このスライドの写真は、貴重なもので今後は一枚も撮れないかも知れません。これは天然痘という病気のインド人の写真です。人間が科学の力で、この地球上から消滅させることができた病気の最初がこの天然痘という病気です。つい最近までインドという一国でも300万人もの天然痘の患者さんが、毎年でていました。200年以上も昔イギリスのエドワード・ジェンナーというお医者さんが、天然痘のワクチンを作ってくれました。私達日本人は、この天然痘のワクチンを接種されていますから、原則的には天然痘には罹らないことになっています。ワクチンを接種されてない人が感染すると「ハレモノとカサブタ」が全身くまなく出来るのです。この三枚のしゃしんからもそれが見てとれます。
 昔からある古い病気で、キリスト教の旧約聖書にも書いてあります。その当時も天然痘は恐ろしいからみんなが嫌がっていました。例え、天然痘の人が運良く治って助かったとしても、家族であっても自分達の近くにおいておくのは嫌で、おじ捨て山やうば捨て山みたいに山に捨ててしまったのです。山に捨てられた人達が、自分の兄弟や親や友達が恋しくなって、山を降りて町へ戻ってくると、棒でたたかれたり石を投げられたりして、殺される羽目になったようです。命からがら山へ逃げ帰って、次に山から町に戻るときは、「天然痘であった人」と簡単に見破られないように知恵をしぼって、彼らは「白粉・オシロイ」を考え出しました。顔に白いものを塗って、「天然痘の治った跡」を見えなくして街に戻るようになりました。そのオシロイが今で言う女性の化粧という原点となり、お化粧という道具が発達しました。
 
 
 
 右のスライドの上の写真は、治りつつある手と腕で、乾いたカサブタが見えます。このカサブタが患者の身体から飛び散ります、それを吸い込むと下左の写真の様にみるも無残なほどひどくなり、鬼のような顔にもなるのです。ところがこの患者さんは、運よく助かりました。下右の写真は、キレイな顔になった回復期の顔面です。左右二枚の写真の人は、同じ人なのです。信じがたい気がします。
 
 
 
 
 
 
 
 次のスライドの写真は、君達が小さい時に罹ったかもしれない水疱瘡(みずぼうそう)または水痘(すいとう)という病気です。この水疱瘡は、ウイルスによる病気です。この写真を見ている人のなかで水疱瘡をやったことがある人が半数近くいると思いますが、その人達はみんな完全に治ったように思っていることでしょう。しかし、水疱瘡のウイルスは、その治ったと思っている人の神経細胞にかくれて住み着いています。大人になって何かが引き金、例えば、不摂生(ふせっせい)、タバコの吸いすぎ、お酒の飲みすぎ、夜更しなどが原因となって、神経細胞に潜んでいたウイルスが突如として殖えてきます。神経に沿ってからだの表面に水泡をつくり帯状疱疹という病気になります。子供の時に罹ると水疱瘡で、大人になって罹ると帯状疱疹となります。このウイルスは、神経細胞と密接な関係を持ちますので、その神経が支配している場所に限って水痘が現れます。この二つの病気は、罹った本人が大変なのは別として、どうしてこういう不思議な現象になるのでしょう、不思議に思いませんか。
 
 
 
第七章《ボケはうつる》
 世にも不思議な病気についての写真を最後にお見せします。
 萩原浩著「明日の記憶」という小説があります。この小説に登場する49歳の営業部長は物忘れが激しくなり、お医者さんから「若年性アルツハイマー」と診断されます。記憶が消えていくことに対する恐怖を萩原氏は描いています。近頃は若年性の認知症と診断される人の数が増えてきていると聞きます。
 さて、みなさんの身のまわりに「認知症=痴呆=ボケ」のお年寄りがいませんか。ボケの一部は、年をとったからボケたのでもなく、お酒を飲みすぎたからボケたのでもないのです、ヒトからヒトにうつるボケがあるのです。最後はうつるボケの話です。ボケまたは痴呆とは差別用語で、いま現在は認知症と呼ぶことに統一されています。認知症の患者さんを差別するつもりはありませんが、しかし、ここでは「ボケ」という言葉を使わせてもらいます。
 
 
 
 
 
 右のスライドの写真は、正常なヒトの脳を特殊なメスで輪切りにし、それを特殊な染色液で染めたものです。輪切りにする位置を少しずつ上から下にずらしていくと、脳の構造の断面が少しずつ変ってくるのが判ります。このような構造の脳が頭蓋骨(ずがいこつ)のなかにすきまなく一杯に納まっています。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
このスライドの写真は、ヒトの脳を輪切りにした断面を示しています。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 右のスライドの写真は、クロイツフェルド・ヤコブ病で死亡した人の脳の左半分の断面を示しています。前の正常な脳と比べて、全体的にすきまがあり小さく見えると思います。ヤコブ病という病気になると、植物人間になって死亡するのですが、その時脳を調べるとこの写真のように変化しているのです。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 萎縮して小さくなった脳の変化を顕微鏡で調べてみましょう。鋭いメスで脳組織の切片を作り、それを染色して顕微鏡で観察します。だんだんとレンズの拡大をあげて小さいものを大きくしています。さてどうですか、脳組織の一部が右のスライドのように見えます。
 
 
その一部を拡大すると下の左のスライドのように脳の組織がスポンジのように穴だらけに見えてきます。更にレンズの解像力をあげると下の右のスライドに見えるように、大きなスポンジのある脳に変化しているのが判ります。これがヤコブ病の形態的な特徴です。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 ヤコブ病で死んだ患者さんの脳をすりつぶしてマウスの脳内に注射すると、ヒトのヤコブ病は、注射されたマウスの脳にスポンジのように穴を作ります。このマウスの脳もヤコブ病のヒトの脳と同じような変化が観られます。ヒトのヤコブ病がマウスに移ったのです。ボケの一部が移る病気であることが判ったと思います。
 
スライドをどうもありがとうございました。それでは明かりをつけてください。
 
 
さいごに
 これまでに多くの写真をみて貰いました。全ての写真が人間という生命体と細菌やウイルスという小さな別な生命体との格闘の様子、または戦闘の結果を示していました。生命の本体は、その生物の大きさに関係なく、素晴らしく美しい遺伝子・DNAです。そのDNAが自分の子孫を残すために激しい生存競争(弱肉強食)を繰り広げているのです。戦いに負けると、この地球から永遠に消されてしまいます。エイズを起こすHIVウイルスは、とても賢いウイルスと思います。しかし、人類の叡智(えいち)が天然痘のウイルスより賢明であつたため、天然痘を地球から消滅させることができました。
 第3話 −子孫を残すために闘う遺伝子DNA−」を通して、諸君に伝えたかった私の希望をここに簡単に纏めます。ここに紹介したのは科学の物語です、科学は職業として大変に魅力があります、科学を仕事とする科学者は未知なる物質や現象の謎解きをするプロなのです、人類の歴史でこれまでに誰もが見つけられなかった新事実を発見・発明したときの心のトキメキや人の為になる働きをする喜びは最高であることを伝えたかったのです、私の意図する事柄を真剣に考えてみて下さい。近い将来世界レベルの科学の旗手がこの文を読んだ諸君の中から誕生することを期待しています。ガンバッテください。
 
 
平成18年12月1日
田口文章
 
 
 

 

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