第34話
 鉱物の夢あれこれ
 

 
『主な対象読者』
 読者としての対象は、小学高学年から中学生くらいかなと思います。
 
『著者からの希望』
「鉱物の夢あれこれ」は、美しい天然の結晶についての話です。いまも地球のどこかでダイヤモンド、エメラルドなどの美しい鉱物の結晶が作られています。皆さんがこの不思議な現象に興味をもってくれることを期待しています。
 
 
 
本 文 目 次
 
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≪著作権について≫
「鉱物の夢あれこれ」に掲載されている内容および写真などの著作権は、全て著者と微生物管理機構に帰属します。いかなる部分も、いかなる媒体かを問わず、いかなる目的であれ、無断での複製、転送、転載などを行わないようお願いします。
 
著者 松原 聰
 

 
 
第34話 鉱物の夢あれこれ
 
今でも夢を見る
 私は今でも「鉱物をひろう夢」を見ます。さすがに、61歳にもなると、「試験会場に遅れる!」などという夢は見なくなりました。夢の中の鉱物達は、とても立派で、「どうしてこんなすばらしい結晶が落ちているのだろう?」と思いつつも、嬉しくて夢中でポケットや袋に入れるのです。ひろっているのは、緑柱石(写真1)トパーズ(写真2)など分かり易い結晶だけでなく、形が判然としない赤や青に彩られた塊もあります。
 
 
  写真1(緑柱石)                写真2(トパーズ)
 
場所は、鉱山のような掘り跡であったり、小川の岸辺であったり、どこかの家の裏山の崖であったり、きっと私が現実に行ったことがある場所とどこか似た雰囲気があるように思えてなりません。
 
 しかし、ポケットや袋に入れた鉱物を無事、家まで運んできたことがないのです。ひろいすぎて、どうやって持ち帰るか悩んでいるうちに目が覚めたりします。パーキングしておいた車が見当たらなくウロウロするうちに、また複雑な鉄道の乗り換えでマゴマゴするうちに、目が覚めるといったこともあります。
 
 面白いことに、あまり日にちを経ずに、夢の続きを見ることもあります。前に行った場所を探しているのですが、なかなか行き着けません。くやしい思いをしながら現実に戻るのです。心理学者がどんな判定をくだすのかは分かりませんが、自然物を手に取ってそばに置いておきたいという少年の時からの願望がまだ心の奥に残っているのでしょう。
 
子供のころは自然が好き
 小学生の頃までは、多くの子供は自然が好きです。だから、理科という科目に相当する観察や実験には興味を持ちます。ところが、だんだん暗記もの、つまり自分で見ることも経験することもなさそうな、しかし重要なことだからと覚えさせられること、が多くなると理科が嫌いになる子供が増えてきます。これは、「理科離れ」と騒がれる最近だけの風潮ではなく、昔からあったことなのです。社会のことがわかりかけてくる年頃になると、自分が将来なりたいことと、なれそうなことが必ずしも一致しないことが見えてきます。
 
 高校生になれば、現実的な将来を考えて大学の選択も必要です。大学の理工系は、必須科目も多く、卒業論文が近づくと実験などで夜遅く(徹夜もよくあります)まで時間をとられます。さらに、どこかの会社に技術系職員で入ったとしても、たいしてえらくはなりません。日本の大会社や官僚のトップ・クラスがほとんど文科系で占められていることを思えば無理して理工系に進もうとしない子供達の方が自然かもしれません。
 
 実験や技術開発には多少なりとも危険が伴います。もちろん誰だって傷付いたり死んだりするのはいやですから、慎重におこなおうとしますが、危険を完全にゼロにすることはできません。単純なミスでの事故は論外ですが、ほとんど予測がつかなかった事故はあきらめるしかありませんし、それは将来の大切な財産にもなります。
 
 ところが、どんな事故に対しても、社会は厳しい目で対応しますので、学校では実験は敬遠されがちです。こうして、理工系はやっかいなわりには、出世や大金持には縁遠い分野となっていきます。でも、多くの現役の理工系の研究者や技術者は、今まで誰も気付いていない事象や機能を発見する喜びをエネルギーにして働いています。
 
 それだから、「理科嫌い」の中でも、「理科好き」の子供達は絶えることはありません。私もそんな子供の一人であったかもしれません。理科の暗記も苦にすることもなく、むしろ楽しんで、虫、草、化石、鉱物と興味の対象を変えてきました。高校生の頃、親にはよく言われました、「そんなことをやって飯が食えるのか?」と。
 
地球温暖化と鉱物
 今、世界的に地球温暖化がとりざたされています。異常気象の原因がもっぱら地球温暖化によるものと言われています。18世紀後半から始まった産業革命以来、社会は大量の化石燃料(石炭、石油など)を使ってきました。エネルギーを取り出した後には、二酸化炭素ガスが放たれます。
 
 二酸化炭素ガスは、海水や炭酸同化作用を行う植物によって吸収されます。海水中の炭酸ガスは、炭酸カルシウムの殻などを持つ生物(貝、サンゴ、有孔虫など)によって固定されます。人工的に放出された炭酸ガスがたいしたことがないうちは、地球規模の吸収システムで十分浄化されます。
 
 
 それが、二酸化炭素ガスが異常に多く放出され、植物の大規模伐採も加わって、このシステムがうまくまわらないようになっているらしいのです。二酸化炭素ガスが増えると、温室効果で地球が暖まるというのが、二酸化炭素ガスの悪者説なのです。
 
 アニメ風に語ると、『古代に神様が、後に地球に災いをもたらす悪者として、「悪魔の二酸化炭素ガス」を地底に封印しておいたのに、悪魔から莫大な利益を得られると知った一部の人間が、封印を解いてしまったのだ。世界中に散らばった悪魔を、正義の使者がどうやって退治し、元の平和な地球に戻せるのか、これから長く危険な冒険が始まるのです。』となるのでしょうか。
 
 燃料をなるべく使わないで、無駄なエネルギーを少しでも減らせば、家計も助かるので、おおいに賛同できます。「省エネ、もったいない」の運動には大賛成です。でも少し待って下さい。それで二酸化炭素ガスの増加にブレーキをかけることはできますが、地球の温暖化が止まるかどうかは別の問題です。
 
 地球46億年の歴史をたどっていくと、どう考えても、今の平均気温より数十度以上も高いことがあったし、逆に赤道まで氷におおわれていたこともあったようです。人間を含め生物の活動とは無縁のところで地球の環境は変化してきたのです。
 
 今からわずか5000年ほど前の縄文時代は、今よりずっと温暖で、海水面があがり、海岸が関東平野の奥深くまで入っていました。東北地方や北海道が、ほどよい気候のようでした。弥生時代から現在にいたるまで、平均的には寒くなってきた期間ですが、気温の変動はその中でも、上下を繰り返しています。
 
 炭酸ガスを減らして、ほんの一時的には気温が低下したとしても、いずれ人間が滅びる(そんなことが早くこないように願うだけです)までに、何回も暑くなったり寒くなったりするはずです。快適な気温を維持しようなどという非科学的な政策より、どんな気温になっても何とか人間の生活が維持できるような科学的な方法を考えるのがこれからの課題です。
 
 二酸化炭素ガスは、炭酸ガスとも言いますが、これにもう一つ酸素が加わると、炭酸基CO3という形になります。ほぼ正三角形の頂点に酸素の原子が、その三角形の中心に炭素の原子が並んだ構造をしています。この炭酸基にいろいろなほかの原子が結合して、鉱物が作られています。このような鉱物群を炭酸塩鉱物とよび、200種類以上も知られています。
 
 一番よく見られるのが、方解石(写真3)(炭酸カルシウム、CaCO3です。サンゴや貝殻が堆積してできた石灰岩(写真4)はほとんどが方解石からできています。石灰岩はセメントの原料にもなるし、熱変成を受けて再結晶したきれいなもの(大理石(写真5)とも言われます)はインテリアとしても使われています。また、透明な方解石の結晶を通すと、はっきりと二重に物が見える、という複屈折の実験でもおなじみです。
 
  
写真3(方解石)       写真4(石灰岩)        写真5(大理石)
 
 銅の炭酸塩鉱物で有名なのは、孔雀石(写真6)藍銅鉱(写真7)です。孔雀石はアクセサリーやインテリアでおなじみですが、緑色の顔料(岩絵の具)としても昔から使われてきました。藍銅鉱は化学成分が孔雀石とわずかに違うだけなのに、藍色をしていて、これは藍色の顔料として使われます。こういった鉱物は地球のほんの表層部でできますから、大気中の二酸化炭素を固定していると考えられます。
 
 
写真6(孔雀石)               写真7(藍銅鉱)
 
ところが、マントルの内部にも炭酸基があって、マグマとして吹き出し、炭酸塩鉱物の熔岩(写真8と写真9)ができることもあります。もう少し考えをめぐらすと、女性のあこがれの宝石、ダイヤモンド(写真10)の材料は炭素ですから、マントル奥深くの炭酸ガスからできた可能性もあります。
 
   写真8(玄武岩)       写真9(流紋岩)    写真10(ダイヤモンド)
 
 最近、四国中央市から、火山岩中の炭酸ガスの小さな気泡に包まれたものすごく小さな(約1000分の1mm)ダイヤモンドが見つかり話題をよびました。今、炭酸ガスは悪者みたいに言われていますが、こんなことを知ったら、アニメに出てくる単純な悪者と同じにしてしまうのはかわいそうだと思いませんか?
 
夢は未来に
 冒頭に、寝ている時の夢の話をしましたが、夢にはもう一つの意味があって、将来やってみたい、できてほしい、と思うのも夢です。ふつう、自然を語る時に、私たち人間が生物のなかまなのであたりまえなのかもしれませんが、とかく生物が中心、というより生物だけが自然物であるかのように扱われています。
 
 「自然豊か」という言葉は、どうみても「生物が豊か」という意味で使われているとしか思えません。生命を保つためには、ほかの生命を犠牲にする(食べる)わけですから、お互い「生物が豊か」でないと困るわけです。
 
 しかし、そういった実利的、感情的な自然感を別にすれば、もともと自然は地球そのものなのです。地球がたどってきた変化は、生物の活動とは全く無縁なのです。地球の変化を受け入れ、適応したものだけが、子々孫々生き延びてきました。地球(自然)の激動に対処できずに滅びていくことも多いのです。
 
 地震や火山の災害は局所的ですが、人口が多い所でおきれば、大きな被害が予想されます。だからといって、地震や火山の活動を人工的に止めることはできません。正確な予報ができるようになることが地球科学の課題です。さらに、多くの人々が一時的に避難できる場所の確保と、持ち出せなくて被害にあった家財や土地の復興が政治的な課題となります。
 
 地震予知は無理だという研究者が大勢いますが、大阪大学の山中千博先生の石英(水晶)の圧電効果(鉱物に圧力をかけたときに発生する電荷)を地震前兆現象に使えないかというお話は面白いと思いました。たいていの岩石には石英が入っているので、地震発生前の圧力を圧電効果で知ることができれば地震予知に結びつく可能性があるわけです。
 
 地球の内部は直接見ることができませんので、地震波などの伝わり方と高い圧力をかけた鉱物実験などで推定します。すいかの中味の熟れ方を、たたいて、つまり波を与えて、その音で知ることと似ています。月や火星に行けても、地球の内部には行けません。ジュール・ヴェルヌの冒険小説の多くは現実的になりましたが、あいかわらず「地底旅行」だけは夢物語のままです。本当に遠い夢のままなのでしょうか。地底掘削船の窓から、キラキラ輝くダイヤモンド(写真10)や金銀の鉱石(写真11)が見えたら、どんなに感動することでしょう。
  写真11(金銀鉱石)
 
 少し現実味を帯びた夢とすれば、私たちが必要とする鉱物資源をどうやって環境に悪影響を与えずに確保するかでしょう。今は資源を持っている国が大国となりつつあります。原油が1バレル(約159リットル)100ドルそこそこまできています。モーターなどに使う高性能磁石に必須なレアアース(希土類元素のことで、ネオジム、サマリウムなど17種類の元素)は中国が主な産地で、価格設定の主導権をにぎっています。出し惜しみされているので、国際的な値段は当然あがります。
 
 一昔前まで、鉱物資源は外国から買えばよいといった政策が主流で、日本にある資源の調査や開発にはあまり熱心ではありませんでした。そのつけがこれからボデイブローのようにきいてくるかもしれません。国内の鉱物資源がきっと見直される時も来るでしょうし、今、国内でゴミとして廃棄しているものから、あらゆる金属の回収が必要となってくるでしょう。
 
 価格の高い金は、その回収するシステムができています。0円や1円で買った携帯電話が、同じ重さのふつうの金鉱石より多く金を含んでいることを知っていましたか?いらなくなった携帯電話も今や邪魔な廃棄物ではなく、立派な金鉱石なのです。風化した土や温泉の中にも使える金属が入っています。流されて海に行く前にうまく回収できる方法を考える必要もあります。
 
 すぐに利用できるかどうかは別にして、私たちが知らない鉱物はまだあるのか、それらがどうやってできるのか、といった自然科学的な不思議発見も人をひきつけます。皆さんが広い意味での鉱物に興味をもって、チャレンジすることはまだまだ山のようにあると思います。
 
 
平成20年1月4日
著作者 松原 聰(さとし)
 国立科学博物館地学研究部長
 
おススメ著書
『ダイヤモンドの科学 美しさと硬さの秘密 −最も硬い物質ダイヤモンドは、
どのようにして磨くのでしょうか?』(講談社)
『鉱物ウォーキングガイド』(丸善)
『新鉱物発見物語』(岩波書店)
『鉱物と宝石の魅力 つくられかたから性質の違い、日本で取れる鉱物まで』
 (ソフトバンククリエイティブ)
 
     
 

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