第36話
 国連職員をめざす人のために −その4−
 

 
 
「主な対象読者」
 将来は国際的に活躍したい、または将来国連職員になりたいと考えている高校生から大学生および40才代の転職可能年齢層が主な対象です。これを読んだ親御さんは周りにいる若者に国連職員という職種があることを説明してもらいたいと願っています。
 
「本著作のめざすもの」
 国連職員になるにはどうすれば良いのか、その道を教えてもらいたいとの問合せを聞くことがあります。そこで、「国連職員をめざす人のために」という若者への指針的な散文を筆者の個人的な体験にもとづく内容を含めてまとめていただきました。
「その1」から「その5」の5編に分けて連載します。
尚、この原稿は、いずれ単行本にしたいと考えています。
 
 
本 文 目 次
 
以下、次号
国連職員をめざす人のために −その5−
 第七章 採用試験
 第八章 おわりに
 
著作 玉城 英彦
 
 

 
 
第36話 国連職員をめざす人のために −その4−
 
第六章 国際機関と日本人
30.WHO職員のプロファイル
 国連機関に就職する方法は様々であることを前章で記載した。ここでは、国連機関のスタッフのプロファイル、日本人像、政府間機関としてのWHOを眺めてみたい。
 
 WHOの正規職員は2005年9月現在、4268人で、プロフェショナルスタッフが1681人(39.4パーセント)、一般職種いわゆる秘書が2320人(54.4パーセント)、およびカントリーオフィサーが267人(6.3パーセント)である。
カントリーオフィサーとは採用された国だけで勤務できる職員のことで、通常一般職ポストである。上のプロフェショナル、すなわちPスタッフとは基本的にグローバルな職員で、上司の命令で世界のどこにでも赴任しなければならない。この条件は当然のようだが、多くの場合、やっかいなところで思わぬ力を発揮する。上司が誰かを解雇したい時に使う常套手段でもある。最も危険なところ、環境が悪いところに異動命令が出ると多くのひとは辞めていく。
 
 上記の(長期契約の)正規職員以外に短期の職員が4087人、現在雇用されている職員の半分を占める。このひとたちの存在はWHOにとって非常に大きい。一般に即戦力のあるひとを集めるので、英語を母国語とするひとが圧倒的に多い
 
 正規職員で女性の割合は35.6パーセントで、毎年徐々に上がっている。【図1】この割合はわが国の役所のものと比べるとかなり高率である。この傾向が続くと10年後には、WHO職員の半数は女性が占めることになる。
 
 国連機関といえども、ポストには男女間に大きな差があり、上にいけばいくほど女性の割合が減少する。シニアポストに女性をつけようとする、50/50の運動などがあって、国連社会での女性の地位は徐々に上がってきている。WHOでも1990−2005年の間に、女性の割合は21.8パーセントから35.6パーセントに上昇している。が、まだまだ、道半ばである。
 
 また、ポストの男女分布を見ると、女性は未だ低いポストに集中している傾向にあるが、D2以上の幹部クラスのポストに女性が占める割合が近年上昇している。国連機関での男女雇用均等の動きは加盟国にも波及するので、今後の更なる進展に期待したい。
 
31.国連職員になるには40歳から!
 WHOのPスタッフでは50歳以上が半数以上(52パーセント)、40歳代が34.7パーセントを占め、両者を合わせると全体の86.7パーセントになる。勤務年数は5年以下が全体の43.8パーセントを占め、スタッフの入れ替わりが多いことを示している。25年以上勤務するとペンションなどの退職手当がよくなるが、このカテゴリーのひとは全体の6.2パーセントのしかいない。最初の雇用年齢が高いせいもあるが、国連機関の圧力に25年以上耐えうるひとが多くないという証でもあろうか。
 
表1 WHO正規職員の男女別グレードの分布(2005年9月末現在)









 
グレード 男性 女性 女性の割合(%)
P1 1 0 0
P2 47 60 56.1
P3 92 94 50.5
P4 285 187 39.6
P5 452 200 30.7
P6/D1 158 42 21.0
D2 34 11 24.4
特別職 13 5 28.0
総 数 1082 599 35.6









 
 
 スタッフのグレード(ポストの高さで数字が大きいほど高い)を見ると、P4とP5で男女とも50%以上を占める【表1】。これは純粋に技術ポストで政治的な配慮が入る余地は少ない。とはいえ、加盟国の職員数やジェンダーなどの要因が採用に影響される。政府出向者はジュニアプロフェショナルオフィサーを別として、P5以下の低いポストで来ることはほとんどない。実力以上に高いポストに就く傾向がある。
 
32.国連職員になるためには長期的な展望で
 また、上述したように女性は低いポストを占める割合が男性に比べて高い。GスタッフにもPスタッフ同様グレード様式で、高いグレードのGスタッフは部内で、Pスタッフより力を持っていることが多い。
 
 さらに、新規採用の内訳を見ると、外からの採用が97人(51.9パーセント)、中の短期(臨時)職員から77人(41.2パーセント)、別の国連機関からの転職13人(7.0パーセント)となっている。これはコンサルタントなどの短期職員が正規職員になるのにいかに優位かということを示している。正職員にする前に短期間使って見るかということもあるかもしれないが、いったん中に入ると情報が入手しやいすので、就職のための交渉の機会が増える。
 
 国連職員は採用時の年齢が高いというのは、専門の分野でかなりのキャリァを積んでいるということ。また入れ替わりが激しい。将来WHOなどの専門の国連機関に就職を考えているひとは、これらの事実をよくわきまえておくべきだ。
 
 国連専門機関へ就職する前にまず、専門性を高め経験を積むことだ。卒業してすぐに就職できるはずがない。卒業後10−15年という歳月はあっと言う間に過ぎ去る。そればかりか、この間に自分の、そして周りの環境も大きく変わるので、学生時代の夢を持続的に持ち続けられるひとはそう多くはない。したがって、これらの変化を見そえて将来計画を立て、機会がやってきたときにはいつでも飛び出せるように今から準備しておこう。
 
33.WHOでの契約更新の手順
 WHOの雇用体系は雇用者(WHO)と非雇用者(スタッフ)の契約でなりたっており、定期的に契約を更新しなければならない。私の場合、最初は二年の期限付き契約で、一年目は見習い期間であった。二年目から正職員になった。
 
 二年目の契約が切れる三ヶ月前に、次の契約更新をしなければならない。二回目の契約はもう一回二年の契約期間であった。二回目の契約が終わると最高五年期限の契約を結ぶことができた。これが当時のルールであった。契約更新の方法は機関や時期によって異なるので、そのつど確認する必要がある。
 
 スタッフの勤務評定は、契約時の条件 (Terms of Reference: TOR) に照らして、評価される。TORには仕事の内容がかなり詳細に記載されており、後々勤務評定がやりやすいように箇条書きになっている。本来の仕事は必ずしもこの通りにはいかないが、契約更新のための勤務評定のときには、これを盾に自分を防御しなければならない。
 
 さて、勤務評価は、自己評価 “Self Appraisal”として始まる。まず、ポストのTORに沿って、契約期間中に行った仕事の内容を詳細に記載し、これに基づいて自己評価し、それを直属の上司に提供し評定してもらう。
 
 上司のコメントが返ってくる。内容によっては、本人と上司の間を数回往復することがある。意地悪な上司に会うともう大変だ。なかなかサインがもらえない。いわゆる、辞めろというシグナルが送られてくる。ここでへこたれるとすべてがおしまいだ。国連機関では直属の上司は競争相手であり、こぎ下ろし対象であるので、最後の最後まで徹底的に交戦するとのいうのが常識である。このシステムは日本には存在しないというか経験がないので、なれるまでにはかなりの時間がかかった。
 
 さらにもう一つ上の上司の評定を受ける。三人が同意した時点で契約はほぼ更新される。二回目の契約のときには、伝染病部から「エイズ特別計画」に異動することが決定していた。それを機に昇給することができた。
 
34.邦人国連職員は少ない
 さて、日本の国連拠出金は約19パーセント、米国(22パーセント)に次いで第二位である。(今年からこの拠出金が16パーセント前後に減少し、国連での日本の影響力が低下するのではないかと心配されている。でも、20パーセント近く出していても強力な指導力を発揮しているとは思われないので、心配するほどのことではないのではないか。それよりお金ではなく、もっと政策と政治力、人力で対抗すべきではないか!)。
 
 国連には、その国の人口や拠出金額などの条件から概算される、それぞれの加盟国に望ましい職員数というものがある。これから概算されたWHOの日本人スタッフの望ましい数は121−166人(2005年9月30日現在)であるが、WHO本部、地域事務局、カントリーオフィス、研究所などを含めた全組織で38人しかいない。この数は加盟国の中でもかなり低い数字である。
 
 したがって、WHOの日本人スタッフの数は望ましい数の23−31パーセントであり、少なくともさらに100人以上のスタッフをWHOに送り込めるはずである。状況は他の国連機関でも似たり寄ったりであろう。これを考えると、相当の数の日本人が国連機関に就職できることになる。わが国のニート対策に国連機関への斡旋も検討すべきときに来ているかもしれない。わが国のニートは、英国と違って高学歴者も多いので、検討するのに十分値するかもしれない。
 
 日本人職員38人中、女性は12人(32パーセント)でまだ少ない。WHO全体では女性の割合は35.6パーセントである【図1】。国連機関は少なくとも日本社会よりは女性を大切にするところなので、女性にはより働きやすい職場ではないだろうか。今後、わが国では女性の国際社会への進出傾向が続くと思われるし、そうであって欲しいと願っている。
 
 いずれにせよ、国連における邦人スタッフ数は圧倒的に少ない。政治レベルにおいて国家的な政策を持って改善する努力を払わなければならない。採用の窓口を広げ政府が徹底的に支援すれば、それぞれの国連機関の適正数を十分に確保できると私は思う。
 
35.日本の若者よ、火中の栗拾へ!
 しかし、グレードの統計を見ると、P4以下のグレードは女性で58パーセント(WHO全体57パーセント)、男性では23パーセント(39パーセント)と、男女間に大きな隔たりがある。一方、男性26人中、18人(69パーセント)がP5のグレードというのは非常に特徴的だ。この背景には出向者のほとんどが男性であることに起因するかもしれない。
 
 日本と同じく国連職員が少ないのはドイツである。国連の歴史を反映しているようにも映る。西太平洋地域事務局(WPRO)では日本の他、中国韓国シンガポールベトナムの職員数が少ない。WHOは本部と六つの地域事務局、120のカントリーオフィス、研究所などからなっているが、邦人スタッフが集中しているのは本部とWPROだけで、他の地域事務局やカントリーオフィスに日本人はほとんどいない。
 
 この偏りには言葉の問題があるのかもしれない。アメリカ地域事務局(AMRO)では英語とスペイン語はほぼ必須だし、アフリカ(AFRO)や東地中海事務局(EMRO)では英語の他にそれぞれ、フランス語やアラビア語が要求される。これらのコンビネーションの言葉を職業として身につけている日本人は確かに少ない。
 
 また最近では、日本国内の給与が高く、国連の給与にあまり魅力を感じないひとも少なくない。日本は比較的安全で住みやすいので、多様な文化・宗教・習慣などの難しい国際環境の中にわざわざ飛び込む必要もない、と考える内向きのひとが増えても不思議ではない。ナショナリズムの高まりとともに、国民が内向きになり、わざわざ火中の栗を拾いに行くひとはいなくなることは不安材料だが、若者の中には依然として国連機関への希望者は多い
 
 よって、日本の若いひとの中には環境さえ整えば、世界の火中の栗を拾うひとはかなりいると信じている。学生たちとの会話から、彼らの情熱が肌にひしひしと伝わってくる。アフリカや中南米であろうが、アジア諸国であろうが、若い者はあまり気にしていないのではないか。レールを敷いてやれば、猪突猛進で現地に飛んでいくであろう。大学にいると、この若者のエネルギーをどうにかしてやりたいと思う。しかし、その一方、自分の実力のなさも痛感するのである。
 
36.日本人秘書
 前述したようにWHO組織内で一般職員(Gスタッフ、いわゆる秘書)の役割が非常に大きい。国連機関は彼女(氏)らの有能さで回転していると言っても過言ではない。Gスタッフには加盟国割当適正数がないので、英語圏出身のひとが圧倒的に多い。
 
 現在、WHOの中にGスタッフとして働いている邦人は非常に少ない。将来、日本人の帰国子女などが増え、言葉の壁がなくなり応募者が増えるかもしれない。繊細な気配りと能力に支えられた行動力を持った日本人秘書は必ず重宝がられると思う。国連機関内ではGスタッフの影響力は過小評価できない。将来、Pスタッフとともに増えることを大いに期待したい。
 
 Gスタッフは本来の秘書の資格のほかに、語学能力(少なくとも二か国語、ジュネーブでは英語とフランス語の読み・書き・話す)、速記タイプなどのさまざまの条件が問われる。実際、WHOの全体(本部、地域事務局、カントリーオフィスや関連の研究所)のスタッフ約4300人の半分以上はGスタッフである。
 
 Pスタッフの養成だけではなく、国連機関用のGスタッフの養成を組織的に行なうように真剣に考えるべきかもしれない。すでにその技術を備えたひとを再結集するとともに、新人の育成を兼ねたシステムを構築することは結構採算に合うのではないだろうか。単に語学の勉強だけではなく、専門の秘書職としての徹底的な訓練システムを確立することだ。語学の勉強だけでは不十分なので、平行して高度の秘書職を学べる機会を提供することは、語学の勉強そのもののためにもよいし、卒業後の進路にも幅が広がる。この学校の卒業生は何も国連機関だけではなく、他の国際機関や企業などへも送り込めるだろう。マーケットとしては大きいと思われる。
 
 さて、国連機関でいい仕事するための一つの重要な条件は、いい秘書に巡り会い、いかによい関係をつくって一緒に邁進できるかどうかである。秘書に嫌われると、仕事はほとんど進まない。彼女らは長い経験からルールをよく知っていて、広いネットワークを構築しているので、専門職員をまな板の上に乗せていかようにでも料理することができる。
 
37.国連機関の秘書とインターネット
 専門職員は、上司の秘書を一番怖がる。この秘書の匙かげんで、上司への印象が大きく影響されるからである。手紙や資料などもまず部長部屋の秘書の検問(?)を受けた後で、それぞれの課や担当に回される。考えてください。重要な資料が担当者に一週間も遅れて届けられたとしたら!
 
 これもインターネットの普及で大きく変わりつつある。仕事の多くは、メールで個人的に行われる。以前のような、手紙やファックスなどが部長室の検問から課長室そして担当者の秘書へという流れはすっかり影を潜めつつある。以前は最後の担当官が手紙などを見た後でサインし、文書係に戻さなければならなかった。
 
 今ではもう、重要なメールでも、文書係にも秘書にも必ずしも見せる必要はなくなった。これだけ仕事のスピードは速くなったが、それぞれのスタッフの責任も重くなった。逆に、秘書の仕事も増加し、そのパワーが相対的に増したと思われる。以前は、ボスが出張すると秘書は比較的静かにボスの帰りを待つことができたが、今では途上国の出張先からもメールで仕事の依頼が逐次届く。さらに以前は、専門官が電話で直接交渉することもあったが、この電話をかける機会も減った。増えたのは秘書のメールの数だけである。そして、上司のメールが秘書から逐次転送されてくるようになって、秘書同様、スタッフもますます忙しくなり、正にリモートコントロールされるようになった。
 
 今では、メールの内容を同僚や秘書といかに共有することができるかどうかが、良好な人間関係をつくれるかどうかの分かれ目だ。透明性の高い人間関係を構築するためには、メールの“cc”や“bcc”などの機能をフルに活用し、お互いに情報を共有することが大切だ。メールの機密性を信用しない、というのが私の立場である。というのは、親展のメールだって、何十人にも一遍にいとも簡単に転送ができるし、転送において”Yes”を”No”に書き換えることも可能だ。よって、最初からメールの内容をお互いに共有し、情報の流れを明確にしておくべきであろう。メールでの誹謗中傷は全体に避けなければならない。
 
平成19年11月30日
著作 玉城 英彦(たましろ ひでひこ)
北海道大学大学院 医学研究科
社会医学専攻 予防医学講座
国際保健医学分野
著書:玉城教授の故郷の思い出をつづったエッセー集
「恋島(フイジマ)への手紙 −古宇利島の想い出を辿って−」
発行所 新星出版
 
 
 
 
 

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