第46話
 植物と地球環境 −その1−
 

 
 
「主な対象読者」
 中学生から上の年齢層を読者の対象と考えています。
植物や動物をふくめた生き物と環境との関係、特に農業とのかかわりについて、何編かに分けて説明します。地球環境に関する複雑系の話題ですが、中学生でも理解できよう平易に解説した積りです。
 
 
 
 
本 文 目 次
 
 
著者 石井 一行
 

 
 
第46話 植物と地球環境 −その1−
 
第1章 生き物の食べ物
1.生き物の好物
 人間が生きていくには食べ物が必要です。みなさんの好物は何でしょう。
 
 ハンバーグやカレー、ピザやスパケッティ、ごはんが何より大好きという人もいるでしょう。私の好きな食べ物はオムスビです。ちょうど良い大きさに握ったオムスビの表面にお味噌を塗って食べるのが大好きで小さい頃からの大好物です。
 
 地球上の生き物は動物であれ植物であれ、生きて行くために食事をします。ペットの猫や犬はペットフードを食べて生きています。でも私の小さい頃はペットフードというものは売っていなくて、家の食事の残飯に味噌汁の残りをかけたものが犬や猫の食事でした。今の缶詰や、ビスケットみたいな食事だけで大丈夫かなと思いますが、犬を散歩にやると、土や草を舐めたり食べたりしているので、何がしかの栄養分を自分で嗅ぎ分けて食べているんだろうなと思います。
 
 動物でも、犬や人間は雑食性といって果物や野菜、動物の肉や魚のなど食べられそうなものは何でも食べますが、肉食性のライオンは主に動物の肉を好んで食べます。猫はライオンの親類なので肉や魚が大好きです。牛や馬は草食性といって草や木の葉を好んで食べます。身近な生き物が何を好んで食べているか調べるのも楽しいでしょうね。
 
ではカブトムシの好物は何でしょうか。どうも子供(幼虫)の時と大人(成虫)の時では食べるものが違っているようです。昆虫の世界ではよくあることです。興味があったら調べてみてください。
 
 甘ければ玉ねぎだって食べるカブトムシ。農家の庭先で偶然撮影。
 
 
 次にお魚は何を食べているかというと主に自分の体より小さな魚を食べています。その食べられてしまう小さな魚は何を食べているのでしょうか。さらに小さい魚や、もっともっと小さい生き物を食べています。その生き物の名はプランクトンといって体長が大きいものでも1mm位の大きさの生き物です。このプランクトンという生き物は皆さんの家の近くの池や川にも沢山、棲(す)んでいます。
 
 代表的な例はミジンコと呼ばれる生き物で、見た目は透き通った太ったお腹に細い足が生え、小さい頭にはとがった口が突き出したりしていてまるで宇宙怪獣のような姿をしています。乾燥させたミジンコは金魚のえさとして売っていますのでミジンコのイラストや写真をペット屋さんで見つけることが出来るかもしれません。
 
 プランクトン(原生動物ともいいます)の仲間のクマムシという生き物はクランプトン界のヒーローのような存在で、人間からも注目を浴びています。なんとこのクマムシくん、真空で絶対零度の超極寒の世界から生きて生還したのです。つまり宇宙空間を宇宙服なしで移動できる事になります。みてくれ(見た目)は動物の熊のような姿をしていながら沢山の毛の生えた足が生えている、やはり宇宙怪獣を髣髴(ほうふつ)させる姿です。
 
 超低温の世界では何もかも凍ってしまいますから体を動かすことは22世紀の最先端のロボットでも不可能です。ではクマムシくん、この何もかも凍る世界でどのように生きてきたかというと、体を丸め団子状態になるのです。まるでアルマジロのようです。
 
 クマムシの体の回りには頑丈な鎧のようなプロテクターが備わっていたのです。この鎧で丸めた体を保護し体内組織が破壊されるのを防ぎます。そして体全体が冬眠状態になり活動が可能な領域(りょういき。場所の事)に入るまで眠るのです。そして周囲が暖かくなり活動可能な環境になるとセンサーが働いて目が覚めるようなシステムが作られています。クマムシの生態はまだまだ解明されておらず謎が沢山あります。
 
 このクマムシの生態が完全に解明されれば多くの科学的な進歩があることでしょう。今この謎に挑む若い科学者が現れる事が期待されています。なにしろ顕微鏡でしか見えない1ミリ以下の小さい生物の仕組みを解明するのですから。
 
 ではこのクマムシくん、何を食べて生きているのでしょうか。仲間同士でバトルを展開し共食いするヤツもいるそうですが、その食事はストローのような口ばしで植物の体液を吸ったり、もっと小さい生き物を食べたりして生きているのです。その小さい生き物は微生物といいます。
 
 微生物はとっても小さい生き物で、どんなに目の良いマサイ族の子供でも直接見ることは出来ません。微生物をみるには顕微鏡の助けを借ります。なにしろ空気中に浮かぶほこりの何百分の一の大きさしかありません。
 
 微生物の姿は様々で、蜘蛛の糸の様な形(糸状菌)や、ねばねばを作る者(粘菌)や丸い玉の様な形(球菌)、飲み薬の細長いカプセルのような形(桿菌)など数え上げたらきりがありません。先ほど微生物は目に見えないと書きましたが、間違いでした。微生物のカタマリなら見たことがあるはずです。ジメジメした所に生えたりします。そう、カビです。おもちに付く赤や青のカビ、お風呂場のタイルの目地を黒くするカビ、日陰の地面の表面にモワモワッと、綿飴のような形で広がっているカビなど身近なところにカビが生えています。カビも微生物なのです。
 
 この写真はお米を包んでいる殻(もみがら)に繁殖したカビです。白い綿毛のような物が菌糸です。もみがらでは、特殊な状態にしないとこの様な菌糸は生えません。
 
 
2.アゾトバクター君のお家はどこ
 この小さな小さな微生物達は地球上のあらゆる場所に生息しており、どんな生き物も微生物と係わりなくは生きてゆけません。
 
 たとえば土の中です。ほくほくとした森の土にはティースプーン一杯の中に1億匹以上の微生物が生息しているといわれています。その種類も数万種といわれています。
 
 この微生物達の食事は、他の微生物の出した代謝物(要するにウンチやオシッコの事)や死んだ微生物の殻、植物の出す分泌物、森の中の有機物(落ち葉や枯れ枝、鳥の糞、昆虫や動物の死骸など、あらゆるものが食事となります。
 
 微生物達には食事の好みが大変細かく、好き嫌いが多いのが特徴です。微生物のサッチャンは甘いものが大好きだとか、ノブチャンは酸っぱいものが大好きだとか、ケンチャンはしょっぱい物は苦手だとか、小さいながらも、みな個性豊かにたくましく生きています。
 
 ところで、ティースプーン一杯に1億匹ってどんなイメージでしょうか。スプーン一杯に土を載せた量を1g、体積を仮に1立方センチメートルとします。1cm角の小さな角砂糖をイメージしてください。角砂糖を見たことがなければ、おかあさんに角砂糖の事を聞いてください。たぶん知っていると思います。
 
 さて、この小さな角砂糖の大きさの世界を覗(のぞ)いてみましょう。
微生物の大きさには0.1ミリの大きさの者や、その1000分の1の大きさしかない者など超ミクロな生き物の世界です。
 
 とりあえず1マイクロメートル(1ミリの1000分の1)の大きさの微生物を探します。ちょうどこの大きさの微生物にアゾトバクター君がいました。
 
 アゾトバクター君の仲間の大きさは0.5〜5マイクロメートルと、大きい者と小さい者では大きさに10倍の開きがあります。この大きさの違いを認識する事は大変重要なことです。
 
 あなたが中学一年生だとして、身長は一メートル五十センチだとします。あなたがクラスで一番背が高ければ、アゾトバクター君の世界では、背が一番低い子は十五センチしかないことになります。十五センチの同級生は鉛筆ほどの身長しかないことになります。これでは教科書を開くにも給食を食べるにもあまりにも困ってしまいます。
 
 また、逆にあなたがクラスで一番小さい十五センチの身長しかなかったらどんなことが起こるでしょう。体育の幅跳びでも鉄棒でも体の大きい子とは比較にもなりません。又、聴力(ちようりょく)はどうでしょう。大きい子のしゃべる声は落雷の轟(とどろ)きかジェット機が耳元で通り過ぎるくらいの爆音に聞こえるかもしれません。ついでに視力はどうでしょうか。小さい物を見る事は得意になりますが、新聞を読むとあまりに良く見えすぎて、文字を読むというより印刷された点々のほうが良く見えてしまって、文章を読むことが重労働になるかも知れません。(新聞紙の文字を倍率の高い虫眼鏡で見てみましょう。点々の集合体であることが解ります。この点々はドットといいます。)
 
 この微生物(菌)アゾトバクター君は、空気中の窒素を食べて体の中に貯め込む性質をもっています。豆科の植物はこの貯め込まれた窒素を栄養とすることでおいしい豆が実ります。このような菌を窒素固定細菌(ちっそこていさいきん)と呼んでいます。人間にとって大変ありがたい活躍をしてくれる微生物です。落花生や枝豆などをおいしくしてくれるのですから。
 
 これから小さな角砂糖の大きさの土の中を見てみましょう
この体長1マイクロメートル程のアゾトバクター君を縦に500匹、横に500匹整列させると25万匹になります。(500×500=250,000)
さらに立体的に500段積み上げていきます。
250,000匹×500段=125,000,000匹
縦、横、高さに各500匹のアゾトバクターが立体的に並ぶと1億2500万匹となりました。すごい数ですね。約一億匹のアゾトバクター君は縦横高さに500匹並べると出来上がると覚えておきましょう。
 
 では、約1億匹のアゾトバクター君、小さな角砂糖サイズのなかにどのように詰め込まれているのでしょうか。角砂糖の体積と、アゾトバクター君の体積を比べてみましょう
 
 では、まずアゾトバクター君が整列する時に必要な面積を見てみましょう。500マイクロメートルは0.5ミリです。これをセンチの単位に換算すると、0.05センチになります。25万匹のアゾトバクターが整列するのに必要な平面積は、0.05cm×0.05cm=0.0025平方センチメートルになります。
 
 次に体積を求めます。
体積は、「縦×横×高さ」の式で求めることが出来ます。0.05cm×0.05cm×0.05cm=0.000125立法センチメートルになります。
 
 アゾトバクター君がきちんと整列して並ぶと0.000125立法センチメートルの体積が必要になる計算です。
 
 小さな角砂糖、ティースプーン一杯の土の体積を、1センチ角の立方体とすると、その体積は、1×1×1=1、すなわち1立法センチメートルが角砂糖の体積です。
 
角砂糖の体積とアゾトバクター君の体積を比較してみましょう
アゾトバクター:角砂糖= 0.000125 : 1
= 0.00125 :10
= 0.0125 : 100
= 0.125 : 1000
= 1.25 :10000 と、なりました。
 
ということは、アゾトバクター君は、角砂糖サイズの中で占有するスペースは大体、10000分の1くらい、ということになります。
 
 角砂糖サイズの土の中に1億匹もいるというから、どんなに密集しているかと思ったら、ほとんど隙間だらけで、角砂糖のほんの小さな粒位の量しかいないのです。
 
 それだけアゾトバクター君の体が小さいものだということがわかるでしょう。
 
 
 この角砂糖を満杯にするだけのアゾトバクター君の数が何匹になるのか考えてみましょう。
 
 そうです。おおむね10,000倍すれば良いのです。
 
 1億の一万倍は、1兆です。角砂糖に満杯のアゾトバクター君を詰め込んだら、一兆匹になってしまうのです。角砂糖一個で地球上の全動物の数を超してしまう数のアゾトバスター君を入れる事が出来るのです。
 
 でも、自然界ではアゾトバクター君だけでこんなに密集している状態は、まずありえません。満員電車のように詰め込まれすぎていて運動不足や窒息状態になるからです。ご飯を食べに行きたくても動けないですね。さて、みなさんは微生物の大きさを実感することが出来ましたか。
 
話を少し戻しましょう。
 ここでのお話の角砂糖の正体、実は土です。お砂糖が詰まっている訳ではなく微生物の数を数えるために角砂糖のサイズをお借りした訳です。
 
 アゾトバクター君は、実際は土の中に住んでいます。アゾトバクター君は土の中の砂粒の中や、土の隙間などを住まいとしています。
 
 では、どうやって住んでいるかというと、おいしい食事のある所に住みます。人間も食料のない所では生活できません。おいしい食事のあるところには沢山のアゾトバクター君の友達が集まります。また、アゾトバクター君のウンチ(ウンチは俗語で代謝物というのが正解)を食べに別の種類の微生物が集まってきます。これらの微生物の代謝物(たいしゃぶつ)を求めてさらに別の微生物が集まり、大パーティーが開催されます。
 
 このお話は植物に関することでしたので、ここで大パーティーと植物のお話です。大パーティーで大騒ぎする微生物たちは、はしゃぎすぎてのどが渇きます。この時においしいジュースを提供してくれるのが植物の根っこです。
 
 植物の根っこは、土の中に根を張り、地上部の茎や幹を固定する役目と、土の中の水分や養分を吸い上げて葉っぱに送る働きをしています。根の先っぽの事を根冠(こんかん)と言い甘い汁を絶えず出しているのです。この汁が微生物達のおいしいジュースになります。
 
 
 根っこが出すジュースを微生物達が飲むと微生物達は元気を取り戻して大運動会を開催します。このときに出る汗(代謝物)を、植物は栄養分として根から吸収するのです。植物も微生物もお互いに体のなかで作られた養分を代謝物として分け合うのです。
 
 目に見えない土の中では、今、この時も土中の微生物と植物のパーティーが世界中のいたるところで開催されているのです。このようにお互いが助け合ってにぎやかに生きることを共存共栄といいます。
 
 さて、アゾトバクター君は好物を求めて動き回ります。移動する距離が長いときはなんとタクシーや列車や飛行機にのっていきます。といってもここで言うタクシーとは、ダンゴムシやダニの事で、列車はミミズの事、飛行機は昆虫のことです。又、砂粒の気球にのって大空高く舞い上がる事もしばしばです。はるかかなたのユーラシア大陸から風にのって何千キロも旅をして日本にたどり着く仲間も大勢います
 
 
3.食べて出して食べられて出るとまた食べるの繰り返し
 土の中は生き物の宝庫(ほうこ)で、沢山の種類の生物が生活をしています。
土の中で色々な種類の生き物が生息する深さは30センチ位迄です。土は大体30センチより深くなると固い岩の様になっていて、生き物にとっては住みづらい場所なのです。それは、普通、植物の根っこの深さが大体30センチ位の深さしかないので、それより深い場所にはおいしい食事がないからです。(世界には深さ10メートル以上の深さまで根を張る植物もありますが、珍しい例です。)
 
 皆さんの好きな食べ物の話から、微生物や植物のお話までたどり着きました。
 
 植物は、地球上に生きる生物にとってなくてはならない存在です。
人間は、稲や麦、トウモロコシ、イモなどを主食とし、牛や豚、鶏を飼育してその肉をたべます。これらの家畜の餌は干草やトウモロコシなどの植物です。
 
 生き物は食事をすると排泄物(ウンチやオシッコや汗のこと、フケや垢も含んでよい)を出します。代謝物といってもかまいません。これらの代謝物は生き物にとって大切な食事となります。体の大きな鯨や象から、人、鳥、獣、魚、昆虫、微生物、そして植物とあらゆる生命はリンクし、これらを食事として利用しています。
 
 これらの食べたり食べられたりすることでお互いの種の生存が行われることを食物連鎖(しゅくもつれんさ)といいます。
 
【上記のイラストのクマのような生物に乗っているのは、金太郎ならぬ菌太郎ちゃんなのです。】
 
 私たちの食べる食べ物は全て命の作り出した物です。私たち人間も私たちの体の中で地球の生き物を養(やしな)う養分を作り出しています。
 
 生命には終わりがあります。しかし、この地球上では生命の亡骸(なきがら)は、他の生命の糧(かて)となり、新しい生命の誕生のエネルギーに変わります。
 
  あなたも私も、地球の上の壮大な生命のドラマの一員です。
  全ての食事は、地球上の生命が分かち合い、与え合って作られます。
  普段の食事やおやつも尊いものだと知って感謝していただくようにしましょう。
 
 
 クマムシの事を調べるのならクマムシネット<http://www.kumamushi.net/>へ
 
 
「植物と地球環境−その2」に続く
 
 
平成20年2月27日
石井 一行(かずゆき)
NPO「まほろば教育事業団」監事
 

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