第60話
コーヒーブレイク2 〜バランスの話〜
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「主な対象読者」
工学的な話をやさしく書きましたので、内容は小学生以上の人ならば誰でもが理解できると思います。
本 文 目 次
3.つぎ木
4.調整のいろいろ
著者 坂田 明治
第60話 コーヒーブレイク2 〜バランスの話〜
1.調整(ちょうせい)
理科好き子供の広場の原稿をよく見ると解りますが、分野にかなり偏り(かたより)があります。まあ、これはこれで仕方のないことでしょうが、それでもなんとかしたいものです。
将来、技術者などを目指している人もいるかと思います。しかし、工学的な内容はほとんど書かれていません。やはり、それはそれで問題です。そこで今回は「コーヒーブレイク2」として工学的な話を少し書いてみます。サブタイトルに「バランスの話」とあることから想像がつくように、先に書いた「コーヒーブレイク 天秤(てんびん)の話」とちょっとだけ関係します。
まず、「ものづくり」をする場合、だいたい最後の方で「調整(ちょうせい)」ということをします。「調整」というのは、ひとことで言って、「バランスをとること」です。まあ「平衡(へいこう)をとる」とか、いろいろな言い方がありますけれども、ここでは「バランスをとる」と書くことにします。
バランスと言えば天秤です。
「コーヒーブレイク 天秤(てんびん)の話」を見ていただければ解るように、天秤の作り方でも「調整」ということが出てきます。
図2の赤字で書かれた部分がそうです。ずばり、左右のバランスをとることが調整となっています。調整とバランスをとることと、なんとなく結びついてきたでしょうか。
以下で、いくつかの例を見ていただくと解るように、いずれも、「調整」が何らかの意味でバランスをとっています。
2.2枚の板を貼り合せる
何かを作ったり、修理したりする場合、必ずといっていいほど調整が必要になります。ここでは、手軽にできる例として、2枚の板を貼り合せて、1枚の板にすることを考えてみましょう。
道具は日曜大工用品を売っている店に行けば簡単に手に入ります。道具はなるべくいいものを選びます。安物を選ぶと怪我(けが)したり、壊れたりしてろくな目にあいませんから。必要な道具は、カッター、鋸(のこぎり)、サンドペーパーなどです。もちろん鉋(かんな)があればなお結構です。他に木工用接着剤が必要です。なお、サンドペーパーは安物で十分です。趣味によって(仕上げをどの程度きれいにするかによって)、荒目(#100位)、中目(#180位)、細目(#320位)を用意するとよいでしょう。まっ、このへんはてきとうに。
寸法を計ったり、線を引いたり印を付けたりするのに定規や鉛筆なども用意しましょう。
材料については、だいたい木材売り場の辺りに端材(はざい)が置いてあるはずですから、てきとうに良さそうな板を2枚と角材(厚みのある板)を1枚選びます。端材なら格安なので、なるべく金をかけないで材料を仕入れましょう(貧乏性だもんね)。
工作には刃物をつかいますので、取り扱いには十分気をつけてください。もっとも、怪我して痛い目にあった方が後々気をつけるようになるのでいいのですが(子供の頃ずいぶん怪我しました)。
定規で計って、2枚の板を同じ大きさになるように印を付けたり線を引いたりします。まあ、端材売り場で同じ幅の板を手に入れられれば長さだけ合わせればいいので楽です。そうしたら、切り落として同じ大きさの板にして、接着剤で貼り合わせます。ここで、木材には木目があるので、木目の方向を合わせましょう。木目の方向を合わせないと、うまくくっつきません。
接着剤で貼り合わせたら、よく乾かします。そして、板の端をよく見てみましょう。
端がぴったり合っていないで凸凹(でこぼこ)しているのが普通です。これがいきなりピタっと合うようになるには、かなりの修行が必要です。
ここで、2枚の板の端をそろえるという作業が必要になります。これが調整です。(つまり、2枚の板のバランスをとるわけですね)
サンドペーパーで端を削って調整するのが一番簡単です。サンドペーパーをそのまま当てて削ったのではゆがんでしまいますので、図5にあるように角材(厚みのある板)にサンドペーパーを巻きつけて使います。
うまく削って調整すれば立派な1枚板になってできあがりです。後は趣味で表面を削って見栄えをよくするなど自由に加工してください。
2枚の板の貼り合せ方ですが、実は、図7、図8にあるような貼り合せ方もあります。
図7のような貼り合せ方は少し難しいのですが、やればできます。この際に、板の厚みが合っていないと、サンドペーパーで表面を削って合わせるという作業が発生します。
図8にあるような貼り合せ方で板はくっつきません。なんとなく、くっついたように見えても簡単にはがれてしまいます。理由は自分で調べてみましょう。
とにかく、木には木目という方向性があります。木材加工のときは、この方向性を利用した方がいいですよ。
3.つぎ木
前章で、図8のような場合はくっつかないと書きましたが、生きている木ならくっつけることができます。園芸をやっている方ならご存知と思いますが、つぎ木という手法です。つぎ木に関しては、たいていの園芸の本に詳しく出ていますので、そちらを参照してください。ここでは簡単に要点だけ触れます。
図9にあるように、2種類の木をつぎ合わせるのがつぎ木です。根のある方を「台木」上にくっつける方を「穂木」とよびます。つぎ木したものは園芸店などで、よく売っています。ついだ部分で太さが変わるため、見ればすぐに解ります。園芸店に行ったときは注意してみるとよいでしょう。
ではどうやってくっつけるのでしょうか。ちょっとだけ植物の知識が必要です。植物は、皮のすぐ内側が「形成層」という部分になっていて、この部分が成長します。外側に向かって成長していきますので、木はだんだん太くなっていくわけです。そして、形成層が成長したり止まったりすることで年輪ができます。
つぎ木では、台木と穂木でこの形成層を合わせます。これは形成層が合うようにうまく調整するという作業です。
単純にやったのが、図11に書いてあるようなものです。これでは形成層を合わせた部分が少ないので、うまくいかない場合もあります。そこで、図12にあるように、はすに切って(斜めに切ること)つぎ木するのが普通です。これなら、形成層を合わせている部が多くなり、成功率も高くなります。(もちろん活着するまでしっかり固定します)
4.調整のいろいろ
本稿で紹介した例は木材加工でしたが、当然、金属加工でも同じように調整する必要がでてきます。それどころか、電気回路などでも必要になります。その他、ソフトウェアでも調整が必要になりますし、ウェブサイトのページでも、きれいに見せるためにページの微調整などがあります。また、身近なところでは、オーディオセットの左右のスピーカーの音量調整などがあります。
技術的なもの以外に、国際会議で各国の意見の調整などというものもあります。ここで、各国が自国の利益を優先するため、なかなか調整がつかず難しい局面になります。いろいろなところでこのような局面を見た人も多いかと思います。
要するに、もの作りだけでなく、何かをしようとすれば、まず「調整」を必要とします。 それだけ重要な概念なのですが、軽んじている人がいることも事実です。残念なことですが。
それはそうと、理科好き子供の広場でも各分野の調整がとれてバランスがよくならないかな。
完
平成21年1月14日
著作者 坂田 明治(あきはる)
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