第64話
下水に落としたウイルスはまた人間に戻ってくる
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特 徴 | 原核生物 | 真核生物 |
核 膜 | ナシ | アリ |
染色体 | 1個、環状 | 複数個 |
ミトコンドリア | ナシ | アリ |
細胞壁 |
アリ |
アリ(植物) ナシ(動物) |
代表例 | 細菌 | 真菌・原虫 |
別な面から微生物を分類すると表2のように言いあらわすことができます。肉眼では見えないが光学顕微鏡を用いれば初めて観察される大きさの細菌で、増殖を特異的に阻害できる特効薬があり治療も可能な第一世代の微生物と呼ばれるものです。次ぎは、普通の光学顕微鏡を使っても見えないが電子顕微鏡を用いて初めてその存在が認識される粒子的なウイルスで、細胞寄生性であることから特効薬がなく、病気の予防はできても疾病の治療法も確立されていない第二世代の微生物です。最後は、電子顕微鏡でもその姿を捉えることができず、様々な化学的物理的要因に抵抗性を示し耐熱性のタンパク質からなり、そのものの物性も治療法も不詳のプリオンと呼ばれる第三世代の微生物です(表2)。
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第1世代の微生物 肉眼ではみえない、光学顕微鏡で可視、基本構造は生物共通の細胞、 例:細菌(レジオネラ菌、赤痢菌、コレラ菌)、特効薬あり、治療が可能 |
第2世代の微生物 光学顕微鏡でみえない、電子顕微鏡で可視、基本構造は細胞でなく粒子、 例:ウイルス(インフルエンザウイルス、エイズのHIV)、特効薬ナシ、治療法なし |
第3世代の微生物 電子顕微鏡でもみえない、基本構造は未詳、耐熱性、遺伝子ナシ、 例:プリオン(狂牛病、CJD)、治療法なし |
更に、正真正銘の生物としての微生物と無生物的な性状の微生物とがこの世には存在します。真核生物である真菌や原核生物である細菌は、生物として共通の基本構造である細胞という生命単位から出来ています。
しかし、無生物的な微生物であるウイルスは、遺伝物質である核酸とそれを守ための保護膜としてのタンパク質からのみ出来ています。プラスミドやウロイドは核酸のみから、更にプリオンはタンパク(正確には糖タンパク質)のみから出来ていると考えられています(表3)。
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生 物 真核生物 動物 原虫 植物 真菌 原核生物 動物 存在ナシ 植物 細菌、スピロヘータ、クラミジア、リケッチア |
無生物 ウイルス(核酸とタンパク質のみ) プラスミド・ウロイド(核酸のみ) プリオン(糖タンパクのみ) |
3.微生物の種類と特徴
微生物の種類と各々の特徴の概略を表4にまとめて示しました。
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生 物 | |||||
原虫 細菌(広義) リケッチア クラミジア |
動物 細胞 植物 細胞 植物 細胞 植物 細胞 |
DNAとRNA DNAとRNA DNAとRNA DNAとRNA |
自己増殖 自己増殖 否自己増殖 否自己増殖 |
細胞内増殖 細胞内増殖 |
感受性 感受性 要媒介昆虫 感受性 |
無 生 物 | |||||
ウイルス プラスミド プリオン |
? 粒子 ? 粒子 ? 粒子 |
DNAかRNA DNA − |
否自己増殖 自己増殖 ? |
細胞内増殖 細胞内増殖 |
否感受性 結晶化 感染性核酸 否感受性 感染性(+or−) 否感受性 否滅菌性 否UV・X線不活化 |
ウイルス名 | 血清型 | ウイルス名 | 血清型 |
アデノウイルス コクサッキーウイルス エコーウイルス エンテロウイルス ポリオウイルス ロタウイルス レオウイルス |
43種類 30種類 30種類 4種類 3種類 3種類 1種類 |
A型肝炎ウイルス E型肝炎ウイルス ノロウイルス ノーウォークウイルス カリシウイルス アストロウイルス サッポウイルス |
1種類 1種類 1種類 1種類 1種類 1種類 1種類 |
糞便中に検出されるウイルス量 一日の排泄糞便量 一日の排泄ウイルス総計量 ウイルスの排泄期間 ヒトへの最少感染量 一日の排泄ウイルスの感染量 1ヶ月間の排泄ウイルスの感染量 |
10万PFU/グラム 200グラム/日/人 2,000万PFU/日/人 1ヶ月間 100PFU/人 20万人を感染させられる 600万人を感染させられる |
ウイルスの種類 |
検 出 数 と 頻 度 | |
市販の貝(19種) | 東京湾の貝(11種) | |
アデノウイルス コクサツキーウイル ノロウイルス A型肝炎ウイルス エコーウイルス |
16種 84% 10種 53% 8種 42% 7種 37% 7種 37% |
8種 73% 10種 91% 6種 55% 7種 64% 8種 73% |
1.化学的方法 薬 剤 |
石炭酸係数 | 殺芽胞作用 | 作用機構 |
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アルコール類 |
エタノール イソプロパノール |
0.04 0.24 |
− − |
タンパク変性、酵素不活化、 脂質溶出 |
フェノール類 |
フェノール クロールヘキシジン |
1 20-70 |
− − |
膜透過性変化(表面活性作用)、 タンパク変性、酵素不活化 |
ハロゲン類 |
塩素 サラシ粉 次亜塩素酸ナトリウム ヨウ素 ヨードホルム |
? 50-70 10-15 10 10 |
+ + + + + |
酸化によるタンパク変性、 酵素SH基の不活化 |
アルデヒド類 |
ホルマリン水 グルタルアルデヒド |
? ? |
+ + |
タンパク変性、凝固(NH2基、OH基のアルキル化) 、タンパク・核酸合成阻害 |
酸化剤 |
過酸化水素 過酢酸 |
0.01 ? |
− + |
酸化による酵素不活化、タンパク変性 |
陽イオン海面活性剤 |
塩化ベンゼトリニウム 塩化ベンザルコニウム |
61 20-60 |
− + |
表面活性作用による膜破壊、 タンパク変性、酵素不活性化 |
酸・アルカリ類 |
硼酸 NaOH |
? ? |
− + |
水解による菌体成分の変性、 酵素不活性化 |
ガス殺菌剤 |
エチレンオキシド ベータープロピオラクトン |
? ? |
+ + |
アルキル化によるタンパク、 核酸の変性、酵素不活性化 |
2.物理的方法 | 作 用 機 構 |
放射線照射 |
ガンマー線やX線、菌体成分がイオン化、O2-OH H2O2などによる強い酸化や還元作用で、核酸やタンパクが変性 |
紫外線照射 |
256nm付近の紫外線殺菌燈、核酸に特異的に吸収されイオン化によりDNA構造に変化(T-Tダイマー)を起こし、核酸の複製が阻害 |
高周波照射 |
高周波の熱エネルギーと高周波自体振動波による摩擦熱、またはその相乗効果によって殺菌 |
超音波照射 | 分子摩擦、酸化作用によって菌体が破壊、溶菌 |