第64話
 下水に落としたウイルスはまた人間に戻ってくる
 

 
「主な対象読者」
 主な読者としての対象者は、高校生以上です。しかし、少し難しい文かも知れません。
 人間の腸管を出発点としたウイルスは、環境水の循環にのって、回りまわってまた人間に戻ってきます。ブーメランが発送者の手元に戻ってくるのと似た現象です。正確に理解できなくても概略を把握して貰えると思います。
 
「読者への期待」
近い将来には宇宙基地や深海底基地に人が住むようになります。その時、生活空間や生活排水の清浄化などには特殊な細菌などが必要不可欠な存在となります。ところが日常生活の営みから人間は水中にウイルスを排泄し、環境水をウイルスで汚染させています。しかし、その水中のウイルスを人間はコントロールすることができないのです。このように人間のために解決しなくてはならない問題が存在することを判ってもらいたいのです。きっと新たな発見があると思います。
 
本 文 目 次
 
著者 田口 文章
 

 
 
第64話 下水に落としたウイルスはまた人間に戻ってくる
 
1.はじめに
 人間を頂点とする全ての生き物は、特別な物質である水の存在しない環境では生きられません。どこにでも存在する水がとうして特別な物質なのか不思議に思うかも知れませんね。純粋な水は、水素2個と酸素1個からなる化学物質であることは良くお分かりのここと思います。
 
 水は、条件によっては気体、液体または固体の3つの状態をとれる不思議な物質です。それでは水に似ている物質にどんな物があるかと聞かれたら、君は何と答えますか。無理して水に近い物質をあげるとすると、それはアルコールかも知れません。しかし、水とアルコールは、明らかに違いますよね。アルコールには、メタノール、エタノール、ブタノールなどいくつか似ているアルコールがあります。しかし、水に似ている物質は、この世に存在しないのです。そのため水の代替え品はないのです。
 
 健康に生活できるような健全な住環境を創造したいとの清潔志向が高まり、環境に存在する多種多様な問題が次から次へと現れてきています。あまり一般的ではないかも知れませんが、私たちの身の回りに存在する環境水の微生物による汚染が極めて深刻な状態にあります。
 
 レジオネラ属菌やクリプトスポリジウム原虫など例外的な一部を除いて、生活廃水中に存在する細菌類は、塩素、オゾンや紫外線などによって不活化(=死滅させる)することが可能です。
 
 しかし、水の消毒に用いられている現在の技術で糞便由来のウイルスを完全に不活化(≒死滅) させることは難しいとされています。下水のウイルス学的な安全対策が不充分であると、最初に河川水がウイルスによって汚染されます、次にそれが流れ込む湾内またはその近海の海水が汚染されます。汚染されている海水域で生育している魚介類が次に糞便由来のウイルスで汚染され、その魚介類を食することで最終的には自分たちがトイレに落としたウイルスによって自分たちが被害を受けることになります。その代表例が生カキなどによるウイルス性食中毒の頻発でありましょう。
 
 本稿では、多様な微生物を最初に簡単に説明して、次にウイルスが細菌などとどのように違うのかを知ってもらい、さらにウイルスに汚染されている環境水の処理の難しさの問題を指摘し、最後に宇宙空間や深海底での想定できる問題まで触れたいと考えています。
 
 
2.生物界における微生物の位置
 人間を含む全ての生物は、基本的に真核生物と原核生物のどちらかに分類されます。真核生物は、簡単に表現すると細胞の中に核膜にくるまっている核と呼ばれる構造物がある生き物のことで、動物と植物に分けられます。一方、原核生物は、核膜が存在しないため核という構造が見えない生物のことです。表1にその違いの概略を示しました。
 
表1.原核生物と真核生物の比較
特 徴 原核生物 真核生物
核 膜 ナシ アリ
染色体 1個、環状 複数個
ミトコンドリア ナシ アリ
細胞壁
 
アリ
 
アリ(植物)
ナシ(動物)
代表例 細菌 真菌・原虫
 
 別な面から微生物を分類すると表2のように言いあらわすことができます。肉眼では見えないが光学顕微鏡を用いれば初めて観察される大きさの細菌で、増殖を特異的に阻害できる特効薬があり治療も可能な第一世代の微生物と呼ばれるものです。次ぎは、普通の光学顕微鏡を使っても見えないが電子顕微鏡を用いて初めてその存在が認識される粒子的なウイルスで、細胞寄生性であることから特効薬がなく、病気の予防はできても疾病の治療法も確立されていない第二世代の微生物です。最後は、電子顕微鏡でもその姿を捉えることができず、様々な化学的物理的要因に抵抗性を示し耐熱性のタンパク質からなり、そのものの物性も治療法も不詳のプリオンと呼ばれる第三世代の微生物です(表2)。
 
表2.微生物の時代的分類
第1世代の微生物
 肉眼ではみえない、光学顕微鏡で可視、基本構造は生物共通の細胞、
 例:細菌(レジオネラ菌、赤痢菌、コレラ菌)、特効薬あり、治療が可能
第2世代の微生物
 光学
顕微鏡でみえない、電子顕微鏡で可視、基本構造は細胞でなく粒子、
 例:ウイルス(インフルエンザウイルス、エイズのHIV)、特効薬ナシ、治療法なし
第3世代の微生物
 電子顕微鏡でもみえない、基本構造は未詳、耐熱性、遺伝子ナシ、
  例:プリオン(狂牛病、CJD)、治療法なし                 
 
 更に、正真正銘の生物としての微生物と無生物的な性状の微生物とがこの世には存在します。真核生物である真菌や原核生物である細菌は、生物として共通の基本構造である細胞という生命単位から出来ています。
 
 しかし、無生物的な微生物であるウイルスは、遺伝物質である核酸とそれを守ための保護膜としてのタンパク質からのみ出来ています。プラスミドやウロイドは核酸のみから、更にプリオンはタンパク(正確には糖タンパク質)のみから出来ていると考えられています(表3)。
 
表3.微生物の分類
生 物
  真核生物    動物 原虫     植物 真菌
  原核生物    動物 存在ナシ 植物 細菌、スピロヘータ、クラミジア、リケッチア
無生物                  ウイルス(核酸とタンパク質のみ)
                       プラスミド・ウロイド(核酸のみ)
                       プリオン(糖タンパクのみ)
 
 
3.微生物の種類と特徴
微生物の種類と各々の特徴の概略を表4にまとめて示しました。
 
表4.微生物の種類と特徴
生 物
 原虫
 細菌(広義)
 リケッチア
 クラミジア
動物 細胞
植物 細胞
植物 細胞
植物 細胞
DNAとRNA
DNAとRNA
DNAとRNA
DNAとRNA
自己増殖
自己増殖
否自己増殖
否自己増殖


細胞内増殖
細胞内増殖

感受性
感受性  要媒介昆虫
感受性
無 生 物                      
 ウイルス

 プラスミド

 プリオン
 
 ?  粒子

 ?  粒子

 ?  粒子
 
DNAかRNA

DNA


 
否自己増殖

自己増殖

 ?
 
細胞内増殖

細胞内増殖


 
否感受性
結晶化 感染性核酸
否感受性
感染性(+or−)
否感受性 否滅菌性
否UV・X線不活化
 
以下に細菌とウイルスの違いの概略を記しました。
 1)細菌とは
 葉緑素を持たない二分裂で増殖する単細胞性の原生生物(植物)のことです。無機物を酸化してエネルギーを獲得する例えば硝化細菌や鉄細菌などの独立(自家)栄養細菌と有機物を分解してエネルギーを得る例えば大腸菌、コレラ菌やレジオネラ属菌などの従属栄養細菌とに大別されます。
 
 従属栄養細菌は、地球上に広く分布し、種類によっては病気を起こす病原体でもあり、あるいはレジオネラ菌などのように環境汚染源でもあり、乳酸菌や納豆菌のように多くはヒトや動物にとり不可欠で有用な細菌でもあります。
 
 病原微生物は、真核生物に属する真菌(カビや酵母)と原核生物に属する細菌に分類されます。接合によって細菌間の遺伝子の伝達が可能です。表4では、生命活動の情報伝達のための遺伝子を「DNA と RNA」、自分で分裂して増える能力を「自己増殖」、抗生物質などの薬剤で治療が可能な事を「感受性」と表記しました。代表例として、結核菌、赤痢菌や大腸菌などがあります。
 
 2)ウイルスとは
 殖えることの出来る裸の遺伝子で、この意味では基本的に生命体と言えます。しかし、生物共通の基本構造である細胞という構造をもたない機能のない小さな粒子であって、生きた細胞の内でのみ殖える因子と定義されます。情報伝達物質としての遺伝子は、DNAかRNAの一種類の核酸よりなる珍しい微生物であるウイルスは、好みの細胞でのみ殖える絶対細胞寄生性であります。
 
 ウイルスは、精製すると結晶にすることができます、また遺伝物質としての核酸は感染性があり増殖する能力を持つ奇妙な病原体であります。現在の水処理技術では一番厄介で問題となる微生物です。代表例として、肝炎の原因となる型肝炎ウイルス、ノロウイルスなどり腸内ウイルスなどがあります。
 
 
4.糞便に見つけられるウイルスの特徴
 輸血など特殊な場合を除くと、ウイルスは空気を介して鼻からかまたは飲食物と一緒に口から身体に入ってきます。鼻や口から吸い込まれたウイルスの多くは、ヨダレや痰(たん)などの粘液物質によって体の外に吐き出されます。
 飲食物と共に口から入ってきウイルスは、胃に入ると胃酸 (=塩酸)という強酸に暴露されるので、酸に弱いウイルスはほとんど死滅させられます。たとえ胃酸に耐えられたウイルスが存在したとしても次に腸管に入ると胆汁という強力なアルカリ性の界面活性剤に曝されます。このアルカリ状態でさらに多くのウイルスが死滅させられます。
 
 強力な酸とアルカリに耐えられる強いウイルスのみが、腸管系の細胞で増えられるのです。人間の小腸や大腸などの消化管は、とても長いので、そこに存在する細胞数はとてつもなく莫大なものです。酸性とアルカリ性に耐えられた残存ウイルスはたとえ少数であったとしても、増殖できる細胞は多く存在しているので、ものすごい数にまで増幅させられます。結果として腸管内で増殖して糞便とともに排出されるウイルスは、物理化学的要因にとても抵抗性の強いウイルスであることになります。
 
 
5.水は循環する
 生活環境中にある水は、人間を中心にとらえると、次のような関係になります。地下水や河川水を飲料水として利用しています。台所、風呂や水洗便所などの生活環境からの水は、適切に処理されて地下に吸収されるかまたは河川に流れ込みます。河川水は、一部飲料水として利用され、その使われた水は再び地下や河川に入ります。水道水としての利用のためにこの河川水は取水されます。と同時に利用後の水道水は処理水として河川へ再び放流され、地域によってはこれらが何回も繰り返されながら、最終的には海に放流されるのです。
 
          糞便 水洗便所 下水処理場 河 川 海 洋
           ↓                 
        汲取便所 浄化槽  地下水 河川水 魚介類
           ↓    ↓    ↓     ↓      ↓
    雨水 地下水  雑用水  飲料水   飲料水  人 間
           ↓     ↓      ↓      ↓       
         飲料水 水洗便所 生活排水→ 人 間  生活排水
 
図1.水の循環
 
 
6.ヒトの腸管内に生息するウイルス
 下水処理場などで水は処理されていっけん飲めるように見えるまでキレイにされますが、糞便(=腸管)由来の便所からのウイルスはほとんどそのままの状態で残っています。その処理水が河川に放流されると、人の腸管由来のウイルスは、ついには海にたどり着きます。海に出るまでのそれぞれの場所で、長い流域をもつ河川などではヒトと接触する機会が一回のみならず存在するので、そこでまたウイルスはヒトに感染し、増殖し増幅されることになります。
 
 ヒトの腸管内に生息しているウイルスの種類をまとめると、表5のようになります。ウイルスの種類としては14種ですが、タンパク質の免疫学的な種類血清型で数えると100種類を超えてしまいます。
 
表5. ヒトの腸管内に生息するウイルス
ウイルス名 血清型 ウイルス名 血清型
アデノウイルス
コクサッキーウイルス
エコーウイルス
エンテロウイルス
ポリオウイルス
ロタウイルス
レオウイルス
43種類
30種類
30種類
4種類
3種類
3種類
1種類
A型肝炎ウイルス
E型肝炎ウイルス
ノロウイルス
ノーウォークウイルス
カリシウイルス
アストロウイルス
サッポウイルス
1種類
1種類
1種類
1種類
1種類
1種類
1種類
 
 腸管系のウイルスの種類はとても多いことが理解できると思います。これらの多くのウイルスの全ての感染を一度に受けることは多分ないものと思われます。しかし、これらのウイルスは、腸管の細胞で増殖した場合、1日にどの程度の数のウイルスとして糞便とともに体外に排出されるのでしょう。
 
 
7.ヒトの糞便に排出されるウイルスの量
 年齢差、性別、体格および食事などの要因によって、1日に排出される糞便の量は明らかにことなります。欧米人と日本人でも違いますが、それ以上に子供か大人なのか、男の子なのか女の子なのかの性差、お相撲さんのように身体の大きな人か普通の体格の人なのか、食事の種類と摂取する量などによっても違いますから、糞便量の平均値と云う表現は簡単ではなく難しくなります。1日に排泄される糞便量は、小さな子供では100グラム前後、普通の日本人大人では200グラムから400グラム程度と考えられています。それで平均200グラムとすることにしましょう。
 
 アデノウイルス、ノロウイルス、A型肝炎ウイルスやその他の腸管内で増殖するウイルスに感染したヒトがある河川の上流地域に1人いたとします。そのヒトが排泄した便とともにウイルスも排泄されます。その1人が排泄する1日のウイルスの量を推計してみましょう。それには幾つかの条件を決めなくてはなりません。
 
 糞便1グラムに含まれるウイルス検出量は約10万感染単位(PFUと略す)、1日に排泄される糞便量を約200グラム、ウイルスの排泄期間は数ヶ月間持続(平均2?3ヶ月間)するがここでは1ヶ月間にわたり排泄、ヒトへの最少感染量を100PFUします。ウイルスの感染単位は、PFUと略称されます。最も感染率の良いウイルスでは1PFUには最低10〜100粒子、比較的感染率の低いウイルスでは1PFUに3000〜4000粒子の感染性ウイルスを必要とします。
 
表6. 腸内ウイルスの排泄量
糞便中に検出されるウイルス量
一日の排泄糞便量
一日の排泄ウイルス総計量
ウイルスの排泄期間
ヒトへの最少感染量
一日の排泄ウイルスの感染量
1ヶ月間の排泄ウイルスの感染量
10万PFU/グラム
200グラム/日/人
,000万PFU//
1ヶ月間
100PFU
/
20万人を感染させられる
600万人を感染させられる
 
 結果は、表6に示したように莫大な数値になります。家庭内の水洗便所で一回に流される水量を約10リットルと仮して、そこに200グラムのウイルスを含む糞便が落とされたとすると、
200グラム//×10万PFU/グラム÷10リットル
200万PFU/リットル//人 となります。
 これは一人が200万PFU/リットル//人のウイルスを含む排水を毎日10リットル流すことを意味します。1,000人が住んでいる大型集合住宅で約5%にあたる住民がウイルスの感染を受けたと仮定すると、
200万PFU/リットル//×50人
=1億PFU/リットル/日 となります。
 約100万人を感染させられる下水が毎日500リットル(10リットル×50人)も約30日間も作られることを意味します。
 
 河川水または地下水を上水用に採取して人間が水道水として利用し、それを下水に捨てます。下水処理場で適切に処理されて河川に放流されます。このようなことを何回も繰り返していると、河川水には段々とウイルスが溜まってきます。地域によってはその流域の河川水はかなりウイルスに汚染されている可能性がうかがえます。
 
 そのウイルスが仮に海にまで流れ出て、湾内または近海に出たとすると、そこに生息する魚介類がこれらのウイルスを体内に取り込み、ウイルスは段々と濃縮されていく可能性が考えられます。
 
 米国では、古くからウイルス感染症の感染経路別の集計結果が公表されています。それによると水から感染したことが判明している事例は、おおざっぱにみて全事例の約10%にあたると云われています。
 
 
8.魚介類に検出されるウイルス
 東京湾内で自分たちで採取した11種の二枚貝と都内で実際に市販されているカキ、ハマグリ、アサリ、ホタテカイなどの二枚貝19種を店頭から購入したものとについて、ウイルスによる汚染状況を東京都は調査したことがあります。
 
 その結果(表7)は、ウイルスを専門にする者からすると、「そうだろうな」と合点のいく成績が示されています。一般の人が初めて見聞きすると驚くことでしょう。
 
市販の二枚貝約204サンプルを検査して65サンプルから、ヒトに胃腸炎を引き起こす複数のウイルスやA型肝炎ウイルスなどさまざまなウイルスが検出されましたが、ウイルスが検出されなかった二枚貝は存在しなかった。
 
表7.二枚貝のウイルス汚染

ウイルスの種類
検  出  数  と  頻  度
市販の貝(19種) 東京湾の貝(11種)
アデノウイルス
コクサツキーウイル
ノロウイルス
A型肝炎ウイルス
エコーウイルス
16種  84%
10種  53%
8種  42%
7種  37%
7種  37%
8種  73%
10種  91%
6種  55%
7種  64%
8種  73%
 
 この二枚貝のウイルス汚染の調査では、ウイルスの存在する可能性が高い内蔵が調べられました。カキを別にして、ほとんどの二枚貝は、普通加熱処理されるかたまは内蔵を除いた後に食されることが多いと思われるので、ウイルスが存在しても直ちに重大な問題と考える必要はないかと思われます。しかし、内蔵を除去しないで生で食する場合は、ウイルス性胃腸炎などの感染に注意する必要があると考えるべきでしょう。
 
 試験のために購入した二枚貝の産地は特定されていませんが、現在は近隣諸国より輸入されたカキなどもあり、国内産と国外産のどちらがウイルス汚染をより受けているのか、また国内産としても産地による差がないのかあるのかなどは、今回の調査では不明であったようです。
 
 
9.殺菌の種類と特徴
 微生物を殺滅するには化学的な方法と物理的な方法とがあり、細菌に対する代表的な化学的な殺菌剤と物理的な照射を表8にまとめ、石炭酸係数(石炭酸と比較した消毒力の強さ)と芽胞に対する効果およびその作用機構をも記載しました。
 
これらの殺菌剤及び照射で塩素系殺菌剤と紫外線以外は、効果が低いとこや残留性、その他の理由から一般に水処理には使用されていません。水処理で細菌に対する殺菌・消毒は、現実に実施されているので、ここでは紙面の関係上これ以上には触れないことにします。
 
表8.殺菌の種類と特徴
1.化学的方法
薬 剤
石炭酸係数 殺芽胞作用 作用機構
 
アルコール類
 
エタノール
イソプロパノール
0.04
0.24

タンパク変性、酵素不活化、
脂質溶出
フェノール類
 
フェノール
クロールヘキシジン

20-70

膜透過性変化(表面活性作用)、
タンパク変性、酵素不活化
ハロゲン類



 
塩素
サラシ粉
次亜塩素酸ナトリウム
ヨウ素
ヨードホルム

50-70
10-15
10
10




酸化によるタンパク変性、
酵素SH基の不活化


 
アルデヒド類

 
ホルマリン水
グルタルアルデヒド
 


 


 
タンパク変性、凝固(NH2基、OH基のアルキル化) 、タンパク・核酸合成阻害
酸化剤
 
過酸化水素
過酢酸
0.01

酸化による酵素不活化、タンパク変性
 
陽イオン海面活性剤
 
塩化ベンゼトリニウム
塩化ベンザルコニウム
61
20-60

表面活性作用による膜破壊、
タンパク変性、酵素不活性化
酸・アルカリ類
 
硼酸
NaOH


水解による菌体成分の変性、
酵素不活性化
ガス殺菌剤
 
エチレンオキシド
ベータープロピオラクトン


アルキル化によるタンパク、
核酸の変性、酵素不活性化
 
2.物理的方法 作  用  機  構
放射線照射
 
ガンマー線やX線、菌体成分がイオン化、O2-OH H2O2などによる強い酸化や還元作用で、核酸やタンパクが変性
紫外線照射
 
256nm付近の紫外線殺菌燈、核酸に特異的に吸収されイオン化によりDNA構造に変化(T-Tダイマー)を起こし、核酸の複製が阻害
高周波照射
 
高周波の熱エネルギーと高周波自体振動波による摩擦熱、またはその相乗効果によって殺菌
超音波照射 分子摩擦、酸化作用によって菌体が破壊、溶菌
 
 現実の問題は、生活排水中に存在するウイルスをどうすれば処理できるかです。塩素、オゾンや紫外線は、水処理に実際使用されていますが、ウイルスに対しては共に問題があります。
 
 塩素は、現在の使用濃度以上に濃度を高めない限りウイルスへの効果は全く望めず、濃度を高め過ぎるとトリハロメタンなどの副生成物の問題が派生します。オゾンは、生体に対して毒性がありますので、ある濃度以上のオゾンを空気中に排出することは禁じられています。さらにオゾンのウイルスに対する効果は絶対ではなく、水に対する溶解度が低いので高濃度にすると余剰オゾンの除去が必要となります。更にオゾンを除去する排気装置中では外気側で雑菌が繁殖し、その雑菌の飛散があらたな問題となります。紫外線でウイルスを完全に不活化することは意外に難しく、その上一旦不活化されたウイルスも可視光線に曝されると再び活性化されることも判っています。
 
 従って、現在の水処理法は、ウイルスに対して不完全であります。何故ならば、処理下水からエイズの原因ウイルスが分離されたとの報告もあり、また日本近海で養殖している生食用生カキがヒトの腸管系ウイルス、例えばノロウイルス(小型球形ウイルスと呼ばれていた)、A型肝炎ウイルス、その他アデノウイルスなど多数のウイルスに汚染されているために、食中毒が頻繁に発生しています。報告はないがB型肝炎ウイルスも試験すれば検出される可能性がうかがえます。
 
 これらが問題なのは、ヒトの血液や糞便に存在するウイルスに由来するからで、生活排水処理が不完全であることを物語っています。さらに国内では調査も報告もありませんが、上水用に取水される河川水にウイルスが混在していると、いかに高度な水処理を施しても、水道水にウイルスが混入してくる可能性は否定できないと思われます。
 
 次に、水中ウイルスを完全に不活化できた私の経験を紹介します。まだ完全な試験が繰り返されて実施されていないことと、ある特定企業の製品であることから、具体的な名称は伏せて、原則の概略を説明します。
 
1)活性酸素によるウイルスの不活化法
 空気に紫外線を照射してオゾンを発生させた後、圧力をかけてオゾンを含む空気を細かい泡状にして処理すべき水に添加し接触率を高めます。次に別な波長の紫外線を照射してオゾンを破壊して活性酸素に変換します。この装置に試験水を通すと細菌は勿論のこと100PFU/mlの腸管由来ウイルスも瞬時に完全に不活化できました。
 
2)活性化ヨウ素によるウイルスの不活化法
 陽イオン交換樹脂にヨウ素を化学結合させた小さな粒状で殺菌力の極めて強い製品です。樹脂に結合しているヨウ素は水中で簡単には遊離しません。微生物は通状陰性に荷電しているので、水中に存在する微生物は陽イオン交換樹脂に結合します。樹脂に結合した微生物量に相当するヨウ素が樹脂より離れ、外れたヨウ素の酸化力により100PFU/mlの腸管由来ウイルスを含む微生物が瞬時にして不活化されました。
 
 
10.不充分な処理は耐性微生物を作るか
 紫外線照射やオゾン処理等のような核酸に作用する処理を不充分に行うと、遺伝子が変異することは充分に予測されます。別に、感染性を不活化するに必要最低の紫外線照射で不活化したウイルスの核酸は、PCR法で充分に検出されることから、放流水に混在する不活化ウイルスが魚貝類の体内で再び活性化されることも考えられます。
 
 重大な問題が幾つか存在します。一つは、変異した微生物が排水中に存在してヒトに疾病を引き起こしているとしても、変異微生物の検出と水質の管理を誰が責任を取れるのでしょうか。また、近海の魚貝類のウイルス汚染が生活排水中に存在するヒト糞便由来のウイルスおよび不活化ウイルスの再活性化によると仮定した場合の責任はどこにあるのでしょうか。更に、水系ウイルスの検査を実施できる試験機関の絶対的な数の不足が挙げられます。
 
 放流水および河川水が流入してくる湾内海水よりヒト腸管由来のウイルスが高頻度に分離され、また近海で養殖されている魚貝類が糞便由来のウイルスに汚染され、その結果ウイルス性食中毒が頻発している現状は、現水処理技術がウイルスに対して不備であることに原因すると考えられます。監督官庁は、現状改善に向かって強い指導力を発揮し、積極的に問題解決に取り組むべきと考えられます。
 
 
11.宇宙基地のウイルス対策
 いま現在(平成21年7月7日)国際宇宙ステーションでは若田さんを含む6人の宇宙飛行士が滞在し、もう既に3か月を超える長期間の生活をしています。宇宙ステーション内での生活は快適であると言いながらも、「お風呂」に入りたいとの希望を述べていました。
 
 近い将来には宇宙基地に大勢の人々が長期間滞在し、特殊な任務に就くようになります。と同時に地球と宇宙基地の間を多くの人達が往復するような状況になることは間違いがないでしょう。そのように複数の人達が長期滞在(=生活)する場合を想定すると、宇宙基地でのウイルスのみならず微生物に対する安全対策または衛生対策は万全なのでしょうか
 
 生活に必要な酸素を含む空気、ウイルスを含む再生水、エネルギー源としての水素および炊事や食事からでる廃棄物や廃水の処理などをどのようにするかが大きな問題となりましょう。宇宙空間は、ある意味では密閉空間ですから、船外から酸素や水素および食料品などを適時に補給することは難しく、さらに廃棄物や廃水を船外に捨てることも多分出来ないでしょう。とすると完全な自給自足および完全なリサイクルの態勢が必要となります。エルネギ―元としての水素や酸素なども確保しなければならないことになります。
 
 尿や糞便および生活排水や調理くずなどの排泄(廃棄)物は、特殊な嫌気性細菌を用いて分解され、水素やメタンなどのエネルギー源を確保します。処理した水は別な微生物で浄化して再生し再利用します。酸素はきわめて貴重ですから物を燃焼させるためには使えません。廃棄物処理などが炭素を含んでいる限り、微生物を働かせると必ず二酸化炭素が発生します。この二酸化炭素は、植物の光合成能を利用してデンプンに変換させて再利用されます。
 
 宇宙基地内での生活は、微生物の働きなしにしては考えられないのです。その一方で、ウイルスや細菌を完全にフリーにした水や空気を再生する技術をなくして安全で快適な環境は得られないのです。このような面から考えると、宇宙空間での微生物学をより発展させることが緊急な研究課題と思われます。
 
 
12.さいごに
 数年前のことですが、ある人を介して宇宙基地内の空気にウイルスが紛れ込んでいないを検証する試験に協力して貰えるか、さらに空気中のウイルスをフリーにする可能性についての問い合わせが届きました。
 
 宇宙基地で大勢の宇宙飛行士、科学者やエンジニアーなどの人々が長期間生活し、同時に地球と宇宙基地の間を多くの人達が往復するようになります。その時、宇宙基地や宇宙船でインフルエンザや帯状疱疹などのウイルスによる病気が広がったとすると、密閉空間内でのことですから、そこに居る人達全員が感染してしまう可能性は否定できないのです。
 
 水や空気のなかに存在するウイルスを定性的に検出することは、それほど難しいことではないかも知れません。しかし、どの程度のウイルスが存在するのかを定量することは必ずしも容易なことではありません。飲み水や空気中にウイルスが検出されたと仮定しても、含まれているウイルスの量はどの程度なのか、そのウイルスを殺滅してゼロにするにはどうすればよいのか、そのウイルス量は身体に安全なのかなど、現代ウイルス学をもってしても未解決な部分を多く含むのが現状です。
 
 ここまで読んでくれた諸君! 無重力の場での微生物についての実験は、どのような実験条件を設定すれば、実施が可能なのでしょう。重力がないと遠心力などで物を分けることはできないでしょうし、フラスコ内で水素生成菌を培養して水素発酵から発生する水素ガスをどのようにすれば液体から分離することができるのでしょう。ウイルス無し=ゼロを証明する以前に、基本的な実験を展開することも簡単ではなさそうです。
 
 ここまで読んでくれた君! これから環境微生物学または宇宙微生物学を学んでみませんか。もしかすると宇宙基地での勤務が君を待っているかも知れません。宇宙に行かないまでも深海底に作られる人工基地にも働き場はあるかもしれません。目標を高く掲げてこれからの人生を価値あるもの、人類のためになるものへの献身は、満足感が得られる日々の生活となりましょう。
 
平成21年7月7日
著作者 田口 文章

 
 

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