第84話
 コーヒーブレイク3 〜重いのはどっち〜
 

 
「主な対象読者」
今回の対象読者は小学生以上です。難しいことは何一つありませんので気楽に読めると思います。
 
「読者への期待」
本稿の真の狙いは、教師と教養学部の学生です。教育によって、全く疑いもせずに思考の幅を狭めてしまうことがあると認識していただきたいと思っています。
 
本 文 目 次
 1.鉄と木
 3.落とし穴
 
著者 坂田 明治
 

 
 
第84話 コーヒーブレイク3 〜重いのはどっち〜
 
1.鉄と木
 いきなり質問です。1トンの鉄と、1トンの木どっちの方が重いでしょうか。
 
 まあ、「同じ」と答える人が多いと思います。鉄の方が重いと答える人もちょっとはいるかも知れません。でも、木の方が重いと答える人はほとんどいないのではないでしょうか。
 
 1トンは1トンなのだから同じというのは教育のたまものでしょう。単に、鉄と木とどっちが重いかと質問すれば、鉄と答える人が結構いると思います。しかし、ホチキスの針程度の量の鉄と、大木とを比較すれば、木の方が重くなります。それで、量を考えなくては重さの比較ができないことを知り、1トンの鉄と1トンの木との重さの比較というふうに習ったと思います。
 
 話は変わって、その昔、重いものと軽いものはどちらが早く落ちるかということが問題でした。普通の感覚では、重いものの方が早く落ちると思われます。砲丸玉タンポポの種(綿毛付き)を落とすと、砲丸玉の方が早く落ちますよね。それで、長らく重いものの方が早く落ちると信じられていました。
 
 多分、学校で、「重いものも軽いものも同時に落ちる」と学ばなければ、今でも、重いものが早く落ちると信じていたかも知れません。これも教育のたまものでしょう。
 
 さて、1600年頃、ガリレオ・ガリレイが、「重いものでも、軽いものでも、同時に落ちる」ということを主張しました。ちなみに、この実証実験で、ピサの斜塔からものを落としたというのは、後から付けた創作といわれています。
 
 ガリレオは思考実験によって、この事実に気付いたそうです。その思考実験というのは、「仮に、重いものが早く落ち、軽いものが遅く落ちるとして、重いものと軽いものをひもでつないで落とす」というものです。
 
 
 すると、重いものは早く落ちるのだから、軽いものを下に引っ張る。軽いものは遅く落ちるのだから、重いものを上に引っ張る。ということで、重いもの一個のときよりも、軽いものに引っ張られた分遅く落ちるし、軽いものよりも重いものに引っ張られた分早く落ちるということになります。
 
 まとめると、ひもで結んだものは、重いものより遅く、軽いものより速く落ちるということです。ここで、よく考えると、重いものと軽いものをひもでつないだものは、最初の重いものよりも重いので、より早く落ちなければなりません。
 
 ということは、「重いものが早く落ち、軽いものが遅く落ちる」という前提と合わなくなります。今の思考実験は、「軽いものが早く落ち、重いものが遅く落ちる」としても全く同じなので、この場合もあり得なくなります。
 
 すると、残るのは「重いものも、軽いものも同時に落ちる」ということだけです。
 
 とはいえ、やっぱり砲丸玉とタンポポの種(綿毛付き)を考えると、やっぱり砲丸玉の方が早く落ちます。何が原因でしょうか。
 
 
 ここで、飛行機から飛び降りることを考えましょう。飛び降りた人が、途中でパラシュートを開くと、落ちる速さが遅くなりますよね。気が付かれたと思いますが、パラシュートの空気抵抗によって落ちる速さが遅くなったのです。
 
 日常生活でも、空気抵抗を感じる場面が多々あります。自転車に乗って、向かい風の方へ走ろうとした場合と、追い風に乗って走る場合を想像してみてください。もう解ったと思いますが、タンポポの種(綿毛付き)の落ちる速さが遅いのは、空気抵抗によるものです。
 
 そうであれば、空気抵抗のない所、つまり真空中なら、砲丸玉とタンポポの種(綿毛付き)は同時に落ちるはずです。どこかでこの実験をご覧になった方もいるかと存じます。まあ、この辺は学校で教えてくれますので、特にどうしたということもないでしょう。
 
 
2.アルキメデスの原理
 アルキメデスは古代ギリシアにおける第一級の科学者です。発明や発見も数多くあり、アルキメデスの名を冠したものも色々あります。
 
 さて、コップなどの容器に水を入れてみましょう。
 
 
 誰でも、水が、容器の底面を下に押し、容器の側面を横へ押していることを知っています。しかし、水は、上へも押しています。発泡スチロールを浮かべてみましょう。いくら軽いとはいえ、重さはあります。ですので、水の底へ沈まないということは、水が下から押していることにほかなりません。ためしに、浮かんだ発泡スチロールを上から押してみましょう。下から押し上げてくる力を感じるはずです。
 
 こうした水などの押す力のことを「圧力」といいます。
 
 
 図4のように、物体が水中で静止している状況を考えましょう。まず、横へは動きませんので、横からの圧力は釣り合っています。これは、図4の横の矢印は、反対向きで大きさが等しいということです(以後、横からの圧力は無視します)。しかし、縦の矢印はそうではありません。向きは反対ですが、上からかかる圧力に対する矢印と、下からかかる圧力に対する矢印の大きさが違っています。図4の右下に書いてあるように、上向きの矢印が、下向きの矢印と重力による矢印(重さのこと)をつなぎ合わせた長さにります(釣り合うということ)。
 
 水中では、深いところへ行くほど、圧力が大きくなります。これに応じて、矢印も大きくなります。では、この圧力と水深の関係を実験してみましょう。用意するものは、まず、ある程度大きな容器、透明の方が中が見えてよいでしょう。次に、透明な筒と厚紙などを切って作ったふたです。透明な筒は、なんでもいいので、ペットボトルなどを切って作りましょう。なるべく色々な形の筒を用意してください。注意点は、ふたと筒の間から水が漏れないようにすることです。あとは水差しがあれば十分です。
 
 
 大きな容器に水を入れ、図5のように、筒の下にふたをして水に沈めます。すると、接着剤で付けたわけでもないのに、ぴったりくっついてしまいます。圧力がふたを下から押しているからですね。今度は、水差しで、筒の側面に沿って静かに水を流し込みます。すると、外側の容器の水面と、筒の中の水面が一致したときにふたが外れてしまうことを確認できるはずです(ここで、ふたの厚みは無視します。どういうことかというと、ふたの厚みによって、外側の容器の水面と、筒の中の水面の間にちょっと差がでますが、それを無視するということです)。これは何回やっても、どんな形の筒でやっても、筒を浅く沈めても、深く沈めても同じです。
 
 そして、ふたが外れるということは、ふたの下からかかっている圧力と、ふたの上からかかる圧力が釣り合ったためです。以上から、圧力は、水面からの深さ、つまり水深だけで決まるものと考えられます。
 
 図5をよく見てみましょう。筒の形はなんであっても関係ないので、円柱としましょう。ふたを付けて沈めた筒に入れた水の重さがふたにかかると考えられます。すると、沈めた部分が2倍になれば、2倍の水、つまり2倍の重さをかけるとふたが外れ、沈めた部分を半分にすれば、半分の重さでふたが外れるということになります。これから、圧力は水深に比例してかかるということが解ります。
 
 
 今度は、立方体を考えます。考えやすいように、一辺が1センチメートルとします。すると図6のように、下からの圧力と上からの圧力の差は、立方体の体積の水の重さ分になります(図4も参照してください)。今は、一辺が1センチメートルとしましたが、立方体をもっと細かくしても同じであることが解ります。自分でよく考えましょう。
 
 
 物体を細かく切っていきましょう。図7は平面化して書いてますので、立体図は自分の頭で想像してみてください(イメージトレーニングになります)。すると、へりの近くを除くと、物体は小さな立方体の集まりとなっていきます。どんどん立方体を細かくすれば、へりの辺りの立方体の体積のを足し合わせたものは非常に小さくなり無視できます。そうすると、物体の体積は小さな立方体の体積の総和と考えて差し支えないでしょう。
 
 図6の説明にあることを合わせて、物体の下からの圧力と上からの圧力の差は、物体の体積分の水の重さと考えられます。つまり、水中で、物体は自分の体積分の水の重さだけ軽くなるということです。
 
 ここでの説明は、水に沈んでいる状態でした。物体が浮いているときは、水に浸かっている(つかっている)部分の体積に相当する水の重さだけ軽くなります。また、物体が沈んで、底にぴったりくっついている場合、下からの圧力はかかってないように見えますが、それでも、下からの圧力はかかります。この辺のことは、ここまでのことを思い出して、自分でよく考えましょう。
 
 まとめると、「物体を水中に入れると、物体の水に浸かっている体積分軽くなる」ということです。このとき、浮いているか沈んでいるかは関係ありません。これをアルキメデスの原理といいます。そして下からの圧力と上からの圧力の差を「浮力」と呼びます。
 
 
3.落とし穴
 アルキメデスの原理に関して、以下のような話があります。
 
 王様は、金細工師に純金を渡して王冠を作らせたが、どうも金細工師が金をくすね、銀をまぜてごまかしたらしい。そこでアルキメデスを呼んで、「この王冠が純金でできているかどうかを判定してもらいたい。ただし、王冠を削ったり壊すなど、傷をつけてはならんぞ。」
 
 この話は後から作った逸話(いつわ)のようです。しかし、ここではそんなことが問題ではありません。この王様の依頼をどうやって実現するかです。「王様が傷つけるな」といってるのだから、削って分析器にかけるなどということはできません(当時、分析器なんてありませんから、かなり面倒な方法で調べなくてはなりません)。かなりの難問ですね。
 
 
 金と銀では、体積が同じなら金の方が重くなります。そうすると、もし銀が混ざっているなら、その分軽くなりますね。具体的には、王冠と同じ体積の純金とくらべて王冠の方が軽くなるはずです。
 
 
 では、王冠の体積はどうすれば計れるか。これは簡単です。水を張った桶に沈めれば、王冠の体積分の水がこぼれますので、それを計ればいいだけです。後はその体積分の純金を用意して天秤で比べるだけです。
 
 と思ったけど、こんなやり方は面倒なので、もっと簡単な方法を考えましょう。体積を計るのは手間がかかって面倒です。体積を同じにして重さを比べる代わりに、重さを同じにして考えましょう。もし、銀が混ざっていれば、同じ重さの純金よりも体積が大きくなるはずです(図8の下にある説明から解りますね)。
 
 それなら、天秤で王冠と純金を釣り合わせ、それを水に沈めれば、体積の大きい分だけ王冠にかかる浮力が大きくなるはずです。
 
 
 さて、大幅に遠回りをしましたが、最初の質問であった、「1トンの鉄と、1トンの木とどっちの方が重いか」に戻りましょう。
 
 教育のたまもので、「同じ」と答える人が大部分と思います。しかし、水中で比べたらどうでしょうか。木は水に浮くので、木の方が軽いですね。しかもこの場合、天秤が全く役に立ちません。更に、アルキメデスの原理は、水だけではなく、液体や気体(特に空気中)でも成り立ちますから、真空中で比較すれば、木の方が重くなります(木の方が鉄より体積が大きいので、空気中では浮力も大きい)。
 
 
 ここに、とんでもない落とし穴がありました。地表付近の大気中という前提を暗黙の了解にしてしまって、全く疑いもせずに思考の幅を狭めていたのです。重いものと、軽いものと、どちらが早く落ちるかを考えるときは、真空中というところへ話しを持って行っているにも関わらずにです。
 
 また、今までの話から解るように、天秤とて万能ではありません。全く役に立たないときもあれば、水、空気、真空というように条件が変わると釣り合いが保障されなくなるという副産物まででてきました(浮力の影響です)。
 
 理科が好きとか嫌いとか、得意とか不得手ではなく、疑う心、へそ曲がりな考え方、もっと広く自分で考えて追求すること。実践で示し、これらを伝える必要があると思いますが、皆様方はどうお考えでしょうか。
 
 今回の話題は、野中直樹氏からいただいたご意見をヒントに構成しました。ありがたく感謝しております。
 
 
平成24年1月15日
著作者 坂田 明治(あきはる)
 

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