第89話
 地球の自転と公転の速さ 〜寝心地の話完結編〜
 

 
「主な対象読者」
あまり年齢に関係なく、日常見られる現象へ興味や好奇心を持つ人たちを対象としました。難しい用語を用いず、簡単な計算と絵を中心としていますので気楽に読めると思います。
 
「本稿の目的」
たとえ単純な運動であっても、それらが合成されると、常識に反しているかのように見える現象に焦点を当てています。通常、このような現象はあまり意識されません。そういう現象を紹介して、意識に上らない、あるいは、見落としの裏で生じている結果を知ることが目的です。将来、想定外などと安易に言い訳することのないように、注意深く考察する訓練と考えてください。
 
本 文 目 次
 4.おわりに
 
著者 坂田 明治
 

 
 
第89話 地球の自転と公転の速さ 〜寝心地の話完結編〜
 
1.寝そべっているだけで勝つには
 なんだか、100メートルを10秒で走るとか、そんな話題があります。100メートルを10秒で走ったときの速さは、秒速10メートル(10m/秒)です。 こういう人たちに勝つにはどうすればよいでしょうか。もちろん、機械を使ってはいけません。大体、なんでもすぐに機械に頼るのはなんだかなぁ。
 
 どうやっても、秒速10メートル以上の速さで移動できそうにありません(著者には絶対無理)。「力で勝てなければ知恵で勝つ」なんてかっこいいことを言ってみたりして。その意味は、体を鍛える根性もないし、訓練や練習なんて面倒なこともしたくないし、寝そべっているだけで高速移動する方法はないかなということです。(なんか、すぐに機械に頼るよりもひどいな)
 
 その昔、不治の病を患った(わずらった)女の子の歌だったと思いますが、歌詞の中に、「ベッドの船は魔法の船」とかいうのがありました。ベッドであっちこっち飛び回っているというような内容だったと思います。これだよ、これ(ベッドを持ってないから、「魔法の布団」だけれども)。
 
 やったね。夜、寝てるだけで、昼間、がんばって訓練して、一生懸命走ってる人よりも高速移動ができてしまう。まさしく、寝心地の話完結編にふさわしい話題でした。
 
 おやすみー。
 
 
 
2.地球の自転と公転
 さて、地球は二つの運動を行っています。自転と太陽の周りを回る公転です。
 
 
 自転は、回転なので、回転軸があります。それが地軸です。公転は太陽を中心(正確には焦点)とする円軌道(正確にはだ円軌道)上を動くことです。また、この円軌道(だ円軌道)を含む平面を公転面と言います。地軸は、この公転面に垂直な方向から約23.4度傾いています。
 
 
 地軸が傾いていると面倒なので(計算が面倒になるということ)、傾きを無視しましょう。そして、真上(北極方向)から眺める(ながめる)と、図2のように見えます。もちろん、縮尺はでたらめです。
 
 この状況をどこかで見た覚えはありませんか。そうです。「第88話 電車の速さと車輪の速さ 〜寝心地の話続編〜」に出てきた「電車実験室」「車輪」によく似た状況です。
 
 あのときと同じように考えてみましょう。
 
 
 まず、地球が公転していることから、瞬間的に地球は公転軌道の接線方向へ移動していると考えられます。次に、地球が自転していることから、深夜0時地球の移動方向昼の正午(12時)地球の移動方向と逆方向へ移動していることが解ります。
 
 どの位の速さか計算してみましょう。最初は自転の速さです。赤道4万キロメートル(40000km)です。1日で1周します。また、1日は24時間で1時間は60分。1分は60秒ですから、
 
  40000km/(24×60×60) 秒
 
を計算して、約秒速0.5キロメートル(0.5km/秒)です。
 
 次に、公転する速さを計算してみましょう。地球と太陽の距離約1億5千万キロメートル(150000000km)です。1年で1周します。1年は365日です。円周率を3.14として、公転する周の長さを1年で割れば求まります。
 
  2×3.14×150000000km/(365×24×60×60) 秒
 
を計算して、約秒速30キロメートル(30km/秒)です。
 
 以上から、深夜0時は約秒速30.5キロメートル(30.5km/秒)で移動し、正午(12時)は約秒速29.5キロメートル(29.5km/秒)で移動しています。深夜0時と正午(12時)の速さの差約秒速1キロメートル(1km/秒)ですね。
 
 秒速10メートル(10m/秒)では2桁足りません。つまり、夜、布団で寝ているだけで、昼間走っている人たちよりも遥かに(はるかに)速く移動できるわけです。寝心地よく寝られそうです。
 
 
 赤道だけではなく、自分の住んでいるところでの速さを知りたい人もいるかも知れません。その場合は、緯度が解れば図4によって計算できます(三角関数が必要となるため、ここでは計算しません)。緯度はネットで調べたり、GPS(全地球測位システム)を使ったりして調べられます。興味のある人はどうぞ。
 
 
3.観測上の問題
 地球が動いているということから、ちょっと困ったことが起こります。「光行差」と呼ばれる現象です。通常、光行差は、「雨が垂直に降ってくる(風が吹いてないということ)ときに、雨の中を走ると、雨が斜めに降ってくるように見える」と説明されています。そもそも、風の吹いてない日なんてあまりありませんし、雨の中を走るのは嫌です。面白くないので、別な説明をしましょう。
 
 
 玉の衝突実験を考えましょう。ビリヤードの台で実験します。テーブルなどで実験するときは、玉が落ちないように、テーブルの縁(へり)に壁を設置しましょう。玉を2個動かすので、友達などに手伝ってもらいましょう。図5にあるように、直角二等辺三角形の頂点から、同じ速さで、辺に沿って赤玉と青玉を発射します。すると直角になってる頂点で衝突します。
 
 図5では、ビリヤードの台の外にいる観測者(静止)が観測しています。この観測者はどこにいても差し支えありません。
 
 
 次に、青玉上に観測者が乗っている場合を考えましょう。この観測者には、図6にあるように、赤玉斜め45度の方向から接近してくるように観測されます。それは、青玉が1動けば、赤玉も1動き(同じ速さだから)、この位置の青玉と赤玉を結んだ直線は、直角二等辺三角形の斜辺と平行だからです。その結果、やっぱり、赤玉は斜め45度の方向に見えます。また、青玉と赤玉の距離は短くなります。
 
 この繰り返しで、青玉の観測者は、常に赤玉が斜め45度の方向に観測され、しかも、距離は段々短くなります。常に同じ方向に見えて、距離が縮むということは、その方向から接近してくることですね。つまり、青玉の観測者には、赤玉が斜め45度の方向から接近して衝突したと観測されるわけです。
 
 実験で確認することもできます。玉の代わりに、プラモデルなどの戦車2台とカメラを用意し、戦車にカメラを搭載します。そして、図7にあるように動かして、相手の戦車の動きをビデオ撮影します。撮影結果を見れば、斜め45度から接近してくることが確認できます。ですが、この実験は金がかかるし、機材を壊す恐れがあるのでお勧めしません。
 
 青玉上の観測者が赤玉を観測した場合、赤玉が接近してくる方向は解りました。では、速さはどうなるのでしょうか。
 
 
 青玉も赤玉も同じ速さで動いていますから、どの地点で観測しても同じ速さとして観測されるはずです。とすれば、最後の衝突するところだけ考えればよいでしょう。図8で、赤玉の運動する方向と速さは下向きの矢印(水色の矢印)で表され、青玉の運動する方向と速さは右向きの矢印(ピンクの矢印)で表しています。
 
 この矢印から、単位時間当たり(1秒と考えても差し支えありません)矢印1個分移動します。最後の衝突を表す矢印に注目しましょう。青玉の観測者から見ると、緑の矢印の始点に赤玉が観測されます。そして衝突しますので、赤玉は緑の矢印の長さ分移動して来たと観測されるはずです。
 
 以上から、青玉の観測者には、常に赤玉が緑の矢印の方向と速さで運動していると観測されます。
 
 最後の矢印が作る三角形を取り出して詳しく考えましょう。
 
 
 緑色の矢印は、水色の矢印とピンクの矢印からどうやって作るのでしょうか。図9をよく見ると、水色の矢印の終点を強引に、ピンクの矢印の始点に引き戻しています。どういうことでしょうか。ピンクの矢印は、青玉が単位時間に移動したことを示しますから、引き戻すということは、青玉自身は元の位置に留まり、その移動分の逆を赤玉に押し付けたと解釈できます。つまり、青玉上の観測者は、自分たちは静止しており、まわり全部が、ピンクの矢印と逆方向に動いていると考えています。全く自分中心な考えです(よくあることですが)。
 
 こう解釈すると、青玉上の観測者が、赤玉を観測する場合に、観測される運動が予測できます。
 
 
 図10は、直角二等辺三角形ではなく、一般的な三角形の辺を玉が移動して衝突する場合です。今までに調べたようにやっても、全く同じになりますが、図9での解釈から、青玉上の観測者には、赤玉を緑の矢印の方向と速さで運動していると観測されます。
 
 
 衝突しないような、一般的な運動でも同じです。今までの考察から、青玉上の観測者には、赤玉を緑の矢印の方向と速さで運動していると観測されます。
 
 今までは、それぞれの玉が、同じ速さで直線上を運動していました。時々刻々と運動が変化する場合(方向が変化する場合や速さが変化する場合)でも同じです。瞬間的に見れば、ある方向にある速さで運動していますので、ここでも青玉の運動分を赤玉から引き戻したように、青玉上の観測者には観測されます。
 
 さて、またビリヤード台に戻って考えましょう。
 
 
 図5と同じ状況を想定して、ビリヤード台の外にいる観測者(静止)と、青玉上の観測者を考えましょう。図12から、ビリヤード台の外にいる観測者(静止)と、青玉上の観測者では、赤玉の出発点が違って見えます。青玉上の観測者の方は、出発点が前方に移っているように見えます。
 
 これは図9のように、青玉の運動(ピンクの矢印)による引き戻しで、赤玉の運動方向は、緑の矢印のように傾くからです。図11でも同じです。青玉上の観測者は、緑の矢印の運動をさかのぼって位置を予測しますので、赤玉の出発点は前方に移って見えます。一方、静止している観測者は、本来の出発点から来ているように見えます。
 
 結果として、青玉上の観測者には、出発点が前方にずれた見かけの位置が観測されます。
 
 今度は、地球の軌道規模で考えてみましょう。
 
 
 星を観測するというのは、星から出たが観測機器の受光部分衝突することです。我々の持っている観測機器としてを考えてみましょう。光が網膜に当たること(衝突)を通してが観測しています。
 
 地球を青玉、その運動を公転軌道、赤玉を星から来た光と考えます。青玉上の観測者は、地球上の観測機器のことですね。そうすると今までの考察から、星(光の出発点)の位置は、地球の進行方向にずれて観測されます。この現象が「光行差」です。しかも、観測できるのは、光が観測機器の受光部分と衝突したときですので、方向しか解りません。方向しか解らないのに、その方向が地球の進行方向にずれているというとんでもない現象ですね。なお、位置の補正はいろいろな観測によってなされます。
 
 ここで、真空中の光の速さ約秒速30万キロメートル(30万km/秒)で、地球の移動する速さは約秒速30キロメートル(30km/秒)です。光の1/10000の速さです。1/10000なんて大したことないように感じるかも知れませんが、天文学的には大きな問題です。
 
 また、光の場合、単純な矢印の足し算(実際は引き算になるけど)では、光の速さが変化してしまいます。これは都合が悪いので、本稿では、「引き戻し」という言葉を使い、矢印の足し算(引き算)という言葉は用いませんでした(もっと高度な合成方法を知りたくなりませんか)。ここから先は自分で勉強しましょう。
 
 
4.おわりに
 太陽系自体もなにがしかの軌道上を動いているだろうし、銀河系自体も動いているはずですね。それらを含めたらどうなるのでしょうか。更に、超銀河は。と段々大きな世界を含めて考えるのも面白そうですね。
 
 「寝心地シリーズ」は今回で完結です。全編を通して「回転」に関わる話が中心でした。回転しながら移動すると、いろいろ面白いことや、直感に合わないことが起こります。他にもいろいろなことがありますので、全体の動き部分の動き組み合わせたときに、どんな動きが起こるかを調べてみると面白いかも知れません。夏休みの自由研究になるかな。
 
 
 
平成25年6月29日
著作者 坂田 明治(あきはる)
 

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