▲▲ ▼▼

55.あなたの足はなぜ臭い.7-15−97.



パートー1.

 自分の体臭、オナラや呼気のニオイなどは、自分のものは普通はあまり嫌なニオイとして感じないことが多いと思います。しかし、自分の足のニオイは、気になる人が意外に多いと聞きます。この足のニオイの原因になる微生物について読者からのリクエストがありましたので、それに応える意味で説明をこころみます。

私は、他人や自分の足のニオイに悩まされた経験が幸いにしてありませので、どの程度のものか、どのような臭気なのかも本当は知りません。微生物学で教える内容の一部を以下にできるだけ易しくお伝えします。

パートー2.

 足がニオウのは、いくつかの原因が考えられると思います。一番激烈な悪臭を放つ場合は、これは希で普通の人には見られませんが、ガス壊疽と呼ばれる細菌性の化膿です。ガス壊疽菌という土壌中に生息する嫌気性の細菌による感染で、この菌を試験管の中で培養しても、また感染した傷口からも、鼻をつまむような強烈な異臭を放ちます。この臭気は、微生物を毎日扱っている者でもたまらない程強烈です。戦場で砲弾などで負傷したとき、土と一緒にガス壊疽菌が足などに入り込み感染を起こします。

 次は、皮膚糸状菌症と専門的には呼ぶ、俗にいう水虫の類で、普通カビと呼ばれる真菌類による皮膚の感染症が考えられます。国により水虫の原因菌は違うと言われていますが、日本国内では、白癬(ハクセン)菌属によることが一番多いようです。皮膚糸状菌症を起こす真菌には、トリコフィトン(白癬菌属)、ミクロスポルムとエピデルモフィトンの3種類を皮膚糸状菌と一括して言います。最も代表的な皮膚糸状菌症の原因菌は、白癬菌属のトリコフィトン・ルブルムという名前のカビです。その他にも何種類か知られていますが、その一部は、土壌中から高頻度に分離されるものもあります。

 その他の菌としては、ブドウ球菌が考えられます。ブドウ球菌には、数種類の性格の少し違うものが存在します。病院での院内感染が問題視されているMRSAは、黄色ブドウ球菌で多くの薬剤に耐性を示す菌株を言います。ブドウ球菌は、表皮の常在細菌の1種類ですが、アトピー性皮膚炎の人には一般に多いと言われています。

 その他の可能性としては、ワキガのように体臭が考えられます。これは、アセやアブラと一緒に皮膚表面から特有の臭気をもつ物質がでて来るのだと思われます。ワキガも場合によっては、かなり強いニオイを放ちます。ワキガの人でも、ワキノの下が乾燥しているあいだは、異臭を出しません。しかし、脇の下がぬれる位にアセをかくと異臭は強くなります。

パートー3.

 足が臭くなるには、ある種の条件がととのう必要があります。素足で下駄を履いていれば、多分足は臭くならないと思われます。逆に合成繊維の靴下をつけて合成皮革の靴を長時間履いていると、足は蒸れて臭くなるでしよう。素足で下駄を履いている場合と天然素材でない靴下と靴を履いている場合とでは、外気との接触がまず違います。水虫などを起こすカビの増殖する条件を簡単に説明します。

 真菌類と呼ばれる俗にいうカビは、自分で栄養の供給が出来ないので従属栄養微生物と専門的には呼ばれる性質の微生物です。従属栄養微生物とは、何がしかの栄養分を自分では作れないので何らかの有機物に寄生・従属する必要があります。さらにカビが増殖するには、絶対的に酸素を必要としますので、カビはジフテリアや結核菌などと同じく好気性菌と呼ばれる部類にはいります。

 また増殖するには、水分が必要で、水分が欠乏すると増殖は停止してしまいます。含湿度8%以上、あるいは空気中の湿度が80%以上であれば、栄養条件がキワメテ乏しい条件下でもカビは発育することが出来ます。たとえば、風呂場のタイル、金属、コンタクトレンズやカメラのレンズ等の表面で殖えることができます。

 一方、カビは熱には弱い方です。湿度のある状態では55度の温度では12時間以内、65−70度では10分程度で死滅します。しかし、乾燥した空気中では70度で20時間も生存するカビもあります。

パートー4.

 足が臭くならないようにするにはどうしたら良いのかを考えてみましよう。臭くなるのは、水虫でない人でも、水虫を起こすカビやオデキを起こすブドウ球菌などの微生物の存在、水分または湿度と栄養分が必要です。

 カビや菌の増殖を防ぐ最良の方法は、足を良く洗ってキレイにし、更に乾燥した状態に保つことです。そのためには、まず指の間までもまず良く洗って清潔にする、その上で出来るだけ通気性の良い靴下と履き物を選ぶことです。素足または裸足でいられなければ、できるだけ風通しの良い天然革の靴と合成繊維よりは天然素材である木綿の靴下をつかいましよう。

 私個人は使用した経験はないのですが、茶染めの木綿製靴下は足の臭気を防ぐ効果が強いと聞きました。その理由として、お茶の渋味であるカテキンなどの強い殺菌作用と消臭作用と木綿の吸湿作用などが考えられます。

 更に、酸化され易い物質、例えば、カテキン、ビタミンCやオリーブ油などは、菌の増殖を押さえると同時にニオイを消すことができるようです。お茶の葉を熱湯で良く煎じて渋味のお茶を用意し、それに適当な大きさにした脱脂ガーゼを浸して、茶の成分を良くシミ込ませる。完全に乾燥させたガーゼを靴の指先に入れるか、またはこれで指先を軽くまくと、除湿、消臭と抗菌等の効果が人によっては期待できると思います。

パートー5.

 最後に一言。茶染めの木綿製靴下を使うことも結構ですが、それよりもまして大切なことは、まず足の指、指の付け根やツメ等をとにかく清潔にして菌に栄養分を与えないこと、つぎに乾燥させて菌に水分を与えないことだと思います。

 病気にならないために、手を良く洗うことの大切さを世界で初めて言い出したのは、いまから100年以上前で、フランスのパストゥールであります。このパストゥールがいかに人々の幸せを願っていたのかは、志賀潔先生の「細菌学を創ったひとびと」に詳しく記載されています。興味ある方は一度読んで下さい。

 今回は、読者からの「足のニオイの微生物」についてのリクエストを取り上げました。その他微生物に関するリクエストがありましたら、気軽にメールを下さい。出来得る限り希望に添えるよう努力する積もりでいます。

▲▲ ▼▼


Copyright (C) 2011-2024 by Rikazukikodomonohiroba All Rights Reserved.