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62.コレラ患者が増えている。 9-11-97.

その1.コレラ菌の常在化

 つい最近の新聞に「コレラ防疫で厚生省通達」という見出しの記事か掲載されていいました。その内容は、おおよそ次のようでした。 この夏、日本国内で感染したとみられるコレラ患者が増えていることが分かり、厚生省は各都道府県に通達を出した。今年1月から9月1日までの国内のコレラ患者は81人(昨年は62人)。 このうち本人や家族に海外への渡航歴がない人が、全体の40パーセント強の33人(昨年は13人)にあがっているのが今年の特徴になっている。国内感染とみられる例が夏に入って急増。輸入食品など感染原因となった食材はみつかっておらず、厚生省はコレラ菌が国内に常在菌化した可能性も捨てきらないと判断。

その2大腸菌O−157は赤痢菌?

 昨年来にわかに有名になった出血性大腸菌O−157は、大腸菌の顔をしていながら、身体は赤痢菌と見まちがうほどよく似ているのです。顔としての生物学的性状は、どう調べても大腸菌なのですが、志賀潔博士の発見した志賀赤痢菌と同じようなベロー毒素を作る遺伝子を持っています。この毒素遺伝子は、細菌から細菌に移り歩くことができます。この伝達性の遺伝子は、プラスミドやファージと呼ばれます(58.微生物にはどんな種類がありますか. 8-19-97. も参考にして下さい)。 本来赤痢菌が持っている血便をおこす毒素の遺伝子が、大腸菌に入り込み、大腸菌が赤痢菌化したとかんがえられます。O−157感染者の症状の一つは、赤痢(赤い下利便の意味)と同じく血液の混じった赤い下痢便を出すことです。しかし、赤痢は赤痢菌によって起こされる病気ですから、赤痢菌にイクラ似ていても大腸菌による赤痢という病気はないのです。

その3.大腸菌もコレラの原因?

 コレラ菌は、激しい下痢を起こすコレラという病気の原因となりますが、この下痢の原因はコレラ毒素によります。このコレラ毒素の産生をコントロールしているのは、プラスミドと呼ばれるコレラ菌とは別な遺伝子なのです。このコレラ毒素のプラスミドは、本来コレラ菌にのみ存在したのですが、近ごろはコレラ菌以外の細菌にもどんどん入り込んでいます。 河川水を調べると、コレラ毒素のブラスミドを持ったコレラ菌に似ている細菌がたくさん見つかります。この菌を大量に飲み込めば、多分コレラのように白い水様性の下痢便をだす病気になるでしよう。しかし、病気はコレラとウリフタツであっても、コレラ菌が見つからないとコレラとは言わないのです。

その4.コレラ菌の国内での定着(常在菌)化の意味すること

 日本国内にコレラ菌が定着してしまうと、河川や湖沼等のヘドロにコレラ菌が常に存在するようになる可能性が予測されます。そのような事態が本当に起こると、自然界に生息している大腸菌を含む色々な細菌に、コレラ菌の毒素遺伝子のプラスミドやファージ等が入り込む事が考えられます。一旦そのようなキタナイ環境に自然界がなってしまうと、自然の生態系は簡単には変えることは難しくなります。 大腸菌はまだ微生物学的には扱い易いのですが、緑膿菌にコレラ菌や赤痢菌の毒素遺伝子が入り込むような事態が起こると、緑膿菌は薬剤に大変に強い抵抗性を示す菌ですから、それこそ大変なことが起こる事を考えておく必要があります。 治療より予防の方がたいせつですから、コレラや赤痢に類似する患者が大量に発生するまえに、国としては予防策を確立しておいて貰いたいものです。

◆10-3-97◆ 追記  追記:平成9年10月2日に放映されたNHKの「クローズアップ現代」で、渡航歴のないコレラ患者が増えている謎について、取り上げていました。100年以上まえに発見されたコレラ菌による病気が、今になっても解決されてない状況がこの番組をご覧になって判ったことと思います。私の取り上げた「コレラ患者が殖えている.9-11-97.」というテーマが丁度NHKで取り上げられ、時期にかなった話題提供になっている事を実感しました。この番組をご覧になった方々はどのような感想をお持ちになりましたのでしょう。色々ご意見を伺いたいところです。

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