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71.臓器移植で白血病に感染. 12-17-97.

PART-1. 腎移植でウイルス感染

 近畿地方で腎臓の移植を受けた患者さんがヒトT細胞白血病ウイルス に感染していることが判明しました。新聞報道によると、近畿地方の二カ所の病院で二人の男性の患者さんが、一人の腎臓提供者からの腎臓を1個ずつ移植して貰った。その後、その一人がヒトの間で伝染する白血病の1種類でヒトT細胞白血病と呼ばれる病気を起すウイルス(HTLV−1)の感染を受けていることが確認された。他の一人は、臓器移植前からHTLV−1が陽性であったらしい。健康な人から提供された腎臓が原因でどうして白血病に罹るのか、普通一般の人は不思議に感ずると思うので、臓器移植とウイルス感染の関係について話題を提供します。

PART-2. 臓器移植ではウイルスの検査をして無いのか

 交通事故などによる緊急な手術以外は、臓器の移植に限らず一般の手術が行われる場合でも、手術が行われる前に患者さんの状態を把握するために、エイズの原因ウイルスであるHIVなどをふくむウイルスや薬剤体制黄色ブドウ球菌などをふくむ細菌の感染の有無を含めて念入りな検査が実施されます。

 臨床検査と呼ばれる病院で行う検査の技術は、大変に近代化されています。コンピューター付きの大型機器を用いて行う検査もありますし、手動式で行う検査であっても、その検出感度、正確性、再現性、迅速性や微量化は数年前とは比較にならないほど進歩しています。

 オシッコが出ないので腎臓を移植して貰ったら、どうして白血病のウイルスの感染を受けてしまうのでしょう。臓器移植の場合、臓器を提供する人は、手術を受ける患者さんと同様に、諸々の検査を受けています。ウツる病気がある人からは、臓器提供の意志が明確にされていたとしても、腎臓などの臓器を移植するはずがありません。

 普通我々が周りの人からウツる場合を外因性の感染と呼ぶのに対して、移植された臓器などから感染することを内因性の感染と呼びます。 手術や臓器移植を担当する医師をふくむ医療人は、常に患者や臓器からの感染の問題と直面しながら働いていいます。

 臓器の移植に限らず手術を行うときは、患者さんのためのみならず医療従事者の安全のためにも、入念に抜かりなく必要な検査は実施されています。

PART-3. 臓器移植でなぜウイルスの感染を受けるか

 必要な検査を実施していながら、どうして事故が起こるのでしょう。検査を担当した技師個人に何か問題があるとした場合は例外で、このようなことを除くと、その原因は、微生物による感染の成立そのものに関係する問題です。ウイルスや細菌の検査のことについては、別な項目で説明する予定にしていますが、簡単な例をあげて、概略を説明する必要があります。

 例えば、エイズに感染したかも知れないとの恐怖心から、保健所に駆け込んでエイズの検査を受けたとします。検査結果が“陰性”であった場合の意味は、感染を証明することは出来なかったという事で、感染してないことを証明または保証することではありません。世界最高水準の技術をもちいても、検出できる物質の量にはおのずと限界があります。技術の程度の問題ではなく、証明しようとする物質の量の問題であります。

 エイズを起すウイルスが体内に侵入すると、リンパ細胞に取り付き殖えだします。異物であるウイルスがごくワズカでも体内にあることが察知されると、生体はそのウイルスを排除しようとして免疫抗体を作り出します。体内のウイルスが生体を刺激して免疫抗体を作るまでには、少なくても1週間は必要です。例えどのような有名で立派な施設で世界最高の検査機器と優秀な医療人が検査を担当したとしても、感染後少なくとも10日以内では、感染した確証を入手することは不可能であります。

 上に述べた腎臓を提供した人は、ヒトT細胞白血病ウイスルの感染を実際受けていたのですが、最初に検査を実施した時点では、ウイルスの反応は非常に弱かったが、二度目に検査をしたら陽性の結果が得られた。あってはならない事ですが、このようなことが実際に起こってしまったようです。

PART-4. 臓器移植で感染するウイルス病

 臓器を移植して感染を受ける可能性があるウイルスの種類は、エイスのHIV、ヒトT細胞白血病のHLTV、 B型やC型の肝炎ウイルス、EBウイルスやサイトメガロウイルスを初めとするヘルペスウイルスなと沢山あります。感染の後ウイルスが血液中に入って血流にのって全身を駆け回る性質のウイルスは、原則として全て臓器移植で感染を起します。

 血液が持ち運ぶウイルスは、血液を介しても感染がおこります。エイズが良い例でしょう。血液を直接体内に入れる輸血や血液の成分の一部を治療に使う血液製剤の輸液などで、エイズが広がっています。

 血液とは無関係のようですが、頭蓋骨を開けて脳の手術を受けたあと、硬膜という脳を覆っている膜を脳の傷口につかうことがあります。この硬膜で、クロイツフェルト・ヤコブ病がウツルことがあります。また、脳より抽出した成長ホルモンを注射された発育の悪い体の小さな子供が、同じくクロイツフェルト・ヤコブ病になった症例が報告されています。

 珍しい希な例をあげましょう。10数年まえの出来事ですが、フランスで実際にあった話しです。20数歳の男性が交通事故で亡くなりました。即死であったようで、死後すぐに目の角膜が取り出されて、失明していた人に移植されました。

 数年が経過して、角膜を移植して貰った人の体調が尋常でないので、角膜移植を実施した病院に入院して検査をうけました。色々な検査のあとようやく判った結果は、交通事故で亡くなった男性は“狂犬病”に罹っていたのでした。狂犬病は普通動物から動物、または動物から人に感染がおこる病気です。ヒトからヒトに狂犬病がうつった最初の症例が、角膜移植によって報告されたことがありました。

 角膜や硬膜を含めた臓器の移植、血液やその成分の注射などは、ある意味で現代科学が生んだ、新しい治療法であります。病気を治すための最新の医療技術が、思わぬ感染を引き起こす原因とは、なんとも皮肉なことであります。

 転ばぬ先の杖、健康が一番です。皆さんこの冬も健康には充分に注意しましょう。

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