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167.インフルエンザの経済的被害.11-13-99.
  1. インフルエンザの大流行.

 20世紀中にインフルエンザは、1918年、1957年と1968年の3回も世界的な大流行があったと記録されています。1918年の大流行は、スペインカゼと呼ばれ、ブタ型のウイルスによる感染で、世界各国で二千万人以上の死亡者がでたと推測されています。スペインカゼの流行後、ブタにも奇病かはやり、そのことが契機となってインフルエンザウイルスの発見へと繋がっていきます。インフルエンザウイルスの発見史については、「曖昧模糊」の「128.インフルエンザの病原体」を参考にしてください。

 今年以降における次のインフルエンザの大流行による生命の損失や経済的な被害を最小限度に押さえるための方策が真剣に考えられているようです。米国では、全国民にワクチンを接種した方が良いとの意見もあるようです。そこで、米国の政策決定者は、全国民にワクチン接種を実施した場合の意味に強い関心をよせているようです。仮に国民の15%がインフルエンザウイルスの感染を受けたと推測した場合、ワクチン接種の経済的な意義は見出せるのだろうか? また25%が感染した場合はどうなるのであろうか? このような疑問に応えるために、これまでのデータに基づいてワクチン接種の経済的なシュミレーションをおこなった報告が米国の公的研究機関から出されています。

     

  1. インフルエンザの経済的なインパクト.

 シュミレーションを正確に実施するために、過去のいろいろな成績を使い、またいろいろな条件設定を行っています。詳しい条件などについては、ここでは触れられませんので、興味のある方は最後に報告書の出典を記載しますので、各自で調べてください。

 次ぎに起こるインフルエンザの大流行(例えば、昨年の日本国内での流行の10倍程度の規模)の米国での経済的な被害の予測値は、死亡者数は8万9千人から20万7千人、入院患者総数は31万4千人から73万千4人、病院の外来を訪問する者の総数は1千8百万人から4千2百万人、その他の疾患患者総数が2千万人から4千7百万人になり、国民の15%に相当する易感染者のインフルエンザ感染死亡者数は全死亡者の84%に及ぶと予測されたようです。これらの数値の経済におよぼす被害額は、713億ドルから1兆4、665億ドルに相当しそうであと記載されています。

 

 米国ではインフルエンザワクチンの接種にかかる費用は、最低21ドルから最高62ドルと、地域、職業や収入などの要因により異なるのだそうです。そこで、1回のワクチンの費用が21ドルとして、全年齢階層の全てにワクチンを接種したと仮定すると、上に記した経済的な被害予測総額を完全にセイブできます。しかし、ワクチンの費用を62ドルで感染率を25%と設定し、ハイリスクの易感染性者以外の人達のみがワクチンを接種した場合は、上に記した経済的な被害予測総額は、そのまま支出必要額となると予測されます。全国民の60%がワクチンの接種を受けた場合が、経済効率は一番高いと考えられます。

B.日本の場合はどうなるか.

 上に紹介した米国のシュミレーションには、非常に細かな数値が基礎データとして使われています。日本と米国とでは、国土の面積や多様性、人種、国民の健康度、経済的な収入や最低賃金、インフルエンザによる欠席(勤)日数、入院や投薬に要する医療費、医療施設に行くまでの交通手段と費用、その他おおくの要因がどの程度違うのか似ているのかが良く分かりません。米国の数値には、副作用が認められる人数も予測され、さらにその保障に要する費用も計算にいれてあります。日本国内では、このような報告または数値は厚生省も持っていないと思われます。そのため直接的に米国と比較することはできません。

 そこで、米国の数値をそのまま利用して、日本でインフルエンザの大流行が起こった場合を予測してみたいと思います。上に記したのような現状で、簡単に比較することはほんらい出来ない相談ですが、単純計算をしてみます。

 日本でワクチンを任意で接種してもらうには、保健所に行くのが一番手っ取り早いと思います。保健所に行くのに要する費用(全国の平均値として)がどの程度になるのか判りませんが、ワクチンを1回受けるのに要する費用は、米国の最高額(62ドル)の6000円程度と仮定します。人口が米国の半分とし、その他は全て同じ条件と乱暴ですが仮定します。

 過去2年の流行期にインフルエンザに罹った人は、150万人(約1.5%)程度であったようですから、次に起こる大流行とはその10倍の規模と考えて下さい。次の大流行では、インフルエンザによる死亡者数は5万人から10万人、入院患者総数は16万人から36万人(日本国内全体の病床数は百万ベット程度)、外来訪問者総数は9百万人から2千万人となりそうです。更に、表2に記載した数値を使うと、15%の感染率の場合の経済的な被害総額は、米国では713億ドル=7兆1300億円(計算を簡単にするため1米ドルを100円とします)と予測しています。日本の場合は、人口数からこの数値の半分の3兆6500億円程度と計算値はなります。人口の60%(6000万人)に一人当たり6000円のワクチンを接種しようとすると、総額で3600億円の費用が必要となります。

 国が3600億円の費用(副作用のため障害を受ける人の補償額も含む)を負担すれば、その10倍額に相当する経済的な被害3兆6500億円程度を未然に防げることになります。個人が被る痛みを除外しても、病気は治すよりは未然に防ぐ法がよほと有効であることが、理解できると思います。

表1.経平均入院費済的なインパクトを
算出するために用いた数値の一例
年齢階層
19
2064
65
備考
死 亡 例
 
 
 
 
平均年齢(才)
35
74
 平均入院費
3,435
7,605
8,309
米ドル/人
支払額
1,019,536
1,045,278
74,146
米ドル/人
 入院患者例
支払額
3,366
6,842
7,653
米ドル/人
 外来訪問者例
支払額
300
330
458
米ドル/人
 自宅療養者例
支払額
197
202
327
米ドル/人


表2.国家の経済支出予測額

感染率による支出額(単位は百万米ドル)
15%
25%
35%
死 亡 例
59,288
98,814
138,340
入院患者
1,928
3,214
4,499
外来訪問者
5,708
9,513
13,318
自宅療養者
4,422
7,370
10,317
総 額
71,346
118,910
166,474

出典

 論文名:The Economic Impact of Pandemic Influenza in        the United States Priorities for Intervention.

 著者名:Marth I. Meltzer, Nancy J. Cox and Keiji            Fukuda.

 所属機関:Center for Diseaase Control and Prevention,
  
     Atlanta, Georgia, USA.

 雑誌名:Emerging Infectious Diseases
    
   Vol. 5, No. 5, 659-671, 1999.

 「攻撃は最大の防御なり」というコトワザもありますように、治療よりはワクチンによる予防がより大切で経済的であります。大流行を起こさないためには、国民の60%が免疫になっていることが前提条件となります。

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