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180.環境科学とISO基準.1-28-2000.

  1. 環境科学と環境管理
  2. 今後いっそう重要となる学問の一分野として環境科学をあげる人が多くいます。元旦の新聞にも「環境対策と燃料電池」をキーワードとする解説記事が多く掲載されていました。ガソリンに代わって水素を燃料として走る自動車の開発が環境科学の牽引車として大きな引き金になるような気がします。まさに二千年は環境科学の時代の本格的な幕開けになるのかもしれません。

    私達の研究室では、生ゴミの類を細菌で水素に変換する「エネルギー回収型廃棄物処理システム」の確立を目指した研究を細々と続けてきました。21世紀には環境微生物学に関する飛躍的な技術革新が勃興することが世界的に期待されていると信じています。そこで、微生物学研究室としてこれまでに培ってきた環境微生物についての知識と技術を社会に還元することを目的に、環境微生物学を学びたいベンチャー起業家を志す個人に基礎訓練の機会を提供する「実践基礎講座」の開講を検討しています。この講座は、微生物を用いた環境の浄化または保全にかかわる事業を起こしたい個人に実践微生物学の基礎を無料で伝授する公開講座的な試みであります。

      さて、環境に対して何か対策を講じていますかとのアンケート調査を実施した結果が公表されるのをみると、担当部署を設けて率先して実施していますと回答する企業が多いことに気が付きます。バブル全盛期には積極的に環境対策を検討し実施していた企業も、景気が悪いほうこうにむきだすと、一斉に環境にかんする部門を縮小または廃止し、積極性は吹き飛んでしまったところも多いように感じています。

      私達は、上にも書きましたが廃棄物を細菌で水素に変換する「エネルギー回収型廃棄物処理システム」にかんする研究を進めています。ビジネスに直結しそうもないこの種の研究に対しても、企業や団体から研究助成金または研究奨励金を頂けました。しかし昨今は、縮小または廃止する最初のターゲットが環境関係部署である印象を受けています。「環境に金をかけても売上や利益につながらない」との認識が企業の上層部の根底にあり、生き残り戦略の枠から最初に外されたのかと私個人は思っています。

      ご存知とは思いますが、企業の環境管理に対する実施水準を国際的なレベルで表示するISO14001という認証システムがあります。この認証を取得するには、企業は専門担当部署をもうけ、排出する不要物の扱いを全て明らかにし、その努力を継続させる必要があります。また請求があれは、その成果なども公表する義務があるようです。

    日本の企業全体が「環境に金をかけても儲からない」と一般に考えられているのかと僭越ですが私は思っていましたが、表現は悪いのですが環境管理に金をかけると結果的には儲かることが「環境会計」というかたちで大手企業から発表される時代になりました。

      そこで、日本で最初に『ISO14001認証取得企業』となったある大手製造業の企業にISO1400を取得した目的取得後になにが変わったのかなどについて教えてくれるようにとの文書を送りました。少し時間がかかりましたが、回答を貰えましたので、その概要を紹介したいと思います。

    企業名を明らかにした上で回答文を掲載することを私は考えていましたが、ここでは一部上場の製造業A社とさせてもらいます。その理由は、A社は国内に関連会社をふくめて数拾の拠点があり、一部の拠点ではまだISO14001の認証を取得していない。そのため、「A社=ISO14001認証取得企業」と表現するのは事実と異なるので、一部上場企業(製造業)という表現でとの希望がA社からよせられたからです。机上の作文では無いのですし、また内容は秘密にすることではありませんが、ここではA社と伏せた表現にさせてもらいます。以下はA社から私に寄せられた回答です。ほとんど原文のままです。

  3. 企業のISOへの取り組の例. 
  4. 田口:どのような目的または期待からISO14001の認証取得を企画するようになったのですか。

    A社:当社は1990年代に入り経営戦略として「EQCD思想」を経営トップが掲げました。E=Environment(環境保証)作る資格、Q=Quality(品質)売る資格、C=Cost(コスト)競争する資格とD=Delivery(納期)競  争する資格の頭文字で、それより以前のQCDの考え方に「E」を追加し、それを最優先させようとした考え方です。当時の考え方として、環境に対する積極的取り組みは後の企業経営に有利な事柄となるという考えをとりました。この考え方に基づき活動をしている中で、第三者による審査を受け、定められた基準を満たしているということを表明できれば、経営に対し、より有利なものとすることができる、というのが根幹です。

    田口:ISO14001の認証取得の提案はどの部署から出されたのですか。

    A社:当社は1995年に環境課題に対して選任で対応する組織として、「環境技術センター」を設置しました。認証取得の提案はその前身である組織から提起され、最終的に最高経営層の指示という形で進められています。

    田口:申請書の作成にどの程度の大変さがありましたか。

    A社:申請書そのものについては事務的作業ですので困難はありませんでした。当社のある事業所は、最初にBS7750の認証取得活動を行ないました。当時はまだISO14001が規格化されていませんでしたが、ISO14001はBS7750をベースとして作成されるという情報があったためこのようなステップを踏みました。BS7750において、認証取得にあたり行なうことが望ましい活動として環境予備調査(Preparatory Environmental Review)があげられています。この調査は、事業所創設時までさかのぼって調査をしたため、多くの時間を費やしました。

    環境管理システムを構築し、運用していくにあたり一番大事なことは何を改善するかということです。予備調査において改善のテーマを見いだし、それを基に方針、目的、目標を作成し、改善計画、改善の実施となるため、テーマ選定のための調査は最も重要なステップです。そのために環境予備調査には多くの時間が必要となりました。

    また、ISO14001でも同様ですが、規格は具体的な方法などについては規定していません。どのようにやるかは組織が最も効率的かつ実施可能な方法を取ることができるようになっているため、それを文書にすることも試行錯誤がありました。

    田口:ISO14001の認証取得後に、どのようなことが社内で起きましたか。

    A社:取得後4年半が経過しましたが、2年目くらいから効果が出てきたと考えています。具体的には、

    ・記録を残さなければならないことから、活動が目に見えるようになった.

    ・Plan - Do - Check - Action のサイクルを回さないと効果が出ないため、 各ステップでやるべきことが明確になった.

    ・廃棄物削減についてはコスト削減にもつながった.などです。

    対外的なこととして、ISO14001が世の中に広く知れ渡ってから、顧客への入札条件としてISO14001認証取得事業所で生産されている製品であること、という事例が発生してきています。このような入札条件を提示する顧客には海外の官公庁が含まれているため、認証取得は大きなメリットとなっています。

    最近は認証機関より、環境に負の影響を与えていること(例えば、化学物質の使用による大気汚染)だけでなく、正の影響を与えていること(例えば、不良率低減による廃棄物削減)についても評価し、活動を活発化することが望ましいとのアドバイスを受けています。

    田口:ISO14001の認定効果を継続させるには、継続的改善はどのように行なうのですか。

    A社:効果を継続させること=継続的改善ととらえて回答させていただきます。継続的改善を行なうために、定期的に事業所内すべての組織において組織における環境上の問題点を文書化しています。これを基に改善計画を作成し、改善の実施、効果の確認を行なっています。組織が計画作成から効果の確認までのサイクルを回しているかどうかは、ISO14001で実施が要求されている「内部監査」においてチェックを行なっています。また、環境管理システムについては認証機関が年に2回、維持審査を行ない適切性を確認されます。

    現時点においては、環境改善活動がコストダウン活動にもつながるという実績が出てきているため、コストダウンという観点から環境に対しての影響も考慮しています。

    また、重要なことは、全員参加型の活動にしないと目標達成が難しいということです。従業員数の多い組織ではかなりの負荷となります。

  5. ISO14001の認定を個人で受られないか

    上に紹介した文面は、日本を代表する大手企業のA社のケースです。国内の景気がいかに悪くなっても、まだ余力がある大手企業だから環境管理に人手も経費もかけられる、という声が聞こえてきそうな感じもします。微生物とあまり関わりのないISO14001に関する情報を掲載したのは、「環境管理を徹底すると経費削減になり結果として製品のコストダウンになる」、経済的に余力があるかないかの問題ではないことをお知らせしたかったのが本文掲載の目的の一つです。

    大気汚染の元凶は、車の排気カズであると良く聞きます。車の登録台数の一部は、私的目的に使う自家用車と考えられます。企業だけが「環境管理」に取り組むだけでなく、個人も参画して全体の底上げができないのでしょうか。このA会社に「個人で認証取得は出来ないのでしょうか」とも聞きましたが、回答は得られませんでした。

    ISO14001の認定を受けるには、数百万円の受験料みたいなお金が必要と聞きました。このような大金は個人で負担する事は難しいと思いますが、上に紹介したA社からの文面の最後に「重要なことは、全員参加型の活動にしないと目標達成が難しい」とありますように、企業や団体だけでなく個人の家庭も参画できるシステムの構築が是非とも必要と私は思っています。

 

「廃棄物を不法に輸出する社会」を「地球環境の浄化と保全に個人も積極的に参加する社会」に変革するよい方策はないのでしょうか。皆様のお智恵とご意見を拝聴したいと願っています。

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