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208.コンタクトレンズの洗浄保存液の細菌学. 8-26-2000.
 
1.洗浄保存液の細菌汚染.
 視力を矯正している者でコンタクトレンズの使用率は、だんだんと高くなっているように感じられます。学生にコンタクトレンズの種類、使用期間や洗浄の仕方などについて質問してみると実にさまざまなことを言います。そこで、コンタクトレンズを使用している学生のなかから50人に協力してもらって、コンタクトレンズを洗浄する洗浄保存液の細菌学的な清浄度について調査してみました。
コンタクトレンズに付着している細菌を調べたいと最初は考えましたが、レンズが意外にデリケートにできていることが解りましたので、レンズについては情報だけを貰い、レンズを洗浄した液の細菌を調べ、コンタクトレンズの汚染度を推測することにしました。
 コンタクトレンズの種類、使用期間、洗浄の仕方などについての情報と同時に、コンタクトレンズの洗浄保存液を持ってきてもらいました。具体的には、寝る前にコンタクトレンズを目からはずし、普段使用している各自の洗浄保存液に指定の通り漬けて貰い、翌朝普段通りにレンズを液から取り出し、使用したその洗浄保存液を容器ごと大学に持ってきて貰いました。
 コンタクトレンズには、ソフトタイプとハードタイプの2種類があり、ソフトタイプには使い捨てのものも使用されていました。レンズの洗浄液は、レンズのタイプによっても異なりますが、煮沸するタイプの製品、二つの液を組み合わせて洗浄と保存するタイプの製品、タンパク除去剤の添加してある製品および一液だけでただひたすたけのタイプの製品など実にいろいろな種類がありました。
 
結果−1.レンズの使用期間.
 50人が装着しているコンタクトレンズの試用期間は、表−1に示したように、一年以上二年以内が一番多く、長く使用しているものには5年間というのもありました。使い捨てのレンズは、二週間以上は使用しないように説明されているようですが、実際はかなり長期間使用しているようです。
 
表−1.コンタクトレンズの使用期間
使用期間 検体数 割合(%) 無菌の検体数
1ヶ月以内
6ヶ月間以内
1年間以内
2年間以上
2年間以上
11


19
11
22
10

38
22




*最長使用期間は5年間
 
結果−2.洗浄保存液.
 効能書によると洗浄保存液の性能にはいろいろあるようです。持ってきてもらった洗浄保存液は、拾数社にもおよぶ名前の違うものでした。加熱してレンズを洗浄する洗浄液も10検体ありましたが、内容には無関係に洗浄保存液からどのていど細菌が検出されるかを調べました。細菌の分離率は、表−1に示したように、加熱型の洗浄保存液もいれて細菌が全く検出されなかった検体数は、わずか10検体でありました。加熱してもしなくても、90%の洗浄液からは数種類の細菌が見つかりました。
 
表−2.コンタクトレンズ洗浄保存液の細菌汚染状況
細菌の種類 検体数 割合(%)
ゼロ
1種類
2種類
3種類
4種類
5種類
8種類
10

18



20
16
36
12


総 計 50 100
*1ミリリットル中に検出された細菌の種類数.
加熱型が10検体あった.
 
結果−3.検出された細菌数.
 洗浄保存液に含まれている細菌数を調べました。この実験に使用した細菌を分離するための培地は、栄養分の少ない寒天培地を選択し、また洗浄液に含まれるかもしれない殺菌力をとめる中和剤は使いませんでしたので、全ての細菌が分離される条件ではありません。それでも、検出された細菌数は、全く検出されないのが10検体(加熱型とは限りません)、500個未満の細菌が検出されたのが一番多く21検体、5000個(1ミリリットル中)以上で計測できないのが11検体もありました。
 分離された細菌は、グラム染色をすると陰性と陽性の球菌や桿菌が観察され、そのなかには日和見感染の原因菌であるセラチア菌、緑膿菌、大腸菌、バチルス菌、黄色ブドウ球菌などが含まれていました。しかし、レンズの種類や使用期間の長短と分離される細菌の種類や菌数とは無関係でありました。
 これらの結果は、目に一日装着していたレンズを洗浄力がある液に一晩漬けておくと、その液には実験開始時に思ったよりも多くの種類と数の細菌が検出されること、および大切な目に装着するレンズの試用期間は予想よりもかなり長いことを示しています。
 
表−3.コンタクトレンズ洗浄保存液から検出された総菌数
検出された総菌数 検体数 割合(%)
ゼロ
1〜500
501〜2500
2501〜5000
>5001
10
21


11
20
42
12

22
*1ミリリットル中に検出された総菌数(CFU/ml)
 
2.コンタクトレンズの洗浄保存液の殺菌力.
 洗浄液から分離された細菌は、洗浄液で増殖したのか、または単にレンズに付着していただけなのかは、レンズを直接調べてないので判りませんでした。そこで、学生が申告した商品名をたよりに、店頭から洗浄保存液を購入して、開封直後の細菌の抑制力を調べました。目的は、市販されている洗浄保存液は、洗浄液から分離された細菌の増殖を抑制する力がどのていどあるのかを知るためでした。
 学生が持参した洗浄液は、拾数社の商品にもなりましたが、一名のみが使用している洗浄液は、実験の対象にいれず、少なくとも二名以上が使用している商品を選びました。その数は、表−4に示すように、5社の商品の5種類でした。
 
結果−4.商品別に見た細菌数
 試験の対象とした5種類の商品を使用していた学生の数は、33人でした。その33人が使用し洗浄液を検出された細菌数別に分けると、表−4のようになりました。多くの学生が使っているA社とB社の洗浄液は、5千個またはそれ以上の細菌が検出される分離率は他の3社の商品よりは少ない傾向を示しました。しかし、C社の洗浄液の4分の3からは5千個以上の細菌が検出されました。
 
表−4.洗浄保存液と細菌数
製品
    
検体
 
検出された菌数と洗浄保存液の数
<100 <5000 >5001(割合)
A社液
B社液
C社液
D社液
E社液
13
10














2 (15%)
2 (20%)
3 (75%)
1 (33%)
1 (50%)
 
 
結果−5.細菌の発育に対する抑制力
 学生から分離した黄色ブドウ球菌とセラチア菌の各5株を無作為的に選び、最初にその各5株の細菌に対する抑制効果に差が見られるか、別な表現をすると用いる細菌の株による差があるのかないのかを調べました。その結果、黄色ブドウ球菌では、株による差は全く認められませんでした。しかし、セラチア菌では、多少の差が株間にあることが判りましたので、代表的な2株を使用しました。
 試験の方法は、一定量の細菌を各洗浄保存液に10分の1量加えて、4時間室温に放置し、生残菌数を調べ、洗浄液に曝さなかった対照と比較しました。代表的な結果を表−5にまとめました。黄色ブドウ球菌に対して、強い抑制効果を発揮したのはA社とD社の洗浄液で、C社の液はあまり抑制効果が認められなかった。一方、セラチア菌に対しては、A社の洗浄液が効果的であった。B社の洗浄液は、セラチア菌の増殖を抑制することは全くなく、逆に菌数を殖やす作用を示した。
 黄色ブドウ球菌とセラチア菌の両方の細菌に対して、A社とE社の洗浄液は抑制力を示し、C社商品の細菌の増殖抑制力は弱く、D者の洗浄液は黄色ブドウ球菌には抑制的であるがセラチア菌には弱く、B者の商品セラチア菌の増殖を促進させた。結論として、市販されている洗浄保存液は、細菌に対する作用に大きな違いがあることが明らかになりました。
 
 
表−5.洗浄保存液に混合して4時間後の殺菌力(%)
            
使用菌の種類
洗浄保存液(原液)の殺菌力
A社液 B社液 C社液 D社液 E社液
黄色ブドウ球菌
セラチア菌
99.9
99.9
67.6
<0.0
30.5
36.4
99.9
44.0
77.3
62.6
 
3.コンタクトレンズの洗浄保存液の評価.
 この簡単な実験から次のようなことが判りました。コンタクトレンズは、物が見えにくくなるまで長期間、例えば5年間にわたって使う人もいるようです。レンズのタンパク質の吸着度や洗浄保存液の洗浄力の違いについては、調べてないので詳細は不明ですが、黄色ブドウ球菌とセラチア菌に対する洗浄保存液の殺菌力は、製造会社により大きな違いのあることが判りました。顕著な殺菌力のある洗浄保存液、加熱型の商品およびタンパク除去剤を含む洗浄保存液からも多数の細菌が検出されました。
 この結果は、殺菌力の強いA社の商品および水とほとんど変わらないC社の製品からも相当数の細菌が検出されることは、レンズのタンパクや細菌を吸着させる違い、レンズの洗浄の仕方の違い、レンズと洗浄保存液の使い方の違いなどの要因、言いかえると使う人に大きな意味があることを示しているようです。
 
 涙には強力な殺菌作用を示すリゾチームという酵素が含まれるので、目には雑菌はそれほど多くないのが常識です。その目に装着したコンタクトレンズを一晩漬けておくだけで、物凄い数の細菌が検出されるようになり、その細菌だらけの液から取り出したレンズを無造作に大切な目に装着している様子が手に取るように判りました。各商品の殺菌力は、かならずしも明確に記載はされていませんが、ナミだやミズよりも殺菌力が強くない商品も現実に市販されているようです。輝くひとみを持ちつづけるためには、コンタクトレンズや洗浄保存液にもう少し注意を払うべきでないでしょうか。


*2006年8月2日 改版

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