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230.狂牛病の国内流入を阻止.2-42001

厚生労働省の対応。

厚生労働省は三日(平成13年2月)、狂牛病(伝達性海綿状脳症)に感染した牛の肉や臓器、牛加工品など食品の輸入を法的に禁止できるよう、食品衛生法を一部改正する方針を固めた。同じ病原体が原因とみられる致死性の痴ほう「変異型クロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)」の国内感染を防ぐため、緊急対応することにした。

これは新聞に報道されている記事の出だしの部分です。これに続いて、次のような文が書かれています。対象となる食品は、食肉と、ハムやゼラチンなどの牛肉加工品、伝染の可能性の高い牛の脳やせき髄なども「臓器」として規制される。栄養補助食品や、コンソメスープなど高度に加工された食品は対象外で、従来の輸入の自粛指導にととめる。

老人性痴ほうとしては、アルツハイマー病が一番多いのですが、アルツハイマー病とクロイツフェルト・ヤコブ病は似ていますが非なるものです。一番の違いは、アルツハイマー病はヒトからヒトへ、またはヒトから動物に伝染しませんが、クロイツフェルト・ヤコブ病は、例外的なこともありますが原則として、ヒトからヒトへおよびヒトから動物に伝染することです。

日本国内でも牛に狂牛病が発生するか。

英国の牛に狂牛病が発生して数年前には大変な社会問題となり、フランスを始めヨーロッパの国々は英国からの牛肉の輸入を禁止していました。英国の狂牛病は、収束したかのように思われていましたが、昨年あたりからフランス、イタリア、スペイン等のヨーロッパ諸国の牛に狂牛病が発生していることが確認されました。

ヨーロッパの牛が狂牛病となっていることは確かでしょうが、牛肉を食べた人に「変異型クロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)」はまだ見つかっていません。しかし、これらのことから、日本政府は、血液を介した伝播を防ぐ意味から、英国に長期滞在したことのある人からの輸血用の採血は控える処置をとっています。

それでは、日本国内でも狂牛病が発生する可能性や国内で販売されている牛肉は安全か等を心配される方もいることでしょう。英国以外の国で牛が狂牛病になった原因は、また確認されていないと思いますので、断言的な表現は避けさせて貰いますが、次のようなことは言えると思います。

英国には昔から羊のスクレピーという牛の狂牛病ヒトのクロイツフェルト・ヤコブ病と同じ病気が存在しています。スクレピーで処分された羊の肉や骨を牛の飼料に混ぜて使ったことが、牛に狂牛病を伝達したと考えられています。国内で牛の飼育用に使われている飼料の成分について私は何も知りませんが、羊のスクレピーや牛の狂牛病で処分された動物を飼料に使っていない限り、国内の牛に狂牛病は発生しないと思われます。特別な地域から羊を輸入していない限り、国内の羊にスクレピーは存在しないと考えられます。

厚生労働省が心配しているのは、狂牛病の牛の組織や成分から国内で「変異型クロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)」がヒトに発生するのを事前に阻止したいことだと思います。飼育されている動物を介した伝播の可能性は、あまり心配しなくても良いと私は考えています。

試験依頼の急増。

一年ほど前から、クロイツフェルト・ヤコブ病の病原体と考えられている「プリオン」の試験についての問い合わせが増えました。問い合わせをして来る企業は、実に様々な業種におよびます。メールでの問い合わせでは、企業名や試験希望の商品や原材料はほとんどの場合記載されていますから判ります。しかし、電話での問い合わせの場合は、企業名や材料などは秘密にしたいようで、試験を受けられる否かだけを聞いてくることが多いようです。

プリオンに汚染されているか否かを試験したいと考えている対象物は、聞き得ただけでも大変な種類になります。例えば、輸入肉、ハム、ゼラチン、脂肪、コラーゲン、脳、胎児およびその血清、胎盤、成牛の血清、臓器の膜など、ここに挙げた物から抽出した成分や由来する物など、更に、これらを一部でも含む商品まであります。用途からみると、食べたり飲んだりする食品、膚や身につける商品、医療用品、商品加工の工程で使う物(例えば、酵素、ホルモンや増量剤など)などにまで及ぶようです。

現在日本国内で調べられるHPは、大変な数であろうと思います。しかし、「プリオンについての試験を受け付けます」と明記してあるHPは、私ども以外には見当たらないと、彼らは言います。私個人では確認していませんが、もしかしたら本当なのかも知れません。

私達のHPに「研究受託」という柱を掲げています。その冒頭に「他所の機関でも実施可能な試験は原則としてお引き受けできません」と明記しています。聞き様によっては、空威張りしているように誤解される可能性もありましょう。私達は大学の職員で営利を目的とした組織ではありませんから、いろいろな意味で他所の機関では実施できないような場合のみ、お引き受けすることにしています。病原微生物のプロとして、私達はプリオンを含む病原体を原則として扱えます。HPに記載している趣旨や設備・技術から考えると、これらのプリオンについての問い合わせに対しては、「原則お引き受けできます」と応えるべき範疇の試験になります。

プリオン汚染の証明は困難。

しかし、今回のプリオン汚染の可否を証明する試験は、残念ながらお引き受けできませんでした。伝達性(伝染性)プリオンの検出は、動物実験に頼らざるを得ないのが現状です。動物実験での検出感度(限界)は、まだ誰にも判りませんし、更に「ゼロ」の証明は非常に難しい試験と思います。仮に、お引き受けしたとしても、成績報告書を提出するまでには5年程の試験期間を頂かなくてはなりませんし、その費用も直ぐに算出できない程高額になります。その結果が、汚染を証明できたケースは納得でき意味があります。逆に試験結果が陰性の場合、「プリオンは証明されなかった、しかし、汚染を完全に否定することはできない」となりますから、断定する成績を報告できません、とすると労力と費用は無駄になってしまいます。

クロイツフェルト・ヤコブ病は、世界中どこにあっても、毎年人口百万人に一人の割合で発生します。日本の人口が一億二千万人とすると、毎年120人の患者が発生していることを意味します。これには、遺伝的な背景があるケースと孤発的なケースが含まれます。しかし、厚生労働省の危惧する「牛由来のケース」が起こると、青年も含めた幅広い年齢階層に「致死性の痴ほう」が広がる可能性が考えられます。

問い合わせをして来た企業の一部は、《わが社の場合は原材料の加工に「牛由来の成分をごく微量」使っているだけなので安全でしょうね》、と私の同意を得たい気持ちを表にだします。《現状でも安全かも知れませんが、牛成分を使わない方がより確実に安全となります》と彼らの期待に反する答弁をせざるを得ませんでした。

私達が知らないうちに、意外なものが私達の生活に深く関わるようになっているようです。環境ホルモンも例外でなく、このようになった社会の現状を元に戻すのは容易でないでしょう。しかし、事件になった後に対応するよりは、未然に防ぐ危機管理を徹底する方が賢明な方策と思います。企業の方はどのように考えられるのでしょう。

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