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276.テロ事件に関する対応.3-19-02.

監督官庁からの調査依頼が多発.

平成13年9月11日にニューヨークでの同時多発テロ事件、その後に多発した炭疽菌テロ事件の直後から文部科学省や消防庁から私達の大学に対しても「危険物、毒物や病原微生物など」の管理の徹底をはかるようとの通達や調査の文書が次々と届きました。

また文部科学省から、テロに使われる可能性のある病原微生物の保有や管理並びに保管や譲渡に対する体制について回答を求める緊急依頼も届きました。北里大学では、病原性の強いウイルスや細菌などを研究や教育に用いるため数多く保有しまた使用しています。

自慢や宣伝のように聞こえるかも知れませんが、北里大学ではバイオセイフティ委員会を設置し、「教育や研究に微生物を用いる場合の安全を確保するための微生物に関する管理規程」を大学として定めています。更に、各学部にも独自のバイオセイフティ委員会があり、安全確保には最大の努力をしている積りです。そのため、上に記した文部科学省からの調査報告依頼に対しても迅速に対応できました。

バイオセイフティ委員会や微生物取扱規程などがいまだ整っていない大学では、「1週間以内に報告せよ」との文部科学省からの依頼に対してどのように対応したのか、北里大学バイオセイフティ委員会の責任者を務めている私としては個人的に大変興味があるところです。

衛生主管部局長への通達

平成13年10月4日に各都道府県などの衛生主管部(局)長宛てに厚生労働省大臣官房科学課長をはじめとする9課長の連名で《「米国の同時多発テロ」を契機とする国内におけるテロ事件発生に関する対応について》という通達が出されました。それには、≪第1.救急医療に関する危機管理の対応について、第2.感染症に関する危機管理の対応について、第3.水道に関する危機管理の対応について、第4.医薬品、医療用具等に関する危機管理の対応について、第5.食品等に関する危機管理の対応について、第6.地域における健康危機管理体制の確保について、第7.都道府県等において平素より準備すべき体制および資料・情報源等、第8.各項目についての所管課≫などの項目があります。

救急医療に関する項目では、《テロ事件等に起因する災害の発生時に、医療機関等において適切な対応が遅滞なく行われるよう、各地域における災害・救急医療体制について見直しを行うこと、・・・なお、消防庁防災課長、救急救助課長及び特殊災害室長より都道府県消防防災主管部長宛てに・・・が発出されているので参考とされたい。》との言葉が続きます。

テロ事件が起きた時に、《適切な対応が遅滞なく行われるよう、災害・救急医療体制について見直しを行うこと》という具体的な内容または指示がない通達を受けた衛生主管部(局)長の上級官吏は、なにをどのように指示されたと理解するのでしょう。「見直しを担当部署に伝えました」または「伝えられた担当部署は見直しをしました」という記録が作れればそれで宜しいのでしょうか。

水道に関する危機管理の対応について.

第三番目に記載されている水道についての対応の項目には、「1.水道施設の警備等、2.情報収集、連絡体制等の確立」という二つの項目が書かれています。1.水道施設の警備等には、「水源や水道施設の監視や警備の強化、防護対策の確立、施設、備品、施設図面などの管理の徹底など」とたった二つの文章が書かれてあります。2.情報収集、連絡体制等の確立には、「緊急時対応の体制の確立・・・情報収集や連絡体制を確立する、給水停止措置等の指揮命令系統を明確化し、マニユアルの作成を行い、緊急時対応体制の強化を図ること」と三つの文章が書いてあります。

「水道に関する危機管理の対応」は、よく解釈するとテロを未然に防ぐことで安全を確保できるとの前提に立っていると考えられます。しかし、万が一にもバイオテロ事件が起きてしまった場合の水道水の緊急且つ迅速な確保に対する対応に対しては一言の記載もないのはどうしたことでしょうか。

水源監視の強化、水道施設の警備の強化でバイオテロが防げるのでしたら、わが国はこれからも安全を謳歌できるのでしょう。空から炭疽菌などを水源に投げ込まれる場合に対して、水源の監視や水道施設の警備はどのようであることが望まれるのでしょう。地上の監視や警備をいかに強化しても空からのテロには対応するのは難しいのと違いましょうか。

水道施設管理者からの問い合わせが多発.

東京都と北海道をのぞく府県または政令市などの水道施設管理者の方々から、炭疽菌が水源に混入されたと仮定しての対応策等についての問い合わせのメールを急にたくさん受け取るようになりました。上に記した通達が厚生労働省の担当課長から出されているとは、そのとき私は全く知りませんでしたので、水源および水道水を管理している責任者達の炭疽菌テロに対する反応が「さすがに責任者として迅速だなぁー」と最初は感心していました。なんてことはないのです、通達に対してどのように対応してよいのか判らない水道関係の専門家が多かったということをあどで理解できました。

水道関係者には、化学系出身者が多く微生物のことを知っている人達が少ないことは前から私は承知していました。万が一に炭疽菌が水源に投げ込まれたとすると、大変なことが日本では起こることは間違いないような印象を彼らとの交信から判ったような気がしました。

例えば、炭疽菌が水源に混入されたり投げ込まれたりした場合水道水を飲んで感染するのでしょうか、水道水に含まれている塩素で炭疽菌は死なないのでしょうか、水道水中に含まれる炭疽菌を殺すにはどのような消毒薬があるのでしょうか、炭疽菌の芽胞を取り除く方法はなにかありましょうか等と続きました。

食べ物がなくなっても人間は直ぐには死にませんが、飲み水がないと人間はながく生きていけません。汚染されて水道水が飲めなくなった場合、《救援隊が到着し緊急の給水が始まるまでの例えば3日間だけでも緊急用の水を供給する対策はあるのでしょうか? ドブ水や河川水の緊急浄化装置の備えはありますか?》とある大都市の関係者に聞いてみました。応えは「ノー」でした。必要ならば私がお手伝いしますから、緊急浄水装置の開発を考えてみませんか? 応えは「私の立場ではなにも出来ません」、もっと上の者の専権(?)・先見(?)事項ですとの反応でした。

山崩れや津波の災害から他地区から孤立した場合と違い、水源を汚染された場合は交通や通信の手段は確保されている訳です。いかにへんぴな地区でも現在の日本では3日もあれば何処からかの救助隊が到着するでしよう。その3日間だけでも緊急用の飲み水が確保できれば、その住民は安心して救援を待つことができるのと違いましょうか。1日に1人当たり0.5リットルの飲み水を供給するとした場合、仮に一万人の住民では5,000リットルの水を作れればよい訳です。家庭の小さめな湯船でも250リットルの容積がありますから、20軒のお風呂の水があれば良いことに計算できます。これだけ物質が溢れている日本でお風呂の使い湯を浄化する装置を作れない筈がありません。作れないのではなく作らないのでしょう。事故や事件が起こった後でないと安全確保や危機管理に対する対応はしなくても良いのでしょうか。金融機関や企業に数千億円の税金を投入できるのですから、「備えあれば憂いなし」の状況を作れない筈がないと思います。但し、やる気があればなんでしょうね。

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