292.ダウン症候群の人たちへ朗報.
7-30-2002. 染色体の突然変異. 親の性質が子供に伝わるのは遺伝とばれ、遺伝の神秘さが遺伝子に隠されていることは、高校の教科書にも記載されています。その遺伝子は、染色体に存在します。 人間という動物では、脳の細胞、心臓の細胞、皮膚の細胞も全ての細胞に全く同じ23対46本の染色体があります。46本は男女差もないのですが、性遺伝子だけは例外的に男女で違います。染色体は細胞が分裂するときにのみ形成され、顕微鏡で見えるようになります。染色体は大きさの順に1から22まで番号がついていますが、性遺伝子たけは、X染色体とY染色体と呼ばれます。XYの対を持っていると男、XXの対を持っていると女になります。一個のX染色体がY染色体に置き換わると性が違ってしまいます。染色体や遺伝子とは実に不思議な存在なのです。 いろいろな性質を決めている遺伝子が何番目の染色体に存在するが判ってきています。遺伝子の分析から病気を診断することを遺伝子診断と呼び、正常に働かない遺伝子を外から補って正常に働くようにする治療法を遺伝子治療または分子治療と呼びます。病気と遺伝子または染色体との関係は、だんだんと明らかにされてきています。 不幸にして生まれた時から染色体や遺伝子に異常がある病気を先天性の病気といいます。染色体との関係が判っている先天性の病気の一つにダウン症候群があります。ダウン症候群は、染色体の数的異常のなかで最も多い疾患といわれています。いろいろな似通った症状が特徴的に見られるので、1866年イギリスの眼科医J. L. H. Downが独立した疾患として、症候群として報告したのがこの病気の名前のはじまりです。1959年になって、ダウン症候群の原因が染色体の異常(21番目の染色体が1本過剰の3本であることから、21トリソミーと呼ばれる)によることが判りました。 「ダウン症候群」は、染色体の異常が原因で生まれてきます。染色体の異常というと、遺伝に関係がありそうですが、大部分のダウン症候群は、突然変異によって生まれ親の遺伝子に原因する遺伝ではないと考えられています。「ダウン症候群」の子どもは、800例に1人の確率で生まれてきます。日本国内では毎年1,500人くらいのダウン症候群の子供が生まれていることになります。この割合は、全世界のどの地域においても、また時代が変わってもあまり変化がないと言われています。 ダウン症候群の人たちへの朗報、 ダウン症候群は精神発達障害の原因であり、わりと早死にすることは判っていても、死亡原因についての情報は限りがあり多くないのだそうです。そこで、米国疾病管理センター(CDC)の研究者は、ダウン症候群の人達について疫学的な調査を実施し、その結果をLancetの三月号に発表しました (Mortality associated with Down’s syndrome in the USA from 1983 to 1997: a population-based study. 359:1019‐1025, 2002)。 ダウン症候群のお子さんをお持ちの方々には心労が絶えないとおもいますが、この調査結果はこれらの人々にとって朗報と思いますので、概略を紹介します。 1983年から1997年の15年間に届けられた死亡診断書で「ダウン症候群」の症状が記載されている17,897例の死亡平均年齢と一般の病態を調査しました。1983年の平均死亡年齢は25才でしたが、1997年には49才に延長し、平均して毎年1.7才延長した。黒人とその他の人種は、白人よりはるかに平均寿命は短かった。ダウン症候群の人達の死亡原因で最も多い診断は、先天性心疾患、痴呆、甲状腺機能低下症、白血病などで、これは予想したとおりであった。一方、白血病をのぞく悪性新生物(腫瘍)については、ダウン症候群の記載がない人達の10分の1以下と意外に低かった。白血病と睾丸の癌をのぞく悪性新生物の頻度は、年齢、性差と腫瘍の型には無関係にダウン症候群の人達では低値であった。 人種による平均死亡年齢差を決めている要因を明らかにできれば、将来ダウン症候群の人達の生存率を改善することが容易にできるかも知れない。またダウン症候群の人達に癌が少ない理由として、発癌リスクを高める環境要因に暴露される機会の低頻度、21番染色体にある腫瘍抑制遺伝子の存在、癌細胞の増殖速度の低速度、ガン細胞のアポトーシス(プログラムされた細胞の自殺)の高活性等が考えられるそうです。 ダウン症候群に関係する21番染色体は、人の染色体としては最も小さな染色体です。この報告で明らかにされたことの一つに、21番染色体が3本あることで発癌の頻度を10分の1以下にさがること、毎年1.7才平均寿命が延長し、この15年間で死亡平均年齢は2倍に延びたことがあります。 ダウン症候群の人達の細胞は、その他の人達の細胞と比較して、インターフェロンをより多く産生し、またインターフェロンを結合するレセプター数が多いといわれています。インターフェロンは、ウイルス性のC型肝炎に有効ですし、また細胞に対してもいろいろな作用をします。インターフェロンの産生能の弱い人は、病気に対する抵抗性が弱いようです。インターフェロンの産生能が高いことは、正常な細胞の腫瘍化を抑制したり、癌細胞の増殖速度を低速化したりしている可能性が考えられます。 ここに紹介した論文の数値は、毎日苦労されている関係者にとつては朗報と思います。いずれかの時期に、ダウン症候群の遺伝子治療が可能となりましょう。期待したいものです。 |