293. 長時間飛行とインフルエンザ.
8-2-2002. 少し勘違いをしました. いくら大型航空機であっても密閉された空間である機内の空気は、数百人もの大勢の人が呼吸し続けていると数時間ですべて人の肺に取り入れられる可能性のあることを「286.長時間飛行と感染症」に書きました。するといろいろな方々から意見や情報が寄せられました。その一部について説明したいと思います。 医療関係からは、私が少し勘違いしていたことを指摘されました。「一回の呼吸で300ミリリットルほどの空気を吐き出す・・・」と書きました。少し大きめの概算値としてならば「300ミリリットルを500ミリリットル」に変更した方がよいとの指摘でした。この数値を基準に計算し直すると、「286.長時間飛行と感染症」の文章の一部は次のように変更(赤字を青字に)となります。「一回換気量300ミリリットルを500ミリリットルに、1時間で360リットルを600リットルに、12時間では4,320 リットルを7,200リットルに(4.3立法メートルが7.2立法メートルに)、一人分の容積1,540リットルの空気は約4.3時間が2.6時間・・・12時間では約3回換気が約5回換気・・・逆な表現をすると4時間が3時間以降に機内に存在する空気は、全て人が吐き出した空気であることになります。」に訂正させていただきます。 航空関連の人たちからは、「航空機内の空気は清浄されています」との情報を頂きました。但し、どの程度の性能の空気清浄機が装備されているのかは判りませんでした。 旅客機の客室内の空気は循環型. 曖昧模糊の愛読者のお一人から意外な新情報の提供を受けました。創業80年になる生活協同組合「コープこうべ」の商品検査センターに勤めている木下真氏から、「286.長時間飛行と感染症」を曖昧模糊に掲載したその日にメールが届き、「コープこうべの木下です、曖昧模糊286に関連する日経のウェブ(http://biztech.nikkeibp.co.jp/wcs/show/leaf/CID/onair/biztech/medi/198102)にのっている情報をお知らせします」と航空機内での感染についての米国医師会の学術誌に掲載されたばかりの「客室内空気再循環型の旅客機、 風邪の引きやすさは従来機と変わらず」というタイトルの最新情報を送ってきてくれました。ここに報告されている結果は、私が危惧している機内での感染の一部は否定される内容を含みますので、その大筋を紹介します。 その論文で報告されている結論は、「近年導入が進んでいる客室内空気再循環型の旅客機に乗っても、少なくとも2時間程度のフライトでは、風邪(上気道感染)の引きやすさは客室内空気を100%外気と入れ替える従来型の旅客機と変わらない」というものでした。(Journal of American Medical Association誌2002年7月24/31日号)。 従来型の旅客機では、客室内の空気を定期的に外気と入れ替えている。1980年代初頭から、客室内の空気のおよそ半分を再利用する「省エネ型旅客機」が登場。客室から吸入した空気を、フィルターでろ過してから再循環する仕組みである。フィルターは理論上、ほこりや細菌、ウイルスなどは通過しないことになっている。つまり、風邪を引いた人がくしゃみをして空気中に細菌やウイルスを放出しても、それが再循環装置を通して客室全体に撒き散らされる恐れはないはずだ。 しかし、この型の旅客機が導入後、旅客機内でのインフルエンザ集団感染が報告され、「客室内空気の再循環が感染症を蔓延させたのでは」と指摘されていた。米国California大学のJessica Nutik Zitter博士らは、カゼの流行っている冬季にサンフランシスコからコロラドに向かう旅客機の乗客に協力を要請。過去1週間飛行機に乗っておらず、今後1週間も飛行機に乗る予定がなく、かつ現在カゼを引いていない人に、5〜7日後に電話インタビューしてカゼを引いたかどうかを答えてもらった。サンフランシスコ−コロラド間のフライト時間は約2時間。 調査に協力した1,100人のうち、215人が5〜7日後の時点でカゼを引いていたことが判明。しかし、カゼを引いた人の比率は、客室内空気を100%外気と入れ替える旧式の旅客機に乗った516人と、客室内空気の半分を再循環する新式旅客機に乗った584人とで変わらなかった。 カゼの流行っている時期であっても2時間程度の飛行では、搭乗者は感染を心配しなくても良いと解釈できる報告です。しかし、「50%の空気を再利用する」という意味が難解で、「2時間の飛行中に50%の空気が入れ替えられている」とは必ずしも読み取れません。1時間あたりの換気回数を明記してもらいたかったと感じました。この論文の存在をいち早く教えてくださった木下氏は、職業柄いろいろな情報の収集に努めているのでしょうが、曖昧模糊の掲載と論文の検索が同日とは驚きました。スピードがすべてを制する(速いものが遅いものを駆逐する)時代なのかもしれません。 |