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305. 企業の特許申請.12-2-2002.

昨年ノーベル化学賞を授賞された野依良治先生は、特許出願件数が全世界で最も多いということを302. ノーベル賞受賞者と知的所有権」に書きました。民間企業に勤めている方々から特許についての情報が寄せられました。そのなかから二人の意見を紹介します。

その1。ある企業の研究所では、三人で各チームを組んで独自のテーマについての研究開発を担当している、三ヶ月に一件の割合で年間三件の特許出願がノルマになっている、それでもまだ三ヶ月余裕があるといわれている。部門によっては三件のノルマを軽く達成できるが、難しいテーマでは最初の数年間はノルマを達成するどころか先行きの見通しもおぼつかない。ニ年間ノルマを達成できないチームの人は、ノルマをこなしているチームの人とシャッフルされ、また新たなチームが作られる。常にノルマを達成している人はどんどん出世するが、そうでない人は日の当たらない部署にまわされる。勢いガサネタの申請書を書かざるを得ない。「特許申請数の大小は、科学的にも業績的にもあまり意味がありません」という内容のメールでした(抜粋)。

その2。丁度いい機会ですから、企業の特許に関して書かせていただきます。企業や、部署によって違いはありますが、基本的には「特許は期に一件」というのがノルマになっている所が多いようです。当然、仕事によってはネタが多かったり、少なかったりしますから、部署で何件というような運用形態になります。とは言え、一人で期に何件も特許を書く人はあまりいないので、ネタが無くても無理矢理特許を書くと言う事になります。ノルマのためにネタをでっちあげて、書いている本人はクズ特許だと思いつつもそれなりの特許に仕立てあげます。経験から言ってこのケースが一番多いと思います。
ところが、いいネタを持っていて、本人がいい特許だと思って書いたものが全然当たらず、ノルマのために無理矢理書いた特許が当たると言う事があります。結局の所、特許は水物なのでしょう。そのため、数撃ちゃ当たる方式なのだと思います。    この意味では、ノルマを課して特許を書かせるのも企業としては悪くないのですが(書かされる本人は嫌ですが)、特許にも流行廃りがあって、特許担当者がそれに乗ってしまう事の方が問題です。一時流行したビジネスモデル特許の時などは、「ビジネスモデルモデル特許以外は受け付けない」だの、特許を一件書くと、「それを元にしたビジネスモデル特許をもう一件書け」と言った具合になったりします。 その際、ビジネスモデル特許など書いた事の無い人に無理に書かせても書ける筈もありません(自分のやっている分野で特許をでっちあげるのは訳が違います)。書いている本人がビジネスモデルの事を全然理解してない場合が多く、何を書けばいいのかが分かりません。結局、すったもんだしている内に特許が出なくなったり、本当に何の新規性も無いゴミになったりします。

以上は書く方の立場からですが、逆に、特許から他社の情報を合法的に得る事もできます。通常、特許の執筆者に何人か名前を連ねているので、企業名と、分野を指定して検索すれば、その企業でその分野を担当している人の人数と氏名が分かってしまいます。また、共通に出てくる人で張り合わせると、2つのグループに分かれる事もあります。同じ様な分野を2つのグループで独立に出しているとなると、社内にちゃんと横串が通ってないなど、体質に問題があると言う事まで分かります。特許は技術的な内容以外にこの様な情報入手手段としても活用できます(原文)。

企業の業種によって特許に対する認識は違うと思いますが、特許をノルマとして書かされるのは大変であろうと思われます。良い特許をだしても、それを管理する部署の能力によっても特許性の評価は変わりましょう。企業における知的所有権とは「ダマシアイ」みたいな印象を受けましたが、ほんとうのところはどうなのでしょうか。

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