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339. ワクチンで痴呆の予防が可能.11-27-2003.
 
ヘルペスウイルス感染で痴呆が増大?
日本国内では、コイヘルペスウイルスの感染で鯉が被害を受けているとのマスコミの報道に明け暮れています。コイヘルペスウイルスの説明は、質問も届いていますので、後日原稿を書く予定でいます。ところがコイではなくヒトでヘルペスウイルスの感染による面白い現象が報告されていることに気がつきました。その概略を紹介します。
 
フィンランド・ヘルシンキ大学のT.E.Strandberg博士らは、心血管系疾患の患者を対象としてウイルス感染と痴呆リスクとの関連を調査し、ウイルス感染により痴呆リスクが有意に増大すると発表しました(Stroke 34:2126,2003)。
 
調査対象者は、383例の平均年齢が80才、全員が動脈硬化、82%が冠動脈疾患にかかっており、37%で1回以上の脳卒中発作歴があり、65%が女性でありました。
 
試験開始時に単純ヘルペスウイルス1型、単純ヘルペスウイルス2型とサイトメガロウイルスに感染しているか否かを確認するために各ウイルスに対する抗体の保有状況を調べました。この3種類のヘルペスウイルスのうち0〜1種に陽性の反応を示したのは48例(12.5%)、2種のウイルスに陽性であったのは229例(59.8%)、3種類全てに陽性反応を示したのは106例(27.7%)でありました。また治療前に58例(15.1%)が認知機能障害を有しており、適切な治療後も認知機能障害と3種類のウイルスに対する陽性反応とは有意に相関していました。
 
試験開始1年後に痴呆リスクとウイルス感染陽性率とを調査しました。3種類のヘルペスウイルスのうち2種類に対する免疫抗体を保有していた患者群(229例、59.8%)では、1種類に感染していた患者群または全く感染していなかった群と比べて痴呆になるリスクが1.8倍高く、更に3種類のウイルス全てに感染していた患者の痴呆になるリスクは2.3倍も高かった。
 
動脈硬化に関与する肺炎クラミジアChlamydia pneumoniaeと肺炎マイコプラズマMycoplasma pneumoniaeへの感染についても調べました。この2種類の病原微生物に対する免疫抗体を全く保有していなかった患者は79例(20.6%)、1種類の微生物に対する抗体を保有していたのは182例(47.5%)、2種類とも保有していたのは122例(31.9%)であった。しかし、これらの病原微生物の感染と認知機能との相関は認められませんでした。
 
T.E.Strandberg博士らは、「単純ヘルペスウイルスやサイトメガロウイルスなどの病原体による負荷は、心血管疾患に罹っている在宅高齢者の認知機能障害に関与している」と結論しています。
 
更に、痴呆へのウイルスの関与が確認されれば、ウイルスに対するワクチンや抗ウイルス薬などの感染に対する現行の治療法を痴呆の予防と治療に用いることができると述べています。
 
妊婦の子宮を調べると単純ヘルペスウイルスが感染している妊婦が多く居ることは周知の事実です。国内では妊婦の定期健康診断の項目に単純ヘルペスウイルスの検査は入っていませんが、生まれてくる赤子の健康のために諸外国では妊婦の検診項目にあります。そのようなウイルスに対するワクチンが完成すると、痴呆のみならず肝炎や脳炎の予防にもつながることと思われます。期待して見守っていきたいと考えています。

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