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369. 航空機乗務員の腫瘍リスクの上昇.8-10-2004.
 
宇宙微生物学
これから数年後には働く場所が地球から宇宙基地に変わる人が現れ、またその逆に宇宙から地球に帰還したりする人が今後増えるであろう。その時、地球上の人間が宇宙空間に微生物(例えば、エイズのウイルス)を持ちだし、宇宙基地勤務者が地上に宇宙の微生物を持ち帰ってくる可能性が考えられると宇宙微生物学者は危惧している。その時の問題は何でありましょう。
 
一つは、地上の微生物が宇宙空間で大量の電離放射線を浴びることは確かであろう。その結果、遺伝子に傷害が起こり、地上では考えられないような突然変異が起こる可能性がある。二つ目の問題は、例えば、エイズのウイルスが宇宙基地に持ち出され、宇宙基地は小さな密閉空間であるから宇宙基地勤務者に感染が急速に広がる可能性が考えられる。三番目の問題は、宇宙空間で微生物(例えば、エイズのウイルス)が大量の電離放射線を浴びて病原性が弱くなり宇宙基地勤務者に潜伏感染をするようになると仮定し、何年かの後地球上では人類の英知でエイズを完全に消滅させられたとする。エイズが存在しない地球に宇宙からエイズのウイルスが持ち込まれると、病原性が弱くなっていても完全に免疫がなくなっている地球人は次々と感染するであろう(再興感染)。このような宇宙環境・空間での微生物を研究している科学者が少数ながら存在します。宇宙空間で大量な電離放射線に曝露されることで微生物が変異をする可能性があるならば、人間に対する影響はどうなるのでしょうか。
 
航空機乗務員の発癌率
航空機乗務員における皮膚癌や乳癌の発症率についての研究が作業環境医学(Occupational & Environmental Medicine)に掲載されています。その概要を紹介します。
 
1. 乳癌発症リスクが5倍高い。
アイスランド大学医学部のRafbsson博士らは、女性客室乗務員1,532例から乳癌を発症した35例と、年齢が一致する140例をコントロールとして、女性客室乗務員における乳癌リスクの上昇と勤務期間との関係を検討した。客室乗務員として1971年までに5年以上働いた女性の乳癌発症リスクは、5年未満だった女性と比べて5倍高いという結果を得た。それで「客室乗務員の場合は、職業的因子が乳癌発症に重要な役割を果たしていると考えられる」と述べている(69:815−820,2004)。
  
2. 悪性黒色腫の発生率が高い。
ストックホルム公衆衛生センターのLinnerjo博士らは、スカンジナビア航空の男性632例と女性2,324例の航空機乗務員の癌発生率について調査した。被験者の雇用年は1957年から1994年で、スエーデン国立統計をもとに1961年から1996年における癌の発生状況を標準化罹患比SIRにより比較した。
 
航空機乗務員における悪性黒色腫の男性の発生率はSIR2.18と女性では3.66と一般人よりは高かった。更に男性では悪性黒色腫以外の皮膚癌の発生率も4.42と上昇していた。これに反し女性客室乗務員における乳癌発生率の上昇は確認できなかった。
 
航空機乗務員における皮膚癌発生率上昇の原因としては、紫外線や電離放射線の被曝量の多さが考えられる。女性客室乗務員における乳癌のリスク上昇が他の研究から示唆されているが、出産歴の違いがこのような結果となった可能性もあると述べている(69:810−814,2004)。
  
3. 太陽光線と悪性黒色腫の発生率。
皮膚癌発生率と乗務員個人の電離放射線被爆量との関係を正確に把握することは容易でない。そこで太陽光線が悪性黒色腫の発生におよぼす影響をアンケートで調査した。男性パイロット239例と女性客室乗務員856例、ならびに年齢の一致する一般人1,918例(男性454例と女性1,464例)を対象とした。頭髪や眼の色、そばかすの有無、母斑の数、皮膚癌の家族歴、日光浴や日焼けサロンの利用歴、南国で過ごした回数、日焼け予防の実施などについて回答を求めた。その結果、航空機乗務員群は、休暇中により多くの太陽光線を浴びていた反面、日焼け予防を実施している割合も高かった。それ以外の因子については大きな差は認められなかった。この結果より、航空機乗務員で悪性黒色腫の発生率が上昇している原因は、太陽光線への曝露以外にも存在すると結論付けている(69:807−809,2004)。
 
この3編の研究発表に対して米国のCDC(米疾病管理センター)は、航空機乗務員がフライト中に大量の電離放射線を浴びていることは確かであり、それがDNAや染色体に影響していることを証明する研究も必要である。それに加えて、航空機乗務員の不規則な勤務体制によるバイオリズムや食生活などの乱れ、上の調査で取り上げられなかった因子も癌発生率の上昇に関与している可能性も考えられるとコメントしている(69:805−806,2004)。 
 
航空機の客室乗務員やパイロットのスタイルや制服などは若者に対して極めて魅力的に映るのは世界共通であるらしい。これらの職業に憧れるのは、身体的な格好よさとは別に、ある職種より高収入であり、世界各地への旅行やショッピングに行けて、更に冬場でも太陽の恵みを享受できる外観的な役得に気が向けられがちである。航空機の離発着時の重力の変化、成層圏を長時間飛行すると中性子や電離放射線を大量に浴びてしまうことは明らかです。そのため、乗務員には癌患者が多いとか、子供ができない夫婦が多いと言われていることがあります。これが科学的に信頼おける事実なのか、もしそうだとすると原因はなんであろうか、この疑問に触れた発表を紹介した。ある種の職業病の存在と原因追及などの解明が待たれる。

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