371. 牛肉検査が変更される. 9-12-2004.
食品安全委員会のプリオン専門調査会が生後20ヵ月以下の牛をBSE検査の対象から外すことを認める中間報告をまとめた。これを受けて厚生労働省と農水省は、検査体制の見直しを探ることになった。この情報はマスコミでも大きく報道されていたので、記憶に新しいと思います。牛肉検査の変更を国民の一人として考えてみたいと思っていたおりに、時折ご意見をメールしてくださる愛読者の方から「牛肉の検査の部分解禁について」と題した意見が届きました。私の思いと重なる部分がありますので、ご本人の承諾を得て以下に紹介させてもらいます。
牛肉の検査の部分解禁について
日本政府は11日米国産牛肉の部分解禁を提案する方針を固めました。どうも、輸入の全面停止がこれ以上長引くのを避けるのが狙いのようです。日本側は、「20ヶ月以下の若い牛を検査対象から外す」としているのに対し、米国側は、「検査対象を24ヶ月以上」としているために数ヶ月の開きがあります。これが原因で、話がまとまるにはかなりの期間がかかるであろうとは思います。
しかし、それよりも問題なのは、全頭検査を止めて、20ヶ月超に緩和してしまった事ではないでしょうか。厳しい規制の下であれば、その規制をクリアするために、検査技術が発展する筈です。検査技術には高精度化と簡易化との両面の発展が期待されます。過去の色々な事例を見ても、最終的には、高精度な簡易検査技術が開発されて普及しています。理想的には、血液検査であれば申し分ないでしょう。しかし、緩い規制であれば、それに合わせたものになってしまい、簡易化は進むにせよ、高精度化が難しくなってしまうのではないでしょうか。
また、牛肉の原産地を表示するという動きもありますが、これがどれ程の効果を持つかも疑問です。消費者が産地を見て選ぶ様になれば、悪い産地は淘汰されて行くと見ている様ですが、既に、産地偽装事件などが多発している現状ではどうでしょうか。それに加えて、雪印事件の時の様に、「すぐ忘れる」という問題や、「牛丼屋殺到事件」の様に危険を省みないという事もあります。
「産地を表示しているのだから自己責任だ」などと言ったところで、これは消費者への責任転嫁でしかないと思います。やはり消費者全体を守るという姿勢が必要ではないか、そのためには規制緩和などせず、検査技術の開発を支援するのが本筋だと思いますが、いかがでしょうか。
【完】
人への感染リスクを数値化できないか
私が自分の考えとして書きたかった概要を手短に記すことにします。「生後20ヵ月以下の牛は検査しても現在の検査の精度ではプリオンは引っかからないので若い牛は検査しないことにする」までは必ずしも反対ではありません。しかし、だから生後20ヵ月以下の牛は安全だとは断言できないことが問題と思っています。そのため、「生後20ヵ月以下の牛は検査しない」、しかし「安全だと保証できない若い牛は食用にしない」とすべきと思います。
私などのように老齢な微生物学の専門家の多くは、微生物の取扱に関しては専門家としての自信を持っていますが、ところが問題を数値化することが苦手なのです。食品安全委員会のプリオン専門調査会は、生後20ヵ月以下でもプリオンが見つかるかどうかに論議か集中し、感染のリスクの論議が少なかったと思っています。私も苦手なので他人に強制できる立場にはないのですが、検査月齢と感染リスクを分かりやすく評価してもらいたかったのです。
日本側は「20ヶ月以下の若い牛を検査対象から外す」としているのに対し、米国側は「検査対象を24ヶ月以上」としているが、検査を外す月齢を20ヶ月以下または24ヶ月以下にした場合、さらに極論すれば「全頭検査すると全頭検査しない」場合の人へ感染するリスクにどれだけの差がでるのかを数値で示すことが大切だと思うのです。怒られそうですが、仮に検査しても検査しなくても感染リスクに差がないのであれば、何のための検査なのでしょう。米国も≪単に科学的な根拠がないと文学的な表現で批判するのではなく≫、≪感染リスクの数値≫をもって日本政府と論議してもらいたかった。皆さんはどのようにお考えなのでしょうか。