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394. 血液凝固系をハイジャクする細菌. 3-25-2005.
 
微生物の示す種特異性
微生物が動植物に感染して病害を与える場合、相性に属する奇妙な現象が存在します。例えば、ポリオウイルスは、飲食物とともに口を介してヒトの体内に侵入して、最終的には中枢神経系の細胞で増殖して神経細胞を破壊します。中枢神経系の細胞に到達するまでの間、血液を介して全身を駆け巡っていますが、ポリオウイルスが肝臓で増殖して肝炎を引き起こすことはありません。このように感染して増殖する組織を選ぶことを臓器特異性と言います。
またポリオウイルスは、ヒトとサルには感染して神経を侵しますが、その他の動物には原則的には感染しません。人間に病気を起こすレンサ球菌やチフス菌は、マウスには感染しません。ポリオウイルス、レンサ球菌やチフス菌は、感染して増殖する動物の種を選択しているのです。その理由は別にして、この選択性を種特異性と呼びます。
この種特異性が多くの微生物にはありますから、ヒトに病気を起こす微生物が感染する実験動物が存在しない場合、その微生物の病原性を調べる研究を実施する動物系が得られません。研究ができないことになります。
一方、狂犬病を引き起こす狂犬病ウイルスは、イヌにでも、ヒトにでも、ウシにでも感染して神経を侵し恐水症を起こします。この場合、狂犬病ウイルスの種特異性は低い(または無い)と言います。動物の種を選択する種特異性のメカニズムは、いまだ良く判っていません。
 
レンサ球菌は血液凝固系をハイシャック
米国ミシガン大学のD.Ginsburg教授は、ミシガン大学とスエーデンのルンド大学との共同研究を実施し、「A群レンサ球菌がヒトには感染するがマウスには感染しない原因」を明らかにしたと発表しました(Science 305: 1283−1286, 2004)。
その報告によると、A群レンサ球菌が他の哺乳動物にはほとんど活性をしめすことなく、ヒトにのみ感染できるのは、血中のフィブリンを溶解するストレプトキナーゼが原因であるとの新しい研究成果を発表したのです。
A群レンサ球菌はヒトに感染するとストレプトキナーゼという酵素を分泌します。このストレプトキナーゼがヒトの体内にあるプラスミノーゲンを活性化します。切り傷などから出血すると、血液は固まって凝血塊をつくりますが、このとき血中のフィブリノーゲンが活性化されてフィブリンと呼ばれる繊維タンパクに変換されます。A群レンサ球菌の酵素により活性化されたラスミノーゲンは、繊維タンパクのフィブリンクを分解することにより凝血塊を溶解するのです。
 
ヒトのプラスミノーゲンを作る遺伝子をマウスの遺伝子に連結したトランスジェニックマウスを作りたしました。このトランスジェニックマウスの体内でヒトのプラスミノーゲンのタンパクが大量に生産されました。トランスジェニックマウスにA群レンサ球菌を感染させたところ、これらのマウスでは通常のマウスに比べて、この細菌の毒性がはるかに高いことを見出しました。またトランスジェニックマウスから得られたヒトのプラスミノーゲンにA群レンサ球菌のストレプトキナーゼに作用させると、ヒト凝血塊に作用させた場合と同様に凝血塊が溶解することが証明されました。
A群レンサ球菌の遺伝子からストレプトキナーゼの遺伝子を削除したA群レンサ球菌を作り出しました。この遺伝子を削除した細菌は、通常のマウスとトランスジェニックマウスとの間で感染力に差が認められなくなることがわかりました。
D.Ginsburg教授らは、これらの研究から、ストレプトキナーゼがヒト血液凝固系をハイジャクして、細菌自身が感染するようになるとの仮説を打ち出しました。
 
 
Ginsburg教授らの研究成果の概略を易しく紹介した積りですが、内容を理解するのには少し難しいかなと思っています。しかし、A群レンサ球菌が生産するストレプトキナーゼがヒトの凝血塊は溶解するがマウス凝血塊は溶解できないことが、A群レンサ球菌の病原性を決定しているのではないかとの仮説をたてたのです。その作業仮説を証明するために、「ストレプトキナーゼ遺伝子を付け加えたマウスを使っての正面からの実験」と「ストレプトキナーゼの遺伝子を削除したA群レンサ球菌を使っての裏からの実験」の2方面からの研究を展開しました。この研究成果が細菌感染における動物の種特異性の証明に科学の穴をあけたように私は思いました。血液の凝固系遺伝子のパターンに応じた感染症の新規な治療法を調節できるようになるかもしれません。

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