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428. 40年ぶりに新結核薬の誕生. 1-9-2006.
 
薬剤耐性結核菌の蔓延
世界中の感染症のなかで結核は、エイズに次いで死亡者の多い疾患です。結核菌はエイズの原因ウイルスであるHIVと同時に感染することが多く、世界中で1,100万人以上の成人がこの二つの病原体の感染を同時に受けていると言われています。
WHOの資料をみると、多剤耐性結核菌による感染者が旧ソ連邦に属していた独立国家(CIS)共同体に集中していることが分かります。世界の汚染地域のワースト10のうち、エストニア、カザフスタン、ラトビア、リトアニア、ロシアの一部、ウズベキスタンの六地域がCIS諸国なのです。中国、エクアドル、イスラエル、南アフリカも多剤耐性結核菌の汚染地域になっています。結局のところ東欧と中央アジア諸国は、他の地域に比べて、多剤耐性結核菌による患者が10倍も多いことも明らかにされています。
多剤耐性結核菌とは、世界標準の抗結核治療剤であるイソニアジドとリファンピシンの2剤に抵抗性を示す結核菌を指します。しかし、上に記した汚染地域での多剤耐性結核菌は、その97%が超耐性菌と呼ばれ、主要な抗結核治療剤4種類のうち少なくても3種類に耐性を獲得しているのです。多剤耐性結核に対する有効な治療薬は存在しませんから、感染すると治療することは不可能で、ほとんどの場合、死亡することが多いようです。多剤耐性結核菌による患者に対する対応は、残念ながらお手上げ状態にあります。
物と者の国家間または大海を越えての往来を国際化・グローバリゼイション
と呼ぶのであれば、国際化はレーダーに映らない病原体の輸出入に拍車を掛けていることになります。多剤耐性結核菌の伝播は、出入国時の人間の検査を厳しくしても、防げないのです。結核菌を含む飛沫を吸引することで容易に感染が拡大する危険をはらんでいるからです。
 
40年ぶりに新結核薬の誕生
ベルギーのある製薬会社は、マウスを用いた実験で新しい抗結核薬(ジアリルキノリン系のR207910)が短期間で結核菌を除去できることを確認し、多剤耐性結核菌にも有効であるとサイエンス(307: 223-227, 2005)に発表しました。
結核菌を試験管内で増殖させる系にR207910を加えると、薬剤感受性株および薬剤耐性株の結核菌の増殖を抑制できたそうです。またこの新薬の殺菌活性は、マウスの実験でイソニアジドやリファンピシンの活性より高い値を示したとのことです。
新薬R207910は、うれしいことに他の結核治療薬と異なる作用を持っているようです。今現在の抗菌薬は、細菌の細胞壁の合成、たんぱく質の合成、葉酸の合成、または核酸の合成を阻害するものです。ところがR207910は、高エネルギー物質であるATPの合成によりエネルギーを産生する細菌細胞の反応を阻害すると考えられているようです。このようなエネルギー補給を阻害して細菌に抗菌活性を発揮する抗菌薬はとても珍しいものです。
 
 
薬剤に耐性を示す結核菌が増え、東欧と中央アジアの諸国に蔓延しています。特別に治療薬がないので患者は死をまつことになります。そのような時にベルギーの製薬会社が多剤耐性結核菌にも有効な新しい作用の抗結核薬を見つけました。これまで治療法がなくお手上げの多剤耐性結核菌にも有効とのことです、この新薬が一般に使えるようになることが待ち望まれます。

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