細菌で汚染されるアメリカの海辺

アメリカで発行されているSCIENTIFIC AMERICANという月刊誌があります。この雑誌は、著名人にその時点での話題を易しく解説してもらう記事が掲載されています。この雑誌に解説文を書いた科学者からノーベル賞受賞者が多く輩出されていることからも、この雑誌の意義が理解して貰えると思います。

月刊「SCIENTIFIC AMERICAN」に掲載されている英文記事は、日本語に翻訳して月刊「日経サイエンス」という雑誌に掲載されています。SCIENTIFIC AMERICANの六月号にノースカロライナ大学・海洋科学センターの教授で水域生態学者であるMichael A. Mallinが”Wading in Waste”という総説を書いているようです。その日本語版が日経サイエンスの九月号に「細菌で汚染される海辺」という題で紹介されています。

私は、SCIENTIFIC AMERICANも日経サイエンスも定期購読していませんので、全文はまだ読んでいません。しかし、インターネットを使うと、サマリーだけは読むことができます。化学物質や微生物などによる海洋の汚染は、一般にはあまり知られてない現象のようですが、その道の人にするとある意味では常識のようです。

モーリン教授による「細菌で汚染される海辺」とは、米国でのはなしなのです。色々な意味合いから衛生状態が悪い途上国で「細菌による水の汚染」が起きていると聞いても、それほど耳新しいことではないと思いますが、最も文化文明が発達しているアメリカの海辺が細菌で汚染されていると言うのです。本文でなくて申し訳ないのですが、サマリーを紹介させてもらいます。

ここ数年の傾向として，温暖な気候や自然の豊かさおよび海辺での暮らしなどを求めて，米国の南東部の沿岸地域に移り住む人が増えている。ところが残念なことに，無秩序な開発が急ピッチで進んだため，海岸の美しさが損なわれつつある。海辺のビーチや潮干狩り場，貝類を採る磯（貝床）などでは，動物や人の排泄物に由来する病原微生物による汚染が深刻化しているのだ。
自然資源保護協会からの最新報告書によると，2004年に海辺をもつ州が出した海浜の使用禁止令は延べ１９,９５０日におよび，水質汚染注意を出された海岸や湖岸，川岸は１,２３４カ所であった。これらは保健所が定期的に水質調査をしている水辺のおよそ１/３に相当するという。海浜に規制措置が発令された総日数は2003年よりも９％多かった（2002年と比べると50％高くなったが）。海浜の使用禁止令や注意の85％は，排泄物に由来する細菌の数が基準を上回って検出されたためであった。
大雨によって下水や浄化槽があふれると，そこに含まれる人間の排泄物が流れ出てしまう。また，農場に大雨が降れば家畜の糞便も洗い流されてくる。こうした水は排泄物中にいる病原微生物に汚染されており，それがめぐりめぐって再び人体に入れば，肝臓や呼吸器などの疾患をもたらし，ときには死に至る深刻な消化器疾患を引き起こす危険もある。

こうした疾病を衛生状態が劣悪でない米国で引き起こすおもな原因は，貧困ではなく無分別な開発なのだ。先進国では住宅や道路，ショッピングセンター，駐車場などの建設によって沿岸地域における自然の排水浄化システムが破壊され，かつては野原や湿地で濾過されていた排泄物が港湾やビーチを日常的に汚していると述べています。

日本国内では、海岸に防波堤を作ったために、また河川にダムや関を作ったために砂浜の砂が消えてしまい、また海岸線が極端に後退したために遊泳できなくなった海岸がおおく見られるようになってきているようです。サンゴが白く変化して死滅する現象も観察されています。水温が普段より高くなることもその原因の一つであるようです。しかし、「309．セラチア菌がサンゴを食いつくす．1-10-2003. 」で紹介しているように、人間由来のセラチア菌がサンゴに影響していることもあるようです。そのため人畜の排泄物からの細菌がいるから汚いというだけでなく、生態系として別な大きな悪影響を及ぼしている可能性もあるかもしれません。ニューオリンズなど米国南部を大型の台風が襲い、都市の内外を問わず広大な土地が濁流に呑みこまれました。そのようなときには、排泄物や汚物による汚染により、衛生環境は極度に悪化します。ここに紹介した論文は、このような状況を説明しているものと思います。環境を汚染してしまうと、元に戻すことは容易ではありません。