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498. 古細菌が海底に大量に生息.7-21-2008.
キーワード:古細菌、海底探査、堆積物分析、
 
海底の土壌に生息する微生物の中で、これまでは“少数派”と考えられていた古細菌と呼ばれる極限環境に適応したグループが全体の9割を占めていることが、海洋研究開発機構とドイツ・ブレーメン大学の共同研究で分かった。定説を覆す発見として、平成20年7月20日付の英科学誌「ネイチャー」電子版に発表されました。
 
その発表によると、微生物の多くは、大腸菌や納豆菌などのバクテリア(真正細菌)と高温高圧といった極限環境にも適応する古細菌に分けられる。これまで、海底の土壌に生息するのは、ほとんどがバクテリアとされてきました。
 
ところが日独の研究グループは、下北半島沖や紀伊半島沖、カナダ沖、ペルー沖の太平洋と、ベネズエラ沖の大西洋、黒海など世界16カ所で、最大深さ約370メートルまで掘削して海底の泥を採取して、そこに生息している微生物について調べました。
 
バクテリアと古細菌では細胞膜をつくる脂質の構造(後述)が異なることを利用した新しい手法で分析を行いました。その結果、海底下1メートル以上の深さでは、平均して古細菌が87%、バクテリアが13%だったことが分かったのです。
 
海洋研究開発機構は「栄養や酸素に乏しいことと関係があるのだろう。今後、さらに深い場所を調べたい」と希望をのべています。
 
研究には、海洋機構の地球深部探査船「ちきゅう」が採取した土壌も使用し、平成17年に運用が始まった「ちきゅう」による、初の本格的な研究成果となりました。
 
 
古細菌とは
ここで、「古細菌」というあまり聞きなれない微生物の話をしましょう。
およそ、46億年前に地球が誕生してから、35〜38億年前にまだ高温であった原始の海で、有機物から最初の原始生命体が出現したと考えられています。そして、地球の表面が長い年代を経て徐々に冷えて現在の海や陸になる過程で、原始生命体から嫌気性の細菌に進化し、続いて光合成をおこなう原始的な藍色細菌(藍藻)が出現し、地球上に酸素が増加して、現存する好気性の生物が出現したと考えられています。
 
ところが、現在も太古の地球の状態と同じような異常な環境が存在して、そこにも特殊な微生物が生きているのです。
 
その微生物は酸素がない湖沼などの底土や深い地中にいるメタン生成菌、高濃度の塩分がある塩湖などにいる強好塩菌、強酸性の火山・温泉地帯や深海の熱水湧出口付近にいる好熱菌または好熱好酸菌などです。
 
1977年、アメリカのC. R.ウーズとG.E.フォックス両博士がメタン生成菌の研究から、古代のままの姿で生きている特殊な微生物と考えて、初めて「古細菌」と呼ぶことを提唱しました。それ以後、多くのメタン生成菌、強好塩菌、好熱菌が分離され、これらが古細菌であることが判ったのです。
 
日本でも大島泰郎博士によって初めて、温泉から好気性の好熱好酸菌が分離されてから古細菌の研究が盛んになりました。
 
古細菌は直径0.5〜1.5ミクロメートル、長さ1〜数ミクロメートルで、大きさも発達した核をもたないことも、普通の細菌(真正細菌)とほぼ同じですが、生化学・分子生物学的な性質が非常に違った微生物です。
 
古細菌の大きな特徴は細胞膜の脂質(リン脂質)の化学構造の違いです。つまり、真正細菌のそれはグリセロールに脂肪酸が結合(エステル結合)しているのに対して、古細菌のそれはグリセロールに炭化水素が結合(ジエーテル結合)していることです。また、古細菌の細胞壁はおもに糖タンパク質であることや、抗生物質が作用する様式(感受性)も特異的です。
 
したがって、古細菌は原核生物(原始的な核をもつ真正細菌、藍色細菌)にも、真核生物(分化した核をもつ原生生物から高等生物までの一大生物群)にも属さず、共通の祖先(原始生命体)から分かれた第三の生物界であると考えられています。
 
このように現在の地球上で古細菌は、「生きた化石」と考えられる非常に特殊な微生物ですが、生命の起源や生物進化の謎を解き明かす糸口として、その研究の進展に期待されています。
 
 
古細菌はきわめて興味ある存在ですが、詳細についてはまだ良く判っていません。しかし、極限に近い環境で生息していることがら、究極の微生物と呼ばれています。そのような珍しい古細菌が海底の堆積物中に大量に生息していることが発見されたとの発表です。これからの研究によりますが、この究極の細菌の中には人類にとって極めて有用な微生物も数多く存在する可能性も考えられますから、今後の成果が科学的にも微生物学的にも産業上でも大いに楽しみである。

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