▲▲  ▼▼

504. 脳腫瘍がウイルスで治せる.9-10-2008.
キーワード:脳腫瘍、水泡性口内炎ウイルス、ウイルスによる治療、マウスの実験腫瘍、
       原発性・転移性ガン
 
米国エール大学Anthony N. van den Pol博士の研究グループは、特殊なウイルスを用いることで難治性の脳腫瘍が治せる可能性を報告した。(Systemic Vesicular Stomatitis Virus Selectively Destroys Multifocal Glioma and Metastatic Carcinoma in Brain.Koray Özduman, Guido Wollmann, Joseph M. Piepmeier, & Anthony N. van den Pol.J Neuroscience 28(8):1882-1893,2008.)
 
腫瘍は難治性のものが多いが、その中でも特に脳腫瘍、原発腫瘍のみでなく転移腫瘍であっても厄介な腫瘍の範疇にある。米国の資料によると毎年2万人以上が脳腫瘍あるいは神経系腫瘍と新たに診断されている。
水泡性口内炎ウイルス(VSV)は、増殖性が非常によいウイルスなので、インターフェロンの研究などでは盛んに用いられた。VSVは、家畜での伝播力が強く、口蹄疫に似た水泡性口内炎を起こす原因ウイルスである。そのため家畜に被害が及ばないよう、VSVの実験室内での使用は厳しく制限されている。
 
将来性の期待が高い研究成果であると考えられるので、報告の一部について概要を紹介します。
 
この研究に使用されたウイルスは、rp30aレポーター遺伝子を見込んだ脳腫瘍細胞に適応させたVSV p30a株のVSVウイルスである。対照ウイルとしては、偽狂犬病ウイルス、アデノ衛星ウイルスと非増殖性欠損VSVウイルスを用いた。
 
グリオーマ腫瘍細胞を免疫力が抑制されているマウスに移植し、その後、マウスの尾静脈からウイルスを注射した。マウス脳内の腫瘍細胞とウイルスは、蛍光色素を標識したタンパク質を特殊な蛍光顕微鏡で観察した。
 
その結果、ウイルスが脳の複数の腫瘍部位に感染し、3日以内に腫瘍全体に感染が拡がり、腫瘍細胞を傷害していることが観察された。このウイルスは、乳ガンや肺ガンの脳転移ガン(乳がんと肺ガンは最も脳に転移しやすい)に対しても同等に効果的で、身体の他の部位の腫瘍に対しても攻撃的であった。しかし、ウイルスは、正常な組織やマウス脳に移植されたガン化してないヒトの脳細胞には感染しなかった。また対照として用いたウイルスは、腫瘍細胞を傷害しなかった。
 
この知見で最も重要なことは、「ウイルスが脳に侵入ることが可能で、さらに原発腫瘍から転移した腫瘍細胞にまでウイルスが到達できることを示したことだ」と述べている。さらに「ヒトにおいても今回使用したウイルスが同様な挙動を示すものと仮定すれば、将来難治性の腫瘍の治療するきわめて有効な方法となりうる」と指摘している。
 
 
健常な生体では色々な物質の影響から「脳組織」を守るため、特殊な働きをする「血液脳関門(Blood-Brain Barrier)」と呼ばれる関門がある。そのため微小な微生物であるウイルスでも、そうた易く脳には到達できないのが常識である。ところが今回の実験系では、ウイルスは血液脳関門を突破して腫瘍細胞に感染できているのである。この不思議な現象は、用いた腫瘍細胞の性状によるのか、または免疫力を抑制した結果によるのかなどについては、この論文ではあまり触れられていない。この点に関してPol博士らは、健康な脳組織と異なり、脳腫瘍内の血管は漏れやすく、ウイルスが通常ならば防御されて侵入できない血液脳関門を突き抜けられるのではないかと推測しているようです。用いるウイルスの安全性の確認を含め、今後の進展が強く望まれる。

▲▲  ▼▼



Copyright (C) 2011-2024 by Rikazukikodomonohiroba All Rights Reserved.