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511. 旅行者下痢症に朗報. 11-22-2008.
キーワード:旅行者下痢症、病原性大腸菌、腸管毒素、ワクチン、経皮パッチ
 
強力なエンテロトキシン(腸管毒素)を作る毒素原性大腸菌(ETEC)は、この細菌の流行地域を訪れる旅行者や発展途上国の幼児の下痢症の主な原因とされています。毎年2千7百万人の旅行者と2億1千万の小児が急性の下痢症を発症し、38万人の小児が死亡していると言われています。
 
旅行者下痢症は、4〜5日続き、頻回の軟便があります。ETECに汚染された飲食物から感染し、この細菌は小腸に定着して易熱性エンテロトキシン(LT)や耐熱性エンテロトキシン(ST)を分泌します。ETECによる下痢症の約3分の2にLTが認められます。
 
米国のIOMAI社のGregory Glenn博士とSarah Frech博士らは、ETECのLTトキシンを含む経皮吸収型ワクチンを開発し、旅行者に貼り付け、下痢の発症率、安全性と実用性を検討する臨床比較試験を行いました。その結果、下痢に対する良好な予防効果を得たとLancetに発表しました(371:2019-2025, 2008)。
 
実験の対象者は、メキシコかグアテマラへの旅行を予定しており、米国内の地域予防接種センターへの来院が可能な18才から64才の健康成人で、LTワクチンのパッチ群(37μg)と対照プラセボ群に無作為に割り付けました。両群の人達は、旅行前に2〜3週間隔で2回経皮投与を受けた。登録した201例中178例が経皮投与を受け、旅行に出かけた。170例について解析できた。
 
被検者は、日誌に排便記録を付け、下痢が発症した場合は病原体検査用のサンプルを提出した。下痢の重症度は、24時間内の下痢の回数に基づき軽度(3回)、中等度(4〜5回)と重度(6回)に分類した。
 
実験の結果、対照群では111例中24例(22%)で下痢が発生し、うち11例(10%)はETECによるものでした。LTパッチ群では59例中9例(15%)に下痢が発生し、うち3例(5%)がETECによるものでありました。中等度〜重度の下痢の発生率は、対照群では21%、LTパッチ群では5%で、LTパッチの中等度から重度の下痢に対する予防率は75%でした。LTパッチ群は、下痢が起こっても対照群より短期間で、軟便の回数も少なかった。これらを総合すると、LTパッチは有益と考えると述べています。
 
 
先進諸国からの旅行者は、病原性大腸菌などの流行地にはいると、かなりの割合で下痢を発症します。特に日本人は清潔志向性が強いために、俗に言う「バイ菌」に対する抵抗性が低い、そのためにすぐに下痢をしてしまうことがよくあります。このような下痢を旅行者下痢症と呼びます。毒素原性大腸菌(ETEC)の産生する毒素を用いた従来型のワクチンも試作されていて、ある程度の効果は確認されています。しかし、これらの大腸菌のLT 毒素は、経口や経鼻、注射による接種を行うには、毒素の毒性が強いことから、適切な投与法を開発する必要がありました。経皮吸収型製剤は、皮膚からワクチン抗原を送り込むので、使用が簡便で注射針が不要であるほか、製剤の冷蔵輸送も不要で、旅行者や発展途上国での使用に適しているようです。一日も早く「第V相試験」を行い有効性を検証して貰いたいと願っています。

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