540. 間質性肺炎とはどんな病気か 4-30-10.
キーワード:間質性肺炎、呼吸困難、ステロイド剤、バイパップ
間質性肺炎interstitial pneumonitisとはどんな病気か
肺の間質組織に炎症を来す疾患の総称で、非常に致命的であると同時に治療も困難な難病です。1989年6月には、昭和の歌姫と称されていた歌手の美空ひばりがこの病因により、52歳の若さで亡くなった事でも知られる病名である。
私たちの呼吸を担っている肺は、非常に目の細かいスポンジ状の構造をしています。吸いこんだ空気は、気管支の末端の肺胞(肺実質)と呼ばれるところまで入りこみます。この肺胞のまわりの壁の部分を間質と呼びます。この壁は非常に 薄く、その中には毛細血管が網の目のようにはりめぐらされていて、ここから酸素が吸収されます。
空気の入っている肺胞のところが細菌やウイルスの感染で炎症を起こしている病的状態を一般に肺炎と呼びます。一方、肺胞とその壁の部分を間質と呼び、この間質(肺胞と血液の間で酸素の受け渡しが行われ)の炎症を間質性肺炎と呼ばれます。
間質性肺炎はとても苦しい病気 (体験談)
クリスマスも過ぎて、お正月になりました。自分は少し疲れているからと2階で1人静かに横になっていました。それでもおせち料理は、元日と二日は少し食べられました。息苦しさを少しだけ感じてはいましたが、熱、咳、痰、その他の症状が全くないし、お正月でもあることから、あと23日も様子をみていれば治るものとかってに考えていました。
1月4日の朝、大学病院の外来を訪ねました。馴染の看護師さんが「田口さん苦しそうですね」と処置室の奥にあるベッドで休むように言ってくれました。ベッドに横になったことは覚えているのですが、その後のことについての記憶はありません。あとできいたところでは、すぐに心電図の検査、レントゲン検査、動脈中の酸素濃度測定、血液検査などが行われたそうです。その時の血液中の酸素濃度は74%代と信じられないほどに低下していたので(70%代は死の危険もあり)、即入院となったようです。
入院した日から3日間の記憶は飛んでしまっていたので「夢なのか現実なのか」の区別もなく、ベッドに横たわっていました。呼吸器専門の先生方が人工呼吸を繰返しながら、どうし酸素濃度が上昇しなのかと叫び、自発的な呼吸が戻らない、このまま死なせる訳にはいかなどと叫んでいるのか私には聞こえていました。空にフワフワと浮いているような感じで、まったく息苦しさもなく、このまま逝ってしまうのではないかと夢の中で思っていました。
最初の二日間自発的な呼吸が戻らず、酸素濃度も危機的状態を脱しませんでしたので、非常に特殊な人工呼吸器(バイポップ)を取り付けてくれました。宇宙飛行士が装着するような顔全体を覆うプラスチック製の気密なマスクをつけて、通常の5倍の圧力で酸素を肺に送り込む装置です。この装置の使用とステロイドの点滴2,000ミリグラム/日の使用でなんとか一命を取り戻せたようです。
2週間の絶食(ブドウ糖などの栄養分の補給もなく)で水も食事も断たれました。これは胃を動かすだけでもエネルギーを必要としますから、酸素濃度がどうしても低下するからでした。圧力がかかった大量な空気を常にマスク内に送り込まれていますので、ノドや鼻は乾燥します。するとほんのわずかなかき氷を小さなスプーンで2回ほど口に入れてくれました。
自分では寝返りも打てませんので、2時間おきに2人の看護師さんが体の向きを変えに来てくれました。ナースステーションに一番近い個室に横たわっていましたので、モニター上で酸素濃度が低下する警報が鳴ると看護師がすぐに飛んできてくれていました。2週間の絶食で体重は60キロから53キロにまで低下してしまい、足や腕は骨と皮だけになりました。その結果、床に立つことも歩くこともできなくなっていました。
酸素の補給はいまも常に必要ですが、2月に入ってから意識は完全に戻り、食欲も旺盛になり(意識的に)、短い時間であれば先生方とも対話が出来るようになってきました。お陰さまで一命を取り戻せた感じです。
外来の処置室で横にさせてもらった時は、まだ意識があり呼吸が止まってしまうような感覚は無かったのですが、心電図の測定やレントゲン撮影していた間に、急激に肺炎が悪化して空気を吸い込めず、酸素濃度は70%代にまで低下してしまいました。そのため酸欠で意識が低下したようです。その時の炎症反応の強さを示すCRP値は20を超えていそうです。凄い炎症が急激に肺に広かったのですから、そのまま逝ってしまっても不思議ではなかっと思います。
その後色々な先生や看護師の方々が、入院してきた当時のことを話してくれるようになりました。自分でも驚くほどに危機的な状態であったようです。その後も酸素濃度が上がらなかったので呼吸器内科の先生方は,もう助けられないと言いだしたそうです。
呼吸器内科の先生がどうしてあんなに悪くなるまで我慢していたのですかとあとで聞くものですから、どうしてそんなに急激に悪化したのでしょうと逆に質問していました。自分ではあと二日ぐらい静かにしていれば治るものと思っていたと言いましたら、あと二日遅れたら確実にアウトだったでしょうと言われました。
間質性肺炎とは
間質性肺炎(正確には、その中でも発生原因が不明な特発性間質性肺炎)の発病率は、一般的に10万人に5人程度と言われています。
我々は、肺で呼吸をしています。肺全体は非常に目の細かい構造の組織で、吸い込んだ空気は気管支の末端の直径数ミクロンの肺胞(肺実質)まで入りこみます。この肺胞のまわりの壁の部分を間質と呼びます。この壁は非常に薄く、ここから酸素が吸収されます。酸素を吸収した血液は心臓へともどり、そこから全身に供給されます。
この肺胞の間質に炎症がおきる病気を総称して「間質性肺疾患」と呼びます。
一般的に「肺炎」と呼ばれる疾患は、細菌やウイルスの感染が原因で肺胞の内部(空気のあるところ)に炎症が起こります。この点が肺炎と間質性肺炎とが大きく異なる点です。
間質性肺炎では、炎症が進むと肺胞の肺胞壁が厚くなり、肺胞の形も不規則になって、肺全体が少し固くなります。その結果、肺のふくらみが悪くなり肺活量が小さくなると同時に、酸素の吸収効率も悪くなり、息苦しくなります。さらに進行すると、肺の線維性成分の固まりとなり、この部分での肺としての機能が失われることがあります。
間質性肺炎の原因
間質性肺炎の原因は実に多彩な可能性が考えられ、原因が明確にされない場合もあります。原因として考えられる代表的な事柄を上げると以下のようになります。
1)膠原病:膠原病の合併症として間質性肺炎が起きる場合があります。特に強皮症、重複症候群、多発性筋炎、皮膚性筋炎の患者に発生頻度が高いが、全身性エリテマトーデス(SLE)やリュウマチ性関節炎でも発生します。
2)感染症:マイコプラズマ、ウイルスなどによる感染で間質性肺炎が発症する場合があります。
3)放射線:放射線治療が原因となるとして引き起こされる場合があります。
4)職業または環境:無機粉塵、アスベストに起因するアスベスト肺、珪素に起因する珪肺症、炭鉱内の粉 塵による炭鉱夫肺などがあります。有機粉塵、カビ(トリコスポルン)によるもの、鳥の糞や羽毛に影響されとおこる鳥飼病、埃やカビの多い職業に従事している人がなる農夫病などがあります。
5)薬剤:抗生物質、抗がん剤、抗炎症剤、リュウマチ治療薬一部漢方薬(小柴胡湯が有名)等によって引き起こされる場合があります。
小柴胡湯(しょうさいことう)の成分分量は、柴胡(サイコ)4.0〜7.0g、半夏(ハンゲ)4.0〜5.0g、生姜(ショウキョウ)4.0g、黄ごん(オウゴン)3.0g、大棗(タイソウ)2.0〜3.0g、人参(ニンジン)2.0〜3.0g、甘草(カンゾウ)2.0gです。
尚、発生原因が特定できない場合もあります、これらは特発性間質性肺炎(IIP : Ideopathic Interstitial pneumonia)と言われます。
6)病気:AIDSなどの病気により間質性肺炎が起こる場合があります。
日常生活での留意点
(1) インフルエンザなどの感染予防
間質性肺炎はカゼやインフルエンザなどをきっかけに、急速に悪化することがあります。体調を崩さないようにしてカゼをひかないように十分に気をつけることが大切です。また、インフルエンザのワクチンを毎年接種することも重要です。
尚、ステロイドホルモン剤を大量投与中または大量投与直後は免疫能が低下しているためワクチンに対応してインフルエンザの抗体が誘導されない場合もあります。
(2) 精神的、肉体的ストレスの回避
仕事も含めて日常生活上の活動でとくに制限はありません。疲れないように休憩をとりながら動くことが大切です。一般的には、精神的、肉体的ストレスのかからない生活をすることです。
(3)食事
暴飲暴食はやめ、お酒を飲む人は「ほどほど」にしたほうがいい。ステロイド薬自体が、その副作用として糖尿病や高血圧など病気を引き起こすため、これらの病気が悪化した場合は薬を使いにくくなります。ステロイド投薬中は、薬の影響で脂肪が体につきやすくなるためカロリーや脂質を抑えた食事を心がける必要があります。
(4)タバコ
タバコは必ず止めることが大切です。特発性間質性肺炎の中のDIP、RB-LIBと言うタイプの発症と喫煙と非常に高い関係があるとされています。
(5)再発、悪化かな?
症状がなければ3ヶ月とか半年に一度主治医の先生に定期に受診し、レントゲンを撮り、一旦治癒した人は再発していないか、慢性型で安定期にある人の場合は肺の線維化が進んでないか、それから症状に変化がないかどうかを診てもらうことを勧めします。
用語解説
プレドニン(水溶性ステロイド剤)
ステロイドとは、腎臓の上部にある副腎という臓器の外側の部分、副腎皮質といわれるところで作られるホルモンです。そのため、副腎皮質ホルモンとも呼ばれています。
普通の状態でも常に体内で作られていて、体に対するいろいろなストレスに対処するなど生きていく上でとても重要な働きがあります。このホルモンのうち、糖質コルチコイドという成分を化学合成したものをステロイド剤といって治療に用います。 ステロイド剤は、間質性肺炎の炎症に対して最も効果が期待できます。ただし、副作用も多く、典型的な両刃の剣となる薬剤です。したがって、治療を考えるときには治療効果と副作用とのバランスを常に考える必要があります。
これらの理由から、ステロイドの投与は、最初、入院により医師による副作用の発現を含む患者の体調監視のもと行われ、ある程度ステロイド量が少なくなってきた時点で通院治療になります。
ステロイドのパルス療法 Pulse therapy
ステロイドパルス療法は、点滴によりステロイド剤を通常3日間程度大量投与する治療方法で、間質性肺炎の症状が急に悪化(急性憎悪)した場合や経口投与で改善が見られない時などに行われます。本療法で、よく使用されるのはメチルプレドニン(ソル・メドロール)という薬剤で、 たとえば1日 1回1000mgを 3日間投与した後にプレドニゾロン等の経口剤に切り替え、その量を漸減させていきます。パルス療法(超大量ステロイド療法)には、鉱質ステロイド作用が少なく、比較的作用時間の短いメチルプレドニンが適しているといわれています。
バイパップ BiPAP(Bi-level Positive Airway Pressure)
肺の筋肉が弱って自分で呼吸できないときに、この装置を使うと酸素を吸入できるとのこと。そして酸素欠乏状態が続いたあと、何の異常も起きずに,血中酸素濃度が危険状態から脱したとは本当に奇跡としか思えません。バイパップを装着していると大変なストレスを感じます、そのため精神的に異常になることもあるようです。
酸素飽和度
呼吸により肺胞にて血液に取り込まれた酸素は、大部分が赤血球中のヘモグロビンに結合し、抹消組織に運ばれます。酸素飽和度(So2)は、ヘモグロビンの何%が酸素と結合しているかを示すものです。正常な動脈血のSo2は、93%〜96%で、70%代にまで低下すると生命にかかわることもあります。動脈血の採血による測定が正確であるが、簡便法として非観血的に連続して測定できる耳型や指尖型オキシメーターも利用されている。
パルスオキシメータ
パルスオキシメータ (pulse oximeter)とは、計測器(プローブ)を指先や耳などに付けて、侵襲せずに脈拍数と経皮的動脈血酸素飽和度(SpO2)をモニターする医療機器です。モニター結果を内蔵メモリーに記録できるものや腕時計のような小型のものもあります。
動脈血の酸素飽和度を簡便に計測できるため、体に針を刺したり切ったりすること無くSpO2の測定を行うことが可能で、これにより心肺機能が常時正常であるかを知る事ができます。プローブは、発光部と受光部(センサー)で構成され、発光部は赤色光と赤外光を発し、これらの光が指先等を透過したものを受光部(センサー)で測定します。血液中のヘモグロビンは酸素との結合の有無により赤色光と赤外光の吸光度が異なるので、センサーで透過光や反射光を測定して分析することによりSpO2を測定することができます。
この散文は、私が2010年1月に突然に息苦しくなり間質性肺炎と診断され、その後3ヶ月におよぶ入院生活を余儀なくされた時、ベッド上での暇な時間をみつけて自分が罹患している間質性肺炎についての情報をウエブサイトから集め羅列したものです。
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