◆発酵 [Fermentation]

 発酵は一般にはおもにアルコール飲料、味噌、醤油、味醂(みりん)、乳製品などの食品や酢酸、酪酸、乳酸などの薬品の製造に利用されているのでよく知られているが、その基本的な原理はL.パスツール(フランス)によって明らかにされた。生化学的には酸素がない条件(嫌気条件)下で、微生物あるいは動物の筋肉などで行われるエネルギーを得る手段で、グルコースなどの糖類を分解して、最終的には炭酸ガスとアルコールをはじめ種々の有機化合物(ケトン、有機酸など)を生成する過程を発酵とよんでいる。その過程で得られるエネルギーをATP(アデノシン・三リン酸)へ蓄積する。したがって、発酵の過程は生化学では解糖(glycolysis)とよばれ、呼吸作用や光合成作用と並んで、特定の生物にとってはその生命を維持するための最も基本的で重要な過程であるといえる。
発酵を行って生育する微生物は酵母や麹かびをはじめ種々の真菌、乳酸菌や枯草菌など多くの従属栄養性の細菌である。細菌の中で自然界に優勢に生息している通性嫌気性菌は通常は酸素がほとんどない腸内、土壌や水底土などに生息しており、酸素がない状態では発酵を行って増殖するが、酸素を供給すると好気呼吸を行って、発酵の場合より盛んに増殖することができる。また、偏性嫌気性菌の中で、ボツリヌス菌、破傷風菌やウェルシュ菌などのクロストリジウム属の細菌はもっぱら発酵を行って生育する。人間は古くからこのような発酵という自然の現象を経験的に利用して、種々の食品を作ってきたのである。なお、高等動物の筋肉内では運動によって発酵が進んで乳酸が蓄積される。

関連 酵母
関連 麹かび
関連 真菌
関連 乳酸菌
関連 枯草菌
関連 従属栄養性
関連 細菌
関連 偏性嫌気性菌
関連 ボツリヌス菌
関連 破傷風菌
関連 ウェルシュ菌
関連 通性嫌気性菌
関連 好気呼吸