◆ピロリ菌 [Helicobacter pylori]

 1981年、ーストラリアの医学者が胃炎と胃潰瘍の患者の胃材料から分離した細菌である。実際には1930年代に北里研究所の小林六造らによりイヌの胃にも存在している事が報告されていた。 培養する場合は微好気性でせん状のグラム陰性桿菌で、生息環境が悪化すると球形になる事もある。菌体の端に極多毛性の鞭毛(叢毛)を持ち、活発に動き回る。
尿素を分解するウレアーゼという酵素の活性が病原細菌の中では最も強い。細菌としては特に酸性状態で増殖が良いというわけでは無く、最も適した増殖のpHは7.0〜7.4の中性から弱アルカリである。強力なウレアーゼ活性を持つので、非常に強い酸性状態の胃の中でも、胃の粘膜の奥で、尿素を分解してアンモニアを作り、局所的にpHを中性に保ちながら生存し増殖している。 ピロリ菌の感染経路はよく解っていないが、水系感染を主体とした経口感染と考えられている。 発症の機序は不明な点が多いが、慢性胃炎や胃・十二指腸潰瘍の患者の9割近くからこの菌が検出され、胃癌患者からは健常者比べてはるかに高率にこの菌が検出される事や、複数の化学療法剤の併用投与による除菌療法により、胃炎、胃・十二指腸潰瘍が治癒する事から、これらの病気の最も重要な原因である事は間違いないようである。
最近この菌による胃粘膜での炎症反応が数種類のサイトカインの産生を誘導する事が報告され、慢性胃炎や胃潰瘍、十二指腸潰瘍の形成に、過剰に産生されたサイトカインが関与する可能性が指摘されている。 WHO(世界保健機関)では胃炎や胃・十二指腸潰瘍の治療には、先ず複数の化学療法剤の併用投与による除菌療法をするべきであると奨励している。
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