◆魚類の連鎖球菌(腸球菌)症菌 [Enterococcus seriolicida]

 魚類の連鎖球菌症は最初、1974年、高知県の養殖ブリに発生し、その後、各地に被害が広がって、ブリの養殖業界で最も重要な細菌性魚病の一つとなっている。この魚病は初夏から冬にかけて発生するが、真夏に最も流行しやすく現在はブリ養殖全地域におよんでいる。
症状の特徴は眼球が飛びだし、その周囲や鰓蓋(えらぶた)内側の激しい出血である。また、鰭(ひれ)の発赤や糜爛(びらん)、体表には潰瘍が生じ、肝臓、脾臓、腎臓や腸管に出血する場合もある。しかし、最近はこれらの症状がでずに、狂ったような異常な泳ぎ方をして死亡する例もある。これらの病魚の脳や鼻腔から多数の病原菌が検出される。また、連鎖球菌症はブリのほかにカンパチ、チダイ、マダイ、イシダイ、マアジ、ヒラメなどの海水魚とウナギ、ニジマス、アマゴ、アユ、クチボソ、テラピアなどの淡水魚も感染する。この魚病の治療法は一般に抗生物質(テトラサイクリン、マクロライド)が有効であるが、近年は薬剤耐性菌の問題もおきている。また、予防法としてワクチンが実験的に検討されているがまだ実用化されていない。
ブリの連鎖球菌症の原因菌は最近、日本で腸球菌のエンテロコッカス・セリオリシダ(Enterococcus serioricida)と命名されたので、別名を"腸球菌症"ともよばれている。この細菌は淡水や海水中に常在する条件性病原菌で、グラム陽性、通性嫌気性の連鎖状球菌(0.7×1.4μm)である。発育は20-37℃,pH7.6,塩分は0%が最適であるが、塩分7%でも発育するので、本来は陸性の耐塩細菌の1種と考えられる。血清型はI,II,III型に分けられている。タンパク質やデンプンを分解しないが、溶血性があり、病原因子としてその溶血毒素が研究されている。
なお、ウナギの連鎖球菌はブリ由来菌と同じ腸球菌で、ニジマス由来菌はヒトからも分離される腸球菌エンテロコッカス・フェカリス(Enterococcus faecalis)である(以前はストレプトコッカス)。また、アユなどの淡水魚由来の細菌はアマゾン川の淡水イルカから分離された連鎖球菌ストレプトコッカス・イニアエ(Streptococcus iniae)と同じである。

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