◆コレラ毒素 [Cholera toxin,Choleragen,Cholera enterotoxin]

 おもなコレラ毒素はコレラジェンまたはコレラ腸管毒素ともいわれ、コレラ菌(O1型)が菌体外へ産生するタンパク質の細菌毒素である。この毒素は細胞を致死させずに機能に障害をあたえる腸管毒素である。毒素分子はA,B2種のサブユニット(生体高分子の構成成分)からなっている。このうちBサブユニットが小腸粘膜の細胞に結合し、Aサブユニット(choleragen)はBサブユニットの中心に結合して毒性を現す部分である。Aサブユニットは細胞膜にあるアデニル酸サイクラーゼを活性化する。この酵素はアデノシン-5'-三リン酸(ATP)を環状アデノシン-5'-一リン酸(cAMP)にする反応に働くので、その活性化によってcAMPの濃度を高める。その結果、腸粘膜からの水分の分泌が増進され、コレラ特有の激しい水様性の下痢や脱水症状が現れる。また、コレラ毒素はすべての細胞に作用して、cAMPの生成を促進するので、肝臓ではグリコーゲンの分解促進(グルカゴンの作用)、脂肪細胞では脂質の合成促進や分解抑制(インシュリンの作用)、副腎ではステロイドの生成(副腎皮質刺激ホルモン: ACTH)などをおこし、ホルモン(特定細胞へ作用)のような作用も兼ねている。なお、コレラ菌はこの毒素以外に副コレラ毒素、新コレラ毒素、エルトール型コレラ菌の溶血毒素などを産生し、コレラの下痢症状に関係すると考えられている。

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