◆グラム陰性菌 [Gram-negative bacteria]
グラム染色で赤色ないし赤桃色(陰性)に染まる細菌を指す。グラム陰性菌とグラム陽性菌との違いはそれらの細胞壁の構成成分の違いによる。細菌の細胞壁は細胞質膜の外側にある分厚く堅い層で、細菌特有の形を保持している。グラム陰性菌の細胞壁の構成は多糖のムラミン酸というグリカン鎖とアミノ酸が結合したペプチド鎖とが連結した比較的薄い格子状のペプチドグリカン層があり、その外側にタンパク質、リン脂質、リポ多糖体から成る複雑な外膜とよばれる層が重なっている。グラム陰性菌はこの外膜が存在するので、グラム染色に使われる塩基性色素(クリスタル・バイオレットなど)や媒染剤は浸透せず、エタノール(エチルアルコール)で脱色され、別の色素(サフラニン)がこの外膜に親和性があるので、グラム陽性菌(青藍色ないし青紫色)とは違った赤色ないし赤桃色に染色されるのである。
グラム陰性菌としては腸内細菌科の細菌(大腸菌、赤痢菌、サルモネラ、ペスト菌、肺炎クレブシエラ、エドワードジエラ、プロテウスなど)のほかに、コレラ菌などのビブリオ属、エロモナス属、緑膿菌、百日咳菌、レジオネラ、ピロリ菌、さらに淋菌、髄膜炎菌などのナイセリア属やリケッチア、クラミジアなど多くの病原細菌があり、酢酸菌などの発酵細菌や海洋細菌(海水中)の多くもグラム陰性菌である。
とくにグラム陰性菌の細胞壁に含まれるリポ多糖は菌体内毒素として種々の免疫・薬理活性(発熱作用、血管内血液凝固作用、血圧降下作用など)をもっているので、グラム陰性菌感染症で化学療法剤の投与によって、細菌が死滅したあとその菌体が破壊され、細胞壁のリポ多糖(内毒素)が放出されると、治療が困難なエンドトキシン・ショック(内毒素ショック)をおこすことがある。
グラム染色
細菌
グラム陽性菌
細胞壁
細胞質膜
多糖
ペプチドグリカン
タンパク質 ? リン脂質
リポ多糖
腸内細菌科
大腸菌
赤痢菌
サルモネラ菌
ペスト菌
肺炎クレブシエラ
エドワードジエラ
プロテウス
コレラ菌
緑膿菌
百日咳菌
レジオネラ
ピロリ菌
淋菌
髄膜炎菌
リケッチア
クラミジア
海洋細菌
菌体内毒素
学療法剤