◆サケ科魚類のヘルペスウイルス [Salmonid herpesvirus]

 最初にアメリカでサケ科魚類から分離されたヘルペスウイルスで、その後、日本でも分離された。サケ科魚類のヘルペスウイルス病をまとめて"サケのヘルペスウイルス感染症"とよばれている。しかし最近、血清学的な研究では、アメリカで分離されたウイルスと日本で分離されたウイルスは別種であるが、日本で分離された3種のウイルスは互いにきわめて類似していることが明らかになった。1951年頃からアメリカ、ワシントン州の孵化(ふか)場でニジマスの親魚に、毎年のように病気が発生し、その原因ウイルスが分離され、最初はヘルペスウイルス サルモニス(Herpesvirus salmonis)と名づけられたが、現在はサケ科ヘルペスウイルス1型とされている。このウイルスは最近、カリフォルニア州の川へ帰ってきたスチールヘッド・トラウト(ニジマスの降海型)からも分離された。
日本では十和田湖のヒメマス稚魚が大量に斃死(へいし)したときに、その親魚からヘルペスウイルスに属するウイルスが分離され、十和田(秋田、青森)ネルカウイルス(ネブタ:NeVTA)とよばれた。一方、北海道の日本海沿岸の孵化場で飼育されていたヤマメの親魚からウイルスが分離され、オンコリンカス マソウウイルス(Oncorhynchus masou virus: OMV)とよばれた。その後、新潟県下の養殖ヤマメの腫瘍組織からも類似したウイルスが分離され、ヤマメの腫瘍ウイルス(Yamame tumor virus: YTV)と名づけられた。また、ヤマメのほかにサクラマス(ヤマメの降海型)、シロサケ、ギンザケ、ニジマスなどに発生する口腔基底上皮腫とよばれる腫瘍の原因ウイルスもOMV、YTVである。現在、これら日本で分離されたウイルスはサケ科ヘルペスウイルス2型とされている。
症状に多少の相違があるが、どの病魚も魚体が黒くなり、ときには異常な泳ぎがみられ眼球が飛びでること、鰓(えら)が褪色し腹部が脹れること、肝臓が冒されることなどは共通している。アメリカのウイルスと日本のネルカウイルスはニジマス(スチールヘッド)とヒメマスに、OMVはニジマスとヒメマス以外にもヤマメ、サケ、カラフトマス、ギンザケなどに感受性を示した。
どのウイルスもヘルペスウイルス科のDNAウイルスで、大きさは直径約100nmの正二十面体である。外側にエンベロープとよばれる外被をもっている。増殖適温は10-15℃で、20℃以上とpH3で不活化する。なお、OMVは実験的に魚に腫瘍が誘発された最初の例として注目されている。

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