◆志賀毒素 [Shiga toxin]

 志賀赤痢菌が菌体外へ産生するタンパク質毒素で代表的な致死毒の一つとされ、最も毒性が強い細菌毒素の一つである。この毒素はA,B2種のサブユニット(生体高分子の構成成分)から成っている。この毒素は致死毒性、腸管毒性、ベロ細胞(アフリカ・ミドリザルの腎臓)やヒラ細胞(子宮癌細胞:いずれも培養細胞)への細胞毒性の3種の活性を示す。致死毒性のある毒素は動物の前後肢に麻痺(まひ)をおこし、昏睡状態のあと致死させるので、神経毒素と考えられている。この細菌の腸管毒性はコレラ菌の腸管毒素のそれに比べてかなり低いが、赤痢菌による下痢症状がこの毒素によると考えられている。また、ベロ細胞に強い毒性がある細胞毒素は、のちに病原性大腸菌の1種である腸管出血性大腸菌O157:H7も産生することが判ったベロ毒素1である。ただし、この病原性大腸菌は2種のベロ毒素(VT1とVT2)を産生する。最近、赤痢菌毒素のAサブユニットの構造がベロ毒素1のそれと同一であることが判った。ベロ毒素は動物細胞のリボゾームに作用して、タンパク質の合成を阻害し、とくに腸管細胞には強い障害をあたえて、粘血便性の下痢、腹痛、発熱などの症状が現れる。