◆ジフテリア毒素 [Diphtheria toxin]

 ジフテリア菌が菌体外へ産生するタンパク質性の細菌毒素である。ジフテリア毒素は約100年前から知られ、E.von ベーリング(ドイツ)と北里柴三郎(日本)によるジフテリア抗毒素の発見を端緒として多くの研究がなされ、細菌学や免疫学の発展の基礎となった毒素である。一方、細菌毒素としても、また、細菌のタンパク質としても、初めて純粋に精製・結晶化され、他の細菌毒素の研究のモデルとして、歴史的にも重要な毒素である。
この毒素は1本鎖のポリペプチド(アミノ酸の重合体)で、毒素(酵素)活性を担うAフラグメント(構成部分)と、感受性細胞へ結合してAフラグメントを細胞内へ運ぶ役目をするBフラグメントから成っている。どちらのフラグメントも単独では毒性を示さない。この毒素の性状や機能が詳しく研究され、全構造も決定された。ジフテリア毒素はアデノシン・二リン酸(ADP)-リボースをニコチンアミド・アデニンジヌクレオチド(NAD)から、タンパク質が合成される過程に働くポリペプチド鎖伸長因子(アミノ酸を順次結合させてタンパク質にする酵素:EF-2)へ転移させて、この酵素を不活性化させることでタンパク質の合成を阻害する。また、緑膿菌も同様の酵素を産生することが判っている。なお、ジフテリア毒素の構造はジフテリア菌のファージ(細菌ウイルス)の遺伝子DNAが発現することによって決定されるので、このようなファージをもつ溶原菌(テンペレート・ファージが溶原化して、プロファージをもつ細菌)のみがこの毒素を産生する。

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