◆人魚共通病原菌 [Human-fish common pathogenic bacteria]
ヒトと魚類に共通の病原菌をいう。多くの魚類病原菌はヒトへ感染して発病することはないが、魚類のマイコバクテリウム症菌はそれに当たる。この病原菌は最初、外国の水族館で飼育されていた熱帯魚におきた病気の原因菌として知られるようになった。マイコバクテリウム症はヒト、ウシ、トリの結核に似て、感染した魚の臓器に結核に似た結節ができる。この細菌は低温性で、ヒトに感染しても皮膚に肉芽腫または化膿性の病巣をつくるが、致死性はほとんどないので、公衆衛生上ではあまり問題にはならない。
一方、魚病の原因菌の中にはヒトの病原菌としても知られている人魚共通病原菌に類する細菌がいくつかある。ヒトに日和見感染あるいは食中毒をおこすエロモナス・ハイドロフィラは魚の鰭(ひれ)赤病菌でもあり、同属のエロモナス・ソブリアもアユなどの病原菌である。ビブリオ属細菌の中で食中毒細菌であるコレラ様の症状をおこす非O1ビブリオはアユの病原菌として、食中毒細菌ではないビブリオ・ダムセラはブリの病原菌として知られている。また、ヒトに日和見感染をおこすエドワードジエラ・タルダはウナギ、テラピア、ヒラメなどのパラコロ病菌として重要な病原菌である。この細菌は水辺に生息する哺乳類、鳥類、爬虫類などの腸内に常在していることが知られている。なお、強い神経性の食中毒細菌であるボツリヌス菌によって、欧米で養殖ニジマスが中毒死した例がある。
そのほかきわめてまれな例として、ヒトや家畜に敗血症や流産をおこすリステリア、ヒトの尿路感染症をおこすシトロバクター、腸内細菌科でまれに日和見感染をおこすエンテロバクター、ハフニア、セラチアがある。また、食中毒菌であるサルモネラ・アリゾナエなども、おもに欧米で魚類の病原菌としても報告されているが、これらの細菌が人魚共通病原菌であるかは明かではない。
魚類のマイコバクテリウム症菌
結核
結節
肉芽腫
日和見感染
食中毒 ? 魚類の鰭(ひれ)赤病菌
食中毒細菌
非O1ビブリオ
パラコロ病菌
ボツリヌス菌
腸内細菌科
サルモネラ
敗血症