第121話
九去法
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![]() 「主な目的」
計算そのものは嫌いだけども、計算できる原理について興味のある人を対象として、その原理をそれっぽく説明し、また、なるべく手をかけずに検算をする方法を考えることです。
本 文 目 次
1.どうでもいい話
2.計算地獄
3.計算の正当性
4.九去法
著者 坂田 明治
第121話 九去法
1.どうでもいい話
よく、タカが飛んでいるところを目撃するので、何とか写真に撮りたいものだ。しかし、写真を撮ろうとしても、持っているデジカメでは難しい。空中に向けたとき、デジカメの画面を見ても、レンズがどの方向へ向いているのかがさっぱりわからず、タカがつかまらない。デジタル双眼鏡なら目で追えるから、タカを写せるけれども、倍率が10倍と低く、黒い鳥にしか写らない。
デジカメは光学倍率10倍、デジタル4倍となっていて、両方で一応 40倍のため、デジタル双眼鏡よりは良い。しかし、目で対象物を追えないというのは致命的で、ほとんどまともに撮れなかった。
やっぱり、いいカメラが欲しいな。と思っていたら、洗濯機が壊れて、結局、買いなおす羽目に。これ、設計上の標準使用期間が7年とかいうことで、丁度7年経ったら壊れやがった。電気店に行って相談したら、修理に3万円以上かかり、しかも1年後にまた壊れる可能性もあるとかで、結局買いなおすことになった。おかげでカメラは無限の彼方に。頭に来たので、今回買った洗濯機を「激おこプンプン丸」と名付けた。
というわけで、よくタカが飛んでいる川の方へ行ったら、なんと、タカの大群とカラスが空中戦をやってたではないか。しめしめ、と思って写真をやたらと撮ったが、大部分は失敗で、空しか写ってなかった。画面に捉えるのが難しい上に、シャッターを押すまでにずれてしまう。それでも何枚か写真が撮れた。
写真1、写真2は、トンビのトンちゃんとカラスのカアちゃんの空中戦だ。
![]() ![]() 色々、目撃したのに、さっぱり撮れていない。まあ、カラスのカアちゃんは撃墜されなかったけどな。
写真3は、偶然、トンビのトンちゃんがこっちの方に飛んできて撮れたもの。よく失敗しないで撮れたものだと感心している。
![]() ところで、この川のこの場所は、水鳥がよく居る場所だ。写真4はカワウのウっちゃんだ。浅瀬で、みんな体は下流の方を向いて立っている。
![]() 写真5はオオバンのバンちゃんだ。
![]() カモ類はみんな仲が良いらしく、色々な種類のカモが一緒にいることが多い。写真6はオオバンのバンちゃんと、カンムリカイツブリ(リーゼントガモ)のリーゼンちゃんが、一緒に泳いでいるところ。
![]() 写真7は、カンムリカイツブリのリーゼンちゃん。ほら、リーゼントが光っている。
![]() 写真8は、ドブガモのドブちゃん。こいつらはどこにでもいるな。
![]() ここまでは、川の中央寄りのところだったけど、川の岸寄りに居るやつもいる。写真9はマガモのマアちゃんだ。
![]() 他にも、岸のそばにピッピのやつがいる。
![]() とまあ、普段はこんな具合に水鳥が沢山いるのだが、この日、トンビのトンちゃんとカラスのカアちゃんが空中戦をやっていたため、水鳥は全然いなかった。きっと怖くて逃げたに違いない。トンビのトンちゃんは、川にも入るからな。
![]() それと、写真12はトンビのトンちゃんとカラスのカアちゃんが同じ木に停まってにらみ合っているところだ。
![]() きっと、時代劇などの剣豪勝負で、「先に動いたら負ける。」という、虚々実々の戦いを繰り広げているのだろう。
2.計算地獄
その昔、多分60年位前だったと思うが、小学校で計算競技会とかいうのがありました。これ、ろくでもない試験の一種で、確か、30分だか45分だかで、
100個位の計算をさせるという極悪なものでした。そして、結果が80点以上か90点以上になった奴は、賞状が貰えたと思う。 まあ、この手のやつは、賞状を貰った時に一度だけ褒められるようです。でも、よくあるのは、できないと何かにつけ文句言われることです。例えば、「読み書きそろばん」がそうです。読み書きはともかく、そろばんについては、紙に書いて計算するよりも遅いとボロクソに言われます。
今はどうなっているのか知らないけれど、昔は、小学校の算数で、そろばんの使い方をやっていました。そろばんには、色々な珠の配置があるけど、算数で出てくるのは、珠が4個と1個のやつですね。以下、この形式のもので考えましょう。
算数の授業では、そろばんの使い方は教えるけど、なぜそれで計算できるのかは教えてくれませんでした。あの当時、そろばん塾へ行ってる奴がいたけど、こいつに聞いても、やり方ばかりで、計算できる理由はさっぱりわかりませんでした。ちなみに、この当時にあったのは、そろばん塾と習字塾だけだったと思います。
そうそう、そろばんやってた奴は、暗算がとてつもなく速く、そのせいか、こっちは何かにつけ、計算が遅くて不正確と言われていたっけなー。ついでに、関係ないのに、何かにつけ字も汚いとかなんとか言われていた。
話を元へ戻して、そろばんで、なぜ計算できるかを考えてみましょう。そろばんの珠を見れば、明らかに、5進法と2進法の不等進法ですね(不等進法については、第118話で書いている)。そして、不等進法ということが明確になると、通常の色々な計算(加減乗除)ができるようになります。
ここから先は、当時の、計算の原理がわからなかった自分自身への説明(面倒なので、足し算しかやらない)となります。そろばんをちゃんと使えるようになりたい人は、素直にそろばん塾へ通うことをお勧めします。
まず、珠を使って数字の表現を見てみましょう。 0 から 9 までの数字を珠で表現したものは図1です。明らかに、5進法と2進法の組み合わせで 0 から 9 までの数字を表していますね。
![]() 数字が表現できれば、数値の表現もできるようになります。例えば、 487 を珠で表現すると図2のようになります。
![]() 今度は、図1の数字表現を参考にして、数値が大きくなっていく様子を考えましょう。 0 から 4 までは珠の個数そのもので数値が表現できます。 5 になると繰り上がって、珠が、上の珠の位置に置かれ、下の珠はなくなります。そうして、 6 から 9 までは、上の珠と下の珠によって表現されます。さらに、 10 は左隣の位置に、 1 と同じ配置をします。このようにして、図2のように 487 が配置されます。
これを一般的にすると、数値が大きくなって行くときに、珠の位置による繰り上がりが図3のようになります。
![]() ここまでわかれば、珠の動かし方と計算が結びついてきます。例えば、 487 と 376 の足し算は図4から、図10のように珠を動かして、図11のようになります。ここでは、処理をこと細かく示しているけど、繰り上げの処理と、次の処理を合わせて行った方が簡単かも知れませんね。
![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() これはこれとして、前にも書いたように、そろばんをやってた奴の暗算は実に速い。あんなに速いのだから、とても意識下の思考回路を通しているとは思えません。おそらく、猛訓練によって、無意識化の運動機能になっているのでしょう。例えば、転んだ時に、手をついて身体を守るというようなものでしょうか。
そうそう、昔、聞いたけど、そろばん使いに、 2 の3 乗根の 3 乗がいくつになるかを質問したら、必死になって 2 の3 乗根を計算していたとのことです。なお、この話の真偽は不明です。
さて、この当時、中学校では、数学で計算尺の使い方をやっていました。計算尺を見てみたい人は、1960年代とその前後位の、洋ものの映画やドラマを見るとよいでしょう。駆逐艦や潜水艦で、航路計算や、到着時間の計算などに使っている場面があります。主に、円形の計算尺で行っていますが、司令官などが自室で、棒状の計算尺(中学の数学で使っているのはこっち)で計算している場面もあります。
確か、中学のときに計算尺部というのがあったと思います。さらに、計算尺競技会とかいうのもあったような気がします。しかも、全国大会だったような。
それはともかく、計算尺の扱いは、目盛りを合わせて、それを読み取るというものでした。詳細は、対数のことを知る必要があるが、ある程度の説明なら中学生でもできます。
最初に、2本のものさしを使って式(1)の計算をしましょう。
![]() 下のものさしを基準として、下のものさしの 2 の線に、上のものさしの 0 の線を合わせます。そうして、上のものさしの 3 の線と合っている下のものさしの線の値を読み取ります。これは、 5 なので、式(1)の結果は 5 と計算できました。
![]() 足し算ができれば、引き算も簡単ですね。自分でやってみましょう。
ものさしを使って、足し算を行うというのを前提として、計算尺について考えましょう。
計算尺では、目盛りを合わせて読み取ると、掛け算が求まります。ただし、この結果は近似値です。目視で読み取るので、読み取りの際に誤差があり、更に、対数目盛を使っているため、その目盛り自体にも誤差があります。ただし、ここでは、対数を扱いません。
あくまでも、計算尺の扱いがわかればいいので、なんとかのなんとか乗の掛け算を例としてやってみます。
![]() 式(2)を見れば、丁度、左辺の掛け算が、右辺の指数の和になっています。そこに目を付けましょう。
ものさしの目盛りの付け方を、 0 のところを 1 とし、 1 のところを 21 ( = 2 )、 2 のところを 22 ( = 4 )、 3 のところを 23 ( = 8 )、・・・ と付け替えます。要するに、元々の物差しの数字を指数に乗っけた数字に置き換えるのです。ちなみに、 20 は 1 です。こうしなければ、都合が悪くなります(式(2)で n を 0 とおけば、妥当性がわかります)。
それでは、式(3)の掛け算をやってみましょう。
![]() 下のものさしを基準として、下のものさしの 4 の線に、上のものさしの 1 の線を合わせます。そうして、上のものさしの 8 の線と合っている下のものさしの線の値を読み取ります。これは、 32 なので、式(3)の結果は 32 と計算できました。
![]() 掛け算ができれば、割り算も同じようなものです。自分でやってみましょう。
なお、電卓の普及で計算尺は壊滅してしまいました。もったいなかったと思います。
3.計算の正当性
計算はできたとしても、計算結果が正しいかどうかは別問題です。では、結果の正当性をどうやって担保しましょうか。
最初に思いつくのは、もう一度計算してみて、その結果が同じかどうかを見る方法でしょう。確かに、二度やれば、一度よりもよくなります。しかし、本人は意識しなくとも、変な癖があって、それが計算結果に反映されるということもあります。つまり、二度計算してみても、同じところで同じ間違いをして、結果が間違っていて同じというようになります。これは問題なので、二度目は別な方法で計算してみて、それで結果を確認した方がよさそうです。
それで、思いつくのは、計算結果から、逆の計算を行って、最初の数が出てくるかどうかという確認方法です。例えば、式(4)の左辺を計算して右辺になったとします。
![]() この時に、式(4)の右辺を、 456 で割って、式(5)のようになったとします。
![]() すると、結果は、式(4)の左辺の左の数になるので、式(4)の結果は正しいと判断してよさそうです。
一応、この方法はよさそうですが、計算の手間は、最初の計算とほとんど変わりなく、あまりやりたくありませんね。
4.九去法
古来より、九去法という、元の計算より楽して計算結果を確かめる方法があります。確か、中学の数学の教科書に載っていたと思いますが、今はどうなっているのか知りません。
真面目に書くと、一々但し書きをつけたりして面倒なので、合同式を導入しましょう。こうすると、九去法は非常に簡単な取り扱いができます。
合同式については、理科好き子供の広場で何回か出てきていますが、今回、ちゃんと書いておきます。
毎度のことで、文字の説明はしないので、自分で解釈しましょう。
a - b が n の倍数になるとき、 a と b は n を法として合同であると呼び、記号で式(6)のように書きます。
![]() ここで、 a - b が n の倍数になるときとしても、 a - b が n で割り切れるときとしても、どっちでも同じように見えますが、拡張性で違いが出てきます。
通常、 n は 2 以上の整数だけれど、これを 0 にまで拡張します。よく知られているように、 0 の倍数は意味を持つが、 0 で割ることはできないので、合同式は倍数表記の方が意味を持ちます。そうすると、 0 を法とするとき、 0 の倍数は 0 なので、 a - b が 0 とは、 a と b とが等しいという意味になります。
![]() つまり、合同は、等号の拡張になります。そうなってくると、等号と似た性質が期待できるでしょう。ちなみに、 n が 1 では、全ての整数が合同になってしまいます。
次に、 a 、 b を式(8)のようにおきます。(ただし、 q 、 s は余り)
![]() このときに、 a - b は式(9)のようになります。
![]() 従って、式(6)が成り立つのは、式(10)の場合に限ります。
![]() つまり、余りが等しい場合に限るということですね。
以上を踏まえ、式(11)から式(14)まで成り立つことが示せます。
![]() ![]() ![]() ![]() ここで、式(11)を反射率、式(12)を対称律、式(13)を推移律と呼び、式(14)は通常の等式のように、合同なものは、辺々足しても、辺々引いても、辺々掛けてもよいということです。
いよいよ、九去法に入ります。九去法の名前の由来となっているのは、 10 のべき乗を 9 で割った余りが 1 になることです。つまり式(15)です。
![]() そこで、 a を10進数表現しましょう。
![]() 式(16)から、法 9 の合同式をつくると、式(17)のようになります。
![]() したがって、計算結果が正しいかどうかを調べるには、左辺と右辺を10進数表示した数の各桁の数字を足して、それが法を 9 として合同になるかどうかを見ればよくなります。これを九去法と呼びます。
じゃあ、早速、式(4)で試してみましょう。式(4)の左辺を計算したものが式(18)で、右辺を計算したものが式(19)です。
![]() ![]() 式(18)と式(19)とから、式(4)は正しそうだと結論できますね。しかし、九去法では、あくまでも 9 で割った余りが等しいかどうかの判別しかできないので、これで計算結果が一致しても、本当に一致しているかどうかはわかりません。例えば、 56808 のように数字を入れ替えても、式(19)と同じ結果になってしまいます。
それでも、九去法による計算結果が一致しなければ、それは確実に、元となる計算が間違っていると言えます。
まとめると、元となる計算が合っているかどうかは九去法によって調べられ、九去法による計算が一致しないときは、元となる計算に間違いがあり、九去法による計算が一致するときは、元となる計算は正しい可能性があるということになります。
九去法は色々なところで使えるので、使い方の例として、虫食い算の例を考えましょう。式(20)は、計算結果の万の位を虫に食われて読めなくなったものです。
![]() 虫に食われた数字を x とおいて、九去法を使ったものが、式(21)です。
![]() 両辺を計算して、
![]() これを整理して、式(23)になります。
![]() ここで、 x は 0 から 9 までの数字なので、式(24)と結論付けられます。
![]() こうして、式(20)を復元したものが、式(25)です。
![]() まあ、九去法は色々と使えるので、どんな使い方があるかを考えてみるのも楽しいものです。
完
2025年3月24日
著作者 坂田 明治(あきはる)
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